3
みんなまだそう遠くには行っていないだろう。
今ならまだ追いつけるはず。
僕らは仲間たちを追いかけようと必死に走った。
一晩、眠っていなかったけれど、疲れは感じなかった。
食事を摂ることも忘れて、ただただ、走った。
だけど、仲間たちはどっちへ行ったのか、その手掛かりすら見つからなかった。
あれだけ大勢が移動したのに。
足跡ひとつ、気配ひとつ、残されてはいなかった。
僕らは、置いて行かれたんだ。
掟破りは即追放。
幼いころから叱られるたびにそう言われたけど。
僕の知る限り、本当に追放された仲間なんていなかったし。
本当に、こんなことになるとは思っていなかった。
最初に体力が尽きたのは僕だった。
もう歩けない。そう思った途端、膝から力が抜けて、よろよろと地面に座り込んでいた。
一度、座ってしまったら、もう立てなくなった。
「…ごめん…僕のせいだ…」
僕は首からかけた土笛の紐を引きちぎると、遠くへ放り投げようとした。
その手をそっと後ろから引き留めたのは、アルテミシアだった。
「取りに戻ろうと言ったのは、俺たちだ。」
僕を見下ろしてルクスは言った。
「大丈夫。
少し休んだら、また探そう。」
アルテミシアはそう言って、僕から土笛を取り上げると、引き千切った紐をもう一度結び直して、僕の首にかけてくれた。
水を飲み、レンバスを齧った。
味がしなかったけれど、少し休んだら、足はまた立てるようになった。
「いったん野営地に戻るか。
闇雲に探したって森は広いし、この先の道は俺たちもよく知らない。
どっちに行ったか手掛かりを探して、丁寧に追うほうがいい。」
ルクスの意見には僕らも賛成だった。
野営地に戻るのも簡単ではなかったけれど、そこはなんとかやり遂げた。
けれど、その時にはもう、日暮れが迫っていた。
この森に僕らの敵になるような生き物はいなかったし、僕らは夜目も効くほうだ。
このまま夜通し探し続けることは不可能じゃない。
だけど、アルテミシアは、今日はもう無理をしないで休もうと言った。
朝、追いかけてきたときには気づかなかった。
というか、それどころじゃなかったんだけど。
僕らの荷物は野営地に残されてあった。
一通りの道具があるのは助かったけど。
これはやっぱり、本格的に置いて行かれたのかもしれないと、不安はいっそう強くもなった。
とりあえず、僕らは手分けをして水や食料を集めてくると、小さな火を炊いて、食事を用意した。
昨日からろくに眠っていないし、食事もまともに摂っていなかった。
へとへとに疲れていたんだ、って、そのときになって気づいた。
僕らは小さな焚火の周りに、ぐるりと取り囲むように座った。
こんな時だけど、右と左にルクスとアルテミシアがいることが、こんなに安心なんだって僕は思った。
「笛、吹いてよ。」
アルテミシアに言われて、僕は土笛を吹いた。
いまいましい笛だけど、やっぱり、嫌いにはなれない。
森の中に笛の音は遠く響いていった。
「この音を聞いたら、誰か、迎えに来てくれないかな。」
ぽつりとルクスが言った。
「もう十分、反省したからさ。
お仕置きはこの辺にしといてくれないかな。」
今までも、いろいろ叱られて、お仕置きもされてきた。
だけど、いつもそれは許されて、済んでしまえばまた元通り、だった。
「…ごめんね。僕のせいで…」
僕はうつむいたまままた謝った。
「だから、それは違うって。
もう謝るな。」
ルクスは怒ったみたいに言った。
「まさか、本当に置いて行かれるとは、思わなかったなあ。」
アルテミシアはどこか遠くを見つめるようにして言った。
「ちょっと長めのお仕置きを受けてるだけだ。
明日には追いつくさ。」
ルクスはみんなを元気づけるように断言した。
だね?とアルテミシアも笑って、さっさと地面に横になった。
「さあて、寝よ、寝よ。
明日も朝、早いよ?」
だな、とルクスも横になった。
「もう笛はいいから、お前も寝ろ。
明日は今日よりたくさん歩くぞ?」
僕は慌てて二人の真似をして地面に寝転んだ。
僕ら三人、いつも一緒だった。
森のなかで野宿したことだって、何回もあった。
だけど、その夜は、いつもの野宿とはちょっと違っていた。
不安で心細くて、目を閉じるのが怖かった。
すると、ごそごそとアルテミシアが近寄ってきた。
アルテミシアは僕の隣にくると、小さい子どもにするように、よしよしと頭を撫でた。
「大丈夫だ。
いいから寝ろ。」
いつの間にか、反対側にはルクスもいた。
ルクスは僕ごとアルテミシアまで抱えるように腕を伸ばした。
「おやすみ。」
アルテミシアは静かに言った。
両方を友だちに囲まれて、僕は安心して目をつぶった。
気が付くと、すっかり夜は明けていた。
ルクスもアルテミシアももう起きていた。
ふたりとも、仲間たちの行った方角の手掛かりはないかと、あちこち調べていたみたいだった。
だけど、やっぱり、手掛かりのようなものは、見つからなかったみたいだった。
「とりあえず、ここに居たって仕方ない。
まずは、手あたり次第、行ってみるとするか。」
結局、ルクスがそう決めて、僕らはまた歩き出した。