第13話 定職?に就く
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第13話 定職?に就く
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小次郎と美土里はリッシュ共和国北東部の町、メトロンに到着しました。
メトロンは北にゴルリア・デ・ゼマード国、東に国境の町である水の都リバンズがあります。
さらにリバンズの先にエルバーニュ国の国境がある町です。
「なんか雰囲気が悪い町だし」
「そうだね。あの国の国境が近いからかな?」
メトロンの町はたしかにゴルリア・デ・ゼマード国との国境が近いのですが、それは山脈の頂上であります。
その先も人が住んでいない場所が広がっており、ゴルリア・デ・ゼマード国が近い国とは住人の誰も思っていないのでした。
では、なぜこうも重い空気を醸し出しているのかというと、リッシュ共和国が共産国だからです。
民は平等だと謳っておりますが、実際は一部の者が王侯貴族に変わって国を支配しているのです。
王制だった頃と大して変わっていないか、悪くなったと思う人が多いのでした。
ただ、小次郎たちはまだそれを知らないのです。
二人はこのメトロンで数日過ごして、情報を集めることにしました。
「俺は統括ギルドにいくけど、美土里はどうする?」
宿屋でゆっくり休みたかったのですが、この国の通貨を持っていないのでした。ですから、小次郎は情報収集とできれば薬を買い取ってもらいたいと思い、統括ギルドへいくつもりです。
「あたしもいくし。それにお金が入ったら消費した食料も補充したいし」
「じゃあ、二人でいこうか」
メトロンの町はそれほど大きくありません。人口は二千人程度でしょうか。《《本来は》》長閑な田舎町といった町並みです。
国は違いますが、言語は同じでした。言葉が分かるのは、とても大事なことです。
町でも一、二を争う大きな建物が統括ギルドです。行政府メトロン支部(旧領主の屋敷)といい勝負の建物ですが、実は少しだけ小さいのです。
行政府メトロン支部より大きくすると、何かと軋轢が生まれることから配慮してのことです。
「すみません、こちらで薬を買い取っていただけると聞いたのですが」
「はいはい。組合証はお持ちですか?」
受付の年配の女性に声をかけると、柔和な微笑みを浮かべて対応してくれます。
「持っていません。登録しないと駄目ですか?」
「登録してなくても大丈夫ですが、買い取り価格は組合員のほうが高くなりますね」
組合員が査定価格そのままの買い取りに対し、非組合員は七十パーセントになってしまうと説明を聞きます。
「組合員になると、それなりの義務が生じます」
「その義務というのは、なんですか?」
「薬師の場合は職人組合に入ることになりますが、まず年会費を納めてもらいます。それから組合から緊急時に職人組合もしくは統括ギルドから依頼を出すことがあります。その依頼は断ることができません」
「緊急時というのは、具体的にどういったことでしょうか」
年会費は理解できるのですが、強制依頼はどういったことか。それが分からないと、軽々に判断はできないと小次郎は思ったのです。
「緊急時というのは、魔物や盗賊などの退治作戦などが多いですね。他にも統括ギルドや職人組合が緊急と判断する場合がありますが、それはその時にならないと分かりません」
老職員は緊急事態がそんなにあったら困りますねと、苦笑するのでした。
「登録されると、ライフカードに組合員と表記されます。以後、ライフカードが組合証になります」
つまり、ライフカードを提示しないといけないということです。小次郎は迷いましたが、ここはゴルリア・デ・ゼマード国でないことからライフカードの提示することにしました。
ゴルリア・デ・ゼマード国だと小次郎の居場所がライドック四世に知られる可能性を考慮する必要がありますが、さすがにリッシュ共和国なら大丈夫かなと、なんの保証もない安心感を持ったのでした。
「登録は有料ですか?」
