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第15話 新レシピ

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 第15話 新レシピ

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 昨夜は美土里がいつも以上に乱れました。どうやら若いハンターにナンパされたのに、小次郎が思ったほどヤキモチを焼かなかったのが原因のようです。

 しかし、美土里がどんなに趣向を凝らしても小次郎は果てることはありません。おかげでいつものように美土里が先に気絶するのでした。


「精力お化け」

(鬼畜、性欲怪獣、性欲お化け、そして精力お化け……俺の称号が増えていく?)

「あたし一人では小次郎は満足できないし」

「そ、そんなことはないから!?」

 否定はするのですが、小次郎の性欲はとどまるところを知りません。

 野営していた時は控えていましたが、宿に泊まるようになって毎晩美土里は気絶を繰り返していたのです。


「そ、そうだ! 俺も剣か槍を練習しようかな」

「あからさまに話題を変えたし」

「ソンナコトナイデスヨ」

 実際にあからさまだったので小次郎もその自覚はあり、視線を彷徨わせます。


「なんで剣と槍を? 危ないし」

「一つは健康のために体を少しは動かしたいというのと、一つは美土里を守るために少しでも強くなりたいからだよ」

「小次郎があたしを守るの?」

「そうだよ。俺も男だからね、妻を守るための力はあるべきじゃないかなと思うんだ」

「嬉しいし~。コジロ~」

 素っ裸の美土里が抱きつき、柔らかな胸が押しつけられます。

 そうなると、小次郎の下半身がまた元気になるのです。

 美土里が再び襲われたのは言うまでもないでしょう。





 メトロンの町の南にある森に、小次郎と美土里は入っていきます。

「あ、薬材になる植物だ。これ、高血圧に効く薬が作れるやつだよ」

 恩恵・調剤の効果と書籍からの知識により、小次郎は薬材を見落とすことなく採取していくのでした。


「小次郎。魔物だし」

「了解」

 今朝買ったばかりのククリや鉈に似た片手用の剣を抜き、左腕に固定した小型の丸盾を構える小次郎は美土里の前に出ました。


「ウサギの魔物だし。よくいるヤツだし」

「ゴゴウサギだな。へー、額の角が帯下おりものの安定・鎮静薬になるみたい、あれ」

 女性にとってはありがたい薬効がある角ですが、書籍にも載ってないような薬材で恩恵・調剤がなかったら、見落とすところでした。


「それ、ありがたいし。作ってだし」

「了解。任せて」

 帯下おりものの安定すると子供を作りやすくなり、さらに鎮静効果で辛さが和らぐ女性の味方の薬です。

 ですが、書籍に載ってないことから、ゴゴウサギの角は捨てられているのが現状なのです。もったいないことです。


 跳びかかってきたゴゴウサギを、慌てつつも丸盾でなんとか防ぎます。

 そこに美土里が水の刃(ウォータースラッシュ)を放ち、ゴゴウサギの首を切り落としました。


「俺も少しは戦えるようだ?」

「何それ? 自分で戦えるのか分からないとか、うーけーるー」

「だって、物理的に戦うのは、これが初めてだからね」

「そういえば、そうね。でも、無理はダメだし。戦いはあたし、小次郎は頭脳だし」

 頭脳と言われるのは嬉しいが、それでは夫として情けないと思う小次郎でした。


「後ろ足のつけ根を切って血抜きをするから少し待ってね」

 魔物関連の書物に解体の手順が載っていました。

 美土里はそのまま回収して統括ギルドへ持っていきますが、ハンターは現地でこうやって血抜きをするのが一般的なのです。


 魔物の肉は食料としてしっかり食されています。中には肉に毒を持った魔物もいるため、下手な肉を納品するとマイナス評価になってしまいます。


 ゴゴウサギは毒がなく、肉が美味しいとメトロンの町で多く流通している魔物です。

 ちゃんと処理して統括ギルドに持ち込めば、それなりの金額になるものです。




 翌日、小次郎は宿にこもって薬の調剤をすることにしました。昨日森で採取した薬材がテーブルの上に並んでいます。


「調剤の器具がないものもあるから、全部は調剤できないか」

 恩恵・調剤は一度調剤したものは、二回目以降器具がなくても一瞬で薬を作ることができます。

 ですから、どうしても一度は正規の手順で調剤しなければいけないのです。


 一般的な調剤には色々な器具が必要ですが、ゴルリア・デ・ゼマード国のロザンからもらった器具は基本的なもしかありません。


「器具を揃えるのは、観光地ティグスか魔法都市ラングリッツァーにいってからかな」

