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扉をくぐると、そこは森だった。
って、また森?
ここは、疑似アマンじゃないよね?
一番後ろから来ていたアルテミシアがくぐると、扉はすっと消えてしまった。
日は傾きかけている。
もうそろそろ夜になる少し前くらい。
僕らはきょろきょろと辺りを見回した。
それから、誰からともなく、歩き始めた。
僕らは夜目は効くし、夜の森を歩くことも、それほど苦手じゃない。
もちろん、夜は昼間よりは危険だから、野営をすることも多いけど。
さっき、ずいぶんのんびり休憩もしたし、取り立てて相談したわけじゃないけど、多分、みんな、もうしばらくは行ってみるつもりだったんだと思う。
ブブは、ぶぶぶぶぶと羽音をさせながら、僕にぴったりとくっついて飛んでいる。
ちょっと、歩きにくい。
手で、僕の髪をぎゅっと掴んでいるから、下手に動くと、けっこう痛い。
「ねえ、ブブ。
髪を掴むのはやめてくれないかな?」
「は~~~い。」
ブブはいいお返事をして、即座に僕の耳を掴み直した。
「…ぃゃ、あの、耳も、やめて?」
「は~~~い。」
ブブはちょっと考えてから、僕の首に前掛けみたいにぶらんとぶら下がった。
「…いや、あの…」
どうあっても、僕にくっついてないとダメ、ってわけ?
ブブは自分の羽で飛んでいるからか、それとも、使い魔ってのはとてつもなく軽いのか、重さは感じないんだけど。
前にこんな、そこそこ大きな幼児をぶら下げてたら、歩きにくいことこの上ないよね。
「仕方ねえな。」
見かねたのかルクスは手を伸ばしてきてブブを僕の首からむしり取った。
途端に、ブブは、いやあ~~~!と叫ぶと、手足をばたつかせて大暴れを始めた。
「こらこら。暴れるな。」
ルクスは手こずりながらも、ブブを抱え直すと、僕の肩の上にひょいと乗せた。
「きゃあ~~~!!!」
ブブの歓声が聞こえる。
ついでに、僕の髪をくしゃくしゃに撫で回すのも。
小さな手が、興奮したみたいにぺちぺちと、僕の額を叩いた。
ぁーーーーー…
めちゃくちゃ、喜んじゃってるなあ。
まあ、首にぶらぶらさせてるよりは、マシか。
僕はそのままブブを肩車していくことにした。
重さは感じないからべつに辛いこともないけど。
首回りはちょっと、あったかいな。
「ここは、どこなんだろう?」
アルテミシアは当然の質問をした。
「さあなあ。」
もちろん、それを分かってる人なんて、いない。
と思ったんだけど。
「トゥーレ!」
いきなり僕の頭の上でブブは叫んだ。
「え?トゥーレ?って、あの、トゥーレ?」
王都の隣村。って言っていいのかな。
荒野を挟んで王都からは割と近くにあった村だ。
以前は、荒野に棲む怪異に困らせられていた村、だった。
「あっち!」
ブブは僕の髪を掴んで、ぐい、と僕の顔をそっちへむけた。
すると、木々のむこうに、細い煙の立ち上るのが見えた。
「あ。
炊きの煙だ。」
あれのあるところには、必ず、人の営みがある。
「行ってみよう。」
そう言うより早く、ルクスは歩き出していた。
それにしても、ブブってば、幼児かと思えば、トゥーレをちゃんと知ってたり、やっぱり不思議だ。
まあ、子どもじゃなくて、使い魔だからなあ。
目印もあったし、僕らは迷うこともなく、そこへ辿り着けた。
そこは、トゥーレの村にあったゲストハウスだった。
入口に回って、僕らは扉を叩いた。
とんとんとん。
すると中から、警戒したような声が言った。
「誰だ?」
「あーっと…僕です。
前にここでちょっとお世話になった…」
答えようとした僕を引き留めて、ルクスが前に出た。
「俺だ、村長。ルクスだ。」
「ええっ?
ルクス様っ?」
すぐさま勢いよく扉は開いた。
扉の前に立っていた僕は、思わず弾き飛ばされるところだった。
寸前にブブが僕の髪を掴んだまま後ろに飛んでくれたから、助かったけど。
それにしても、ブブ、すごいね?
よく、僕を持ち上げたなあ。
その羽、そんなに力、あるんだ。
ブブの手も、軽々と髪の毛掴んだだけで僕を持ち上げるなんて。
というか、持ち上げた、わけじゃないのかな?
髪を引っ張られる感覚はなかったし。
魔法の力場ごと動いた、って感じ?
まあそうか。
ブブって、ただの子どもじゃなくて、使い魔だもんね。
僕がブブに感心している間に、ルクスは村長さんとの再会を果たしていた。
互いに肩を叩きあって喜んでいる。
そっか。
ここって、ルクスの旗揚げの地、だったんだ。
「ルクス様、よくぞご無事で…」
村長さんは、笑いながら泣いていた。