「登録は無料ですが、年会費の納入が必要になります。職人組合に登録しますと、最初は五級職人になります。五級職人に登録されますと、半年以内に年会費を納付していただきます。年会費は五万チャルになります」
チャルとはこのリッシュ共和国の通貨になります。
ゴルリア・デ・ゼマード国のゲルドとほぼ同価値になりますが、当然ながら小次郎たちはリッシュ共和国の通貨は持っていません。
クラスが薬師の人は、何も裕福な人ばかりでありません。貧民でも等しくクラスを持つこの世界では、ポンと五万チャルを払える人ばかりではないのです。そういったことを想定し、組合側も半年という猶予を持たせていました。
また、統括ギルドに所属する各組合には、上は一級から下は五級まで階級があり、登録直後は皆五級になります。そこから実績を詰んでいき、四級、三級と昇級するのです。
職人組合の階級が上昇することで、より利益のある生産が難しい薬の納品依頼を受けることができるようになります。
小次郎はライフカードの氏名以外を非表示にしたものを職員に渡し、登録を行いました。
別のカウンターでは、魔物の素材を売却しようとしていた美土里も、ハンター組合員じゃないと査定額の七十パーセントだと言われ、ハンター組合に登録することを決めたのでした。
こちらも氏名以外を非表示にしており、召喚された英雄だとは気づかれませんでした。
ハンター組合は登録料も年会費も不要でした。討伐依頼や護衛依頼を受けることで、他の組合や国、貴族といったところから報酬が出ているからです。
また、ハンター組合にも緊急依頼がありましたが、三級以上が強制になります。こちらは命に係わることのため、下級のハンターに強制はないらしいのです。
「薬の査定をしますので、ご提示ください」
小次郎の対応は、引き続き老職員が対応してくれます。
小次郎は止瀉薬、解熱剤、鎮痛剤の三種類を、それぞれ小瓶で十本を提出しました。
査定では品質や薬効、そして有効期限などを調べております。
「査定しますので、しばらくお待ちください」
番号札をもらって長椅子に座って待とうかと思ったら、美土里も同じく番号札を持ってやってきました。
二人で長椅子に座ってお互いの情報交換をしました。
「へー、ハンターは四級以下は緊急依頼がないんだね。職人のほうは五級でも緊急依頼があったよ。美土里は昇級できても四級で止めたほうがいいかもね。変な依頼に巻き込まれてもあれだし」
「あたしもそう思っていたし」
職人は仕方ないが、命に係わるハンターは緊急依頼に関わり合いにならないほうがいいだろうと、二人は判断しました。
情報交換していると、小次郎の番号が呼ばれました。査定は意外と早く終わったようです。
「お待たせしました。どの薬も品質に問題はありませんでした。買い取り額は止瀉薬が十本で二万チャル、解熱剤が十本で三万チャル、鎮痛剤は十本で五万チャルになります」
これが適正価格かは小次郎にはわかりませんが、今は現金がほしいため了承します。
それに統括ギルドが組合員を騙す可能性は低いでしょう。他の土地の支部で価格が違うと大きな問題になるからです。もちろん、土地固有の需要があり、それに沿った価格設定はあるでしょうが。
小次郎は年会費の五万チャルを今回得たお金から支払い、残りを受け取りました。
美土里と合流します。美土里のほうは十五万チャルだったそうです。
「家庭内収入格差が……」
できれば、小次郎が美土里を養いたいと思っていただけに、小次郎が落ち込んでしまいました。
「落ちついたらあたしの分は貯蓄に回して、小次郎のほうで生活すればいいし」
「美土里は見かけによらず、家庭的だね」
「何それ、見かけによらないって、あたしを莫迦にしてるわけ?」
「そんなんじゃないよ! 美土里が家庭的で嬉しいと思ったんだ!」
頬を膨らます美土里に、両手を振り慌てて否定しました。
決して莫迦にしているわけではないのです。容姿と合わないというだけなのです。
先入観だと小次郎も思ったため、誠心誠意謝りました。
どう見ても美土里の尻に敷かれているようですが、これは最初からなので問題ないでしょう。