 入手したエルバーニュ国の情報から、小次郎は観光地ティグスか魔法都市ラングリッツァーにいってみたいと思うのでした。

 ディグスは風光明媚な観光地であり、ラングリッツァーは最先端の魔法を研究している魔法協会の総本部がある都市です。


 単純にディグスは自分がいってみたい場所で、ラングリッツァーは美土里のためになるかと思っているのでした。


 小次郎は今は持っている器具で薬をつくります。

「ねえ、あの気持ち悪いのどうするし?」

「気持ち悪いの? ……ああ、ミズールヒルのことだね」

「ナメクジ、キモい」

「ナメクジじゃないんだけど……あれ、乾燥させないといけないんだ。それがなかなかね」

 風通しがよく、直射日光が当たらない場所で乾燥するスペースが必要になるため、すぐにどうどうこうできないのが辛いところですね。


「早く処分したいし」

「収納の中にあるから、見えないでしょ?」

「持っていると思うだけでキモいし」

 気分的なものはどうにもなりませんね。

 小次郎はお願いだと言って美土里にすり寄り、無意識に上目遣いをするのでした。

 駄目夫のような雰囲気を醸し出している小次郎に、母性がくすぐられてしまう美土里は小次郎に甘いのでした。

「もう仕方がないんだから~」




 この日の調剤は、五種類の薬を作りました。

 ハルパスの葉から高血圧低下薬、ゴゴウサギの角から帯下おりものの安定・鎮静薬、ルトロイムというキノコの一種から麻痺薬(かなり強力)、イリュスという木の実から下剤、あとはこれまで何度も作ってきた止瀉薬ししゃやくです。


 その日の午後、小次郎は美土里を連れて統括ギルドに向かいました。

 職人組合のカウンターで高血圧低下薬、帯下おりものの安定・鎮静薬、止瀉薬の三種類を提出しました。

 下剤と麻痺薬は小次郎にとって命綱になり得るものであり、あまり毒を作れることを知られたくないため提出は控えています。他の毒に関しても同じです。


 薬の査定が終わるのを待っていると、番号札の番号が呼ばれました。

「お待たせして申しわけございません。少々お話をお聞きしたいため、別室にきていただけますか」

 いきなりのことで小次郎は戸惑いましたが、美土里が軽やかに『ほ~い』と返事をして案内してもらいました。


 別室で待っていると、二人の職員が入ってきました。一人は初老の女性、もう一人は三十代の男性です。

 実は女性のほうは職人組合の副組合長で、薬師と錬金術師を統括している人物なのです。

 男性はその部下の方なのですが、この男性が問題なのです。その問題はすぐに分かることでしょう。


「お待たせして、すみませんね」

 副組合長が待たせたことに謝意を表すと、小次郎は手を振って大丈夫だと返事をします。

 こういった場に慣れてない小次郎のリアクションが洗練されているわけもなく、こんなものなのでしょう。


「今回はこちらの薬について詳しくお聞きしたくて、きてもらったのです」

 男性職員が小瓶をテーブルの上におきます。小次郎が作った帯下おりものの安定・鎮静薬が入った小瓶です。


「これは女性にとってよい薬です。ですが、このような薬があると聞いたことがありません」

 男性職員はいいものだと誉めそやしました。

 帯下おりものの安定・鎮静薬は『サリュード薬師大全集(全五巻)』にも載っていない珍しい薬であり、さらに女性にとっては喉から手が出るほどほしい薬なのです。


「これをどうやって作ったのか、お教え願いたい」

 新薬のレシピを公開するかは、開発者の意志が尊重されます。本来はそのことを説明する義務が組合側にあるのですが、副組合長たちはそれを説明しませんでした。

 小次郎は『サリュード薬師大全集(全五巻)』からその知識を得ており、二人の言動に違和感を覚えました。


「それは別の薬を作ろうとして、たまたま出来たものです。どうも調剤の工程で何か異物が混ざったみたいなのですが、その異物が何か不明でして……ですが、効果は確認してます」

 違和感を感じたことで、小次郎は正直に話すことを避けました。


「では、同じものを作ることはできないと?」

「今はできません」

 あえて今はと強調しておきます。これなら、後日作っても嘘をついたことにならないからですね。


「そうですか。では、どういった薬を作るつもりだったのか、お聞かせください」

「それは勘弁してください。意図したものと違うものを作ってしまいましたので、恥ずかしくてとても人に言えませんから」

 小次郎は恥ずかしそうに頬をポリポリと右の人差し指でかきます。


 二人はなんだかんだとレシピを聞きだそうとしましたが、小次郎は恥ずかしいと主張して教えませんでした。

 美土里は小次郎のやることを見守り、何かあったらすぐに動けるように心の準備をしているのでした。



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