ー第3話オレンジエア
まるで砂利道を走っているように、下から
バラバラ
バラバラ
と音がして、上下左右に揺れる。
キューティクルは眠れなかったが、メンディーはぐっすり眠ってイビキまでかいている。
ドミー機長は、それを見て笑う。
数時間が過ぎ、メンディーは
「ギャー!」
と云う悲鳴で目覚めた。
目の前に貨物機が迫っている。ドミー機長は操縦悍を目一杯前に倒している。貨物機はコックピットの上をギリギリで通り過ぎた。
「オレンジエア!横田管制!ニアミス!」
ドミー機長が叫ぶ。
メンディーは思わず、副操縦士側の操縦悍を右に切ってしまった。ドミーの操縦悍も連動している。機体は右旋回を始める。すると、通り過ぎた貨物機が右に現れた。
ドミー機長がメンディーを突き飛ばして、操縦悍を戻す。無線がヘルメットの中でわめく。
ーカーゴカリフォルニア123!コリュージョンコースに入った。回避!回避!ー
突き飛ばされたメンディーは、シートベルトをしているのに、天井に左手を突いてしまった。
その瞬間
シュボッ
と音がして、前方に円筒系の物が発射された。しばらく直進して右旋回して、貨物機に向かった。
ーこちらオレンジエア。カーゴカリフォルニア123。ノースカーゴ575は操縦困難。そちらで回避を!ー
円筒系の物は、貨物機に吸い込まれた。ドミー機長は操縦悍を手前に引いて、左足をヨガの行者のように使って、エンジンを全開スロットルにする。
貨物機は下に行き、爆発した。
ドンッ
下から突き上げられる。
その衝撃で、メンディーは操縦悍に覆い被さってしまう。機体は左旋回から降下して、爆発した貨物機の発する煙に突っ込む。
ドミー機長が開けていた三角窓から煙が流入する。キューティクルがどこからか、酸素マスクをつかんで、自分が被り、メンディーにも被せた。ドミー機長の分は無かったようだ。
ドミー機長がツイストゲームのように、手足を使って機体を立て直す。
「オレンジエアって何?」
ドミー機長はけたたましく笑い始めた。
「ワハハハハハハ!横田空域はオレンジで表記される。クッフフフフ!横田空域から来たのはオレンジエアと呼ぶぅ!あいつは北朝鮮の貨物機ぃフフフフ!大麻を積載能力を越えて積んでいるぅ!だから回避できましぇん!」
「この煙は?もしかして?」
「もしかしなくてもぉドヒャヒャヒャヒャヒャ大麻でゅえぃすぅ」
英語の無線が入る。見るとF16戦闘機が左右並走していた。
ーカーゴカリフォルニア123。尾翼が無い。このまま横田に着陸せよー
ーこちら横田管制。最優先で横田にアプローチできます。横田にアプローチしますか?ー
ドミー機長は完全にラリっている。メンディーが日本語で言う。
「機長が煙を吸い、操縦不能。アンコントローラブル!スコーク77を宣言する!」
ースコーク77了解。これからは日本語で管制するー
「尾翼が無いって戦闘機が言ってる!」
ー了解。カーゴ123、着陸コースから外れていない。そのまま、操縦悍の角度を維持。スピードを落とさず胴体着陸で止める。ギアダウンするなー
「死んじゃうよぅ」
ー落ち着け。多分燃料は残っていない。減速材を滑走路に敷き詰めた。止まる。信じろ!ー
「ふぁ~い!」
ー機首を上げる。気持ち操縦悍を引け。ラリってる機長に、フラップを下げて、スロットル60%と言ってみろ!ー
メンディーはポルトガル語で言った。
「了解!ファッふぁふぁふぁふぁ」
ドミー機長は多分、フラップを下げた。そして左足でスロットルを戻した。
機首が上がり、気持ち機体は安定した。
滑走路の灯火が迫って来る。滑走路脇にたくさんの赤色灯が見える。
ガンッ
機体後部が接地したようだ。
ーエンジンストップ!リバース!ー
「了解!エンジンストップからのリバース!」
ドミー機長がやってくれた。
ドンッ
と機首が落ち接地する。
機体は滑走路上に胴体着陸して、走っている。リバースが効いて、スピードが落ちる。
が。機体が右に向いて行く。
滑走路の右に寄れて行き、滑走路を外れた。
激しく揺れる。
永遠と思える時間が過ぎ、機体は止まった。
「ドォウァハッはぁ!イジェクションタァーイムー」
ドミー機長はメンディーとキューティクルの座席射出ボタンを押そうとする。高度が足りないと落下傘が開かないと云うヤフー知恵袋の記憶が脳内を駆け巡る。
2人とも必死でシートベルトを外し、シートから転げ落ちた。
シートが射出され、窓の外で
バンッ
と落ちるのを見届けた。
後部の裂けた機体の隙間から、ひんやりした機外に降りる。ドミー機長は大爆笑しながら射出されて、シートごと地面に激突して黙った。
太陽が昇り始めた。目の前に倒れている石が有るのが見えてくる。
「甲府石」
キューティクルが石に刻まれた文字を読んだ。
その根元にポッカリ穴が開いている。メンディーは穴の中を覗いた。サッカーボール台の木箱が有り。
ー日本帝国陸軍最重要機密ー
と焼き印が入っている。
メンディーは穴から取り出し、キューティクルに見せた。キューティクルはゆっくりうなづいて、前方を指差した。
横田基地のフェンスが有り、錆びて裂けている。
メンディーとキューティクルは、裂けたフェンスに全力疾走した。