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第14話 下心のある虫

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 第14話 下心のある虫

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 統括ギルドには資料室があり、組合員であれば誰でも使えるものです。

 小次郎は資料室で数日を過ごしています。その間、美土里は町の周囲で魔物を狩っていました。


「この国は悪いほうの考えが当たってしまったようだな……」

 リッシュ共和国には国王が存在するのですが、実権はありません。

 王家は祭事などを司っている家という位置づけのようです。

 実際に政治を行っているのは、十二の州から選出された評議員たちです。

 評議委員会なるものがあり、そこで国としての政が行われているのでした。


 この評議委員会なるものが曲者で、簡単に語るなら某国の共産党のようなものなのです。

 国民を支配するのが、国王から評議委員会に変わっただけで、独裁政治を行っているのでした。


「この国も早めに逃げ出したほうがいいな」

 国境を接している国は四カ国あり、ゴルリア・デ・ゼマード国以外の三カ国とは友好的な関係を築いているようなので、国境を超えるのは難しくなさそうです。


 この大陸には九カ国の国があるのですが、リッシュ共和国以外は国王か皇帝が支配しています。

 それでも小次郎は共産国よりはマシだと考えているのです。

 小次郎はとりあえず、東のエルバーニュ国に向かおうと考えました。


 薬師として得た情報は、小次郎が持っているゴルリア・デ・ゼマード国でもらった書物が三冊です。

 それらよりも詳しいまるで辞書のように分厚く多くの情報が記載された書籍があることを知りました。

「薬師だけでなく、錬金術師や医師、神官のことも載っているのか。美土里は聖女だから神官だよな? これ、ほしいな」


 受付カウンターでその書籍について聞いたところ、大きな町の書物問屋ならあるだろうとのことでした。

 ただし、残念ながら、このメトロンの町にはないだろうと言われたのです。


「分かりました。大きな町にいったら探してみます。教えてくださり、ありがとうございました」

 小次郎がほしいのは、『サリュード薬師大全集(全五巻)』です。五巻で五十万チャルになる高額な書物です。

 これは売り出された当時の値段で、値上がりしていても値下がりすることはないだろうということにございます。


「五十万チャルか……」

 それは五百万円に相当する大金です。

 この世界では印刷技術が未熟で書物は非常に高価なものです。

 特に『サリュード薬師大全集(全五巻)』のような専門的で高密度な書物は非常に高価になる傾向があります。それが五十万チャルという金額に現れているのでした。

「お金、貯めないとな」




 統括ギルドのロビーで待っていると、買い取りが終わった美土里がやってきました。

 しかし、美土里の左右に二人の男がいます。どうやら纏わりつかれているようです。

(美土里、普通に可愛いもんな……)


 自分の妻が男に言い寄られているのですが、美土里なら当然と思うのが先で嫉妬心はまるでありませんでした。

 自分の評価が低い小次郎は、むしろ美土里がモテて当然なのだと何度も頷くのでした。


「ヤッホー。待った?」

 小次郎の前で立ち止まり、美土里は気軽に声をかけました。


「なんやこいつ」

「ミドリのなんやねん、お前」

「あたしの旦那様。あんたたち、ウザいから消えて」

「「なっ!?」」

 美土里は小次郎の膝の上に座り、その首に両腕を回しました。

(えぇぇぇ……)


 小次郎はいきなりのことで声も出ません。男二人も声が出ません。

 三人の男をあわあわさせて楽しむ美土里は魔性の女です。と自分で思っているのでした。


 当然ながら……。

「ざっけんなよっ!」

「このアマ!」

 二人が掴みかかろうとしましたが、美土里はその手をパンッと払いのけました。

 それだけで二人と美土里のレベル差、武勇の差は明らかです。


「あんたたちしつこいのよ。何度断った? いい加減、人間の言葉を理解しなさい」

「「っ!?」」

 男たちはまさに激高です。顔が真っ赤になり、無意識に剣を抜くのでした。


「お前たち何してるんだ!?」

 ここは統括ギルドのロビーです。冒険者組合もハンター組合もあり、荒事に慣れた者が数多くいます。

 剣を抜いた二人は、一瞬でそういった屈強な男たちに囲まれてしまいました。


「あ、いや、俺は……」

「こ、これは……」

「「違うんだ!」」

 統括ギルド内で剣を抜いた二人は、瞬時に取り押さえられてしまいました。


「あんたたち、事情を聞きたいからこっちへきてくれ」

 小次郎と美土里も職員に事情を聞くために別室に入りました。


「―――そんなわけで、森の中からずっとつきまとわれていたし」

 美土里はハンターとして、近くの森で魔物を狩る依頼を受けておりました。

 そこにあの二人が近づいてきたのです。

 魔法使いは貴重ですし、何よりも美土里の容姿は悪くありません。

 若い男性ハンターにとって、美土里は優良物件だったのです。


 ですが、美土里には小次郎がおります。何度も断り続けたのですが、二人はしつこくつきまとってくるのでした。


「あの二人はまたそんなことを……」

 職員はどうやらあの二人のことを知っているようです。


「これまでと同じような話です。理由は承知しました」

 職員は大きくため息を吐き、小次郎と美土里に帰っていいと言うのです。

 あの二人は若い女性ハンターに声をかけるナンパの常習者だったのでした。

 そのおかげで統括ギルドに苦情がよくきていたのです。

 ですが、今回は剣を抜いて美土里たちに向けました。これは苦情では済みません。

 怪我人はいないので重罪にはなりませんが、何らかの処罰があることでしょう。


 統括ギルドを出た美土里は、振り返って建物を見上げます。

「あたし一人だと、今回のような虫が周囲を飛び回るし」

「美土里は可愛いものね」

「まったく……。そういう時は『明日からは俺がついていってやるぜ』って言うとこだし」

「あ、うん。そうか、そうだね。明日からは俺も一緒にいくよ」

「そんなにあたしが心配?」

「あたりまえだろ!」

 フフフと笑い小次郎に抱きつく美土里は、恋する乙女の顔をしているのでした。



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