第11話 初めての戦闘
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第11話 初めての戦闘
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小次郎と美土里は、南西方面に向かって道なき道を進んでおります。じゃんけんで美土里が勝ち、リッシュ共和国へ向かうことにしたのです。
シャイドー伯爵領の領都で大雑把な地図を購入した際に聞いたのですが、通常は西へ向かって沿岸部に出てから南下するらしいのです。
ですが、小次郎と美土里は直線的に南西へ向かい、いくつもの山と谷を越えてリッシュ共和国へと進んでいるのでした。
「天気はいいし、絶好のピクニック日和だし~」
美土里の背を超える草が生い茂っているのに、呑気なものです。
「美土里は呑気だな。まあ、命を狙われるなら、俺だけだけどさ……」
「大丈夫。小次郎はあたしが守るし」
「それは男の俺のセリフなんですけど」
「古っ」
「古って……まあ、いいけど……」
「とりあえず、あそこの岩のところで休憩するし」
百メートルほど歩き、尖った巨岩の下で休憩します。岩陰で腰を下ろし、小次郎は大きく息を吐きました。
「水要る?」
「ああ、頼むよ」
革水筒は持ってきていますが、魔法の稽古を兼ねて美土里が水を出してくれます。
「本当に便利なものだね」
小次郎は木のジョッキから溢れそうなくらいの水を受け取ります。
「これで食べ物が出たら、言うことなしだし」
「そうなったら、なんでもありだな」
旅で困ることがなくなると、二人して軽やかに笑い合います。
地図を広げ、今いる場所を確認します。
「今ここだから、あっちへ向かえばOKだ」
「こんな地図、本当にあてになるの?」
前の世界にあったような精密な地図なら美土里も心配にならないでしょうが、さすがにラフすぎる地図に不安を隠せません。
「ないよりはマシ、って感じかな」
その時、小次郎は木のジョッキを地面にゆっくり置き、立ち上がりました。
「どうしたし?」
「美土里。戦闘準備」
「……りょ」
美土里が周囲を注意深く見渡すと、数体の魔物に囲まれていました。
「ヘビ?」
土の色に紛れる薄茶色の細長い体をくねらせ、近づいてきます。その長さはざっと十メートル。太さは三十センチメートルほどでしょうか。魔物というより大蛇といった大きさのヘビです。
「たしかボルデーヌシュラーゲンという魔物だったはずだ」
「よく知っているわね」
「追放が決定していたから、そういった本を読んでいたからね」
一週間で追放が決まっていた小次郎は、調剤する材料がなくなると、出来る限り多くの雑学を学ぼうとしていたのです。
「毒は持ってないけど、防御力が高く動きも速い。それに巻き付かれたら最後、体中の骨を砕かれて丸飲みにされるぞ」
「りょ」
「俺は左の一体を引きつけるから、美土里は他の四体を頼めるか」
小次郎は無理せず、まずは一体を確実に相手どることにしました。その分、美土里に負担をかけますが、彼女なら大丈夫だと思ってのことです。
「りょ! トルネド!」
美土里は先手必勝とばかりに、魔法を発動させました。
地面を抉りながら竜巻がボルデーヌシュラーゲンに迫ります。
ボルデーヌシュラーゲンはトルネドが危険と感じたのか、進路を左に大きく変えました。
一方、小次郎は薬師の戦闘スタイルについて、考えていたことを試すことにしました。
ベルトにつけてあるフォルダーを開け、小瓶を取り出します。小瓶の中には赤紫色の液体が入っていました。
「指向性散布」
薬師のレベルが十五になった際に覚えた指向性散布は、小次郎が持っている薬を一定範囲内に散布する恩恵です。
これは薬を直接体内に入れることが正しい使い方なのですが、敵に毒を使う際にも使えると小次郎は考えました。
特に小次郎の指向性散布は『Ex』であり、非常に広い範囲に精密な散布が可能なのでした。
ボルデーヌシュラーゲンが身をよじって苦しみ出しました。
小次郎が持っている小瓶内の液体は、ここまでの旅の道程で採取した毒の材料を調剤したものです。
「トリカブト系のアルカロイド毒を発見しておいて良かった~」
ボルデーヌシュラーゲンは次第に動きが悪くなり、完全に動かなくなりました。
ボルデーヌシュラーゲンが毒ヘビでしたら、その素材から毒を調剤できるのですが、毒を持っていない種です。
さて、小次郎がボルデーヌシュラーゲンに気づけたのは、レベル十で覚える薬材感知を使ったことで反応があったからです。
その反応が動いていなければ、さすがに小次郎もボルデーヌシュラーゲンに気づくことはなかったでしょう。
小次郎がボルデーヌシュラーゲンの死亡を確認し、美土里に視線を移すとすでに戦いは終わっておりました。
「うわー、スプラッターだ」
美土里によってボルデーヌシュラーゲンは細切れにされており、見るも無残な姿になっていました。
「ヘビなんて気持ち悪いから、近づけたくなかったんだもん」
「その気持ちは分かるけど、魔物を狩ってお金に換えるんなら、倒し方を考えないとね」
「うっ……これからは気をつけるし」
「いい子だね」
素直な美土里の頭を撫でると、彼女の頬が赤く染まります。
ボルデーヌシュラーゲンから入手した素材から、強力な止血剤が調剤できました。
さすがにアルカロイドで倒したボルデーヌシュラーゲンの素材は使えませんでしたが、美土里が倒したボルデーヌシュラーゲンからは辛うじて採取できたのでした。
「その茶色の粉が薬なの?」
「そうだよ。これは止血剤だから、怪我をして血を止めたい時はこれを飲むといいんだ」
「ふ~ん」
美土里はあまり薬には興味ないようです。