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みんなまだそう遠くには行っていないだろう。

今ならまだ追いつけるはず。


僕らは仲間たちを追いかけようと必死に走った。

一晩、眠っていなかったけれど、疲れは感じなかった。

食事を摂ることも忘れて、ただただ、走った。


だけど、仲間たちはどっちへ行ったのか、その手掛かりすら見つからなかった。


あれだけ大勢が移動したのに。

足跡ひとつ、気配ひとつ、残されてはいなかった。


僕らは、置いて行かれたんだ。


掟破りは即追放。


幼いころから叱られるたびにそう言われたけど。

僕の知る限り、本当に追放された仲間なんていなかったし。

本当に、こんなことになるとは思っていなかった。


最初に体力が尽きたのは僕だった。


もう歩けない。そう思った途端、膝から力が抜けて、よろよろと地面に座り込んでいた。

一度、座ってしまったら、もう立てなくなった。


「…ごめん…僕のせいだ…」


僕は首からかけた土笛の紐を引きちぎると、遠くへ放り投げようとした。

その手をそっと後ろから引き留めたのは、アルテミシアだった。


「取りに戻ろうと言ったのは、俺たちだ。」


僕を見下ろしてルクスは言った。


「大丈夫。

 少し休んだら、また探そう。」


アルテミシアはそう言って、僕から土笛を取り上げると、引き千切った紐をもう一度結び直して、僕の首にかけてくれた。


水を飲み、レンバスを齧った。

味がしなかったけれど、少し休んだら、足はまた立てるようになった。


「いったん野営地に戻るか。

 闇雲に探したって森は広いし、この先の道は俺たちもよく知らない。

 どっちに行ったか手掛かりを探して、丁寧に追うほうがいい。」


ルクスの意見には僕らも賛成だった。


野営地に戻るのも簡単ではなかったけれど、そこはなんとかやり遂げた。

けれど、その時にはもう、日暮れが迫っていた。


この森に僕らの敵になるような生き物はいなかったし、僕らは夜目も効くほうだ。

このまま夜通し探し続けることは不可能じゃない。

だけど、アルテミシアは、今日はもう無理をしないで休もうと言った。


朝、追いかけてきたときには気づかなかった。

というか、それどころじゃなかったんだけど。

僕らの荷物は野営地に残されてあった。

一通りの道具があるのは助かったけど。

これはやっぱり、本格的に置いて行かれたのかもしれないと、不安はいっそう強くもなった。


とりあえず、僕らは手分けをして水や食料を集めてくると、小さな火を炊いて、食事を用意した。


昨日からろくに眠っていないし、食事もまともに摂っていなかった。

へとへとに疲れていたんだ、って、そのときになって気づいた。

僕らは小さな焚火の周りに、ぐるりと取り囲むように座った。

こんな時だけど、右と左にルクスとアルテミシアがいることが、こんなに安心なんだって僕は思った。


「笛、吹いてよ。」


アルテミシアに言われて、僕は土笛を吹いた。

いまいましい笛だけど、やっぱり、嫌いにはなれない。

森の中に笛の音は遠く響いていった。


「この音を聞いたら、誰か、迎えに来てくれないかな。」


ぽつりとルクスが言った。


「もう十分、反省したからさ。

 お仕置きはこの辺にしといてくれないかな。」


今までも、いろいろ叱られて、お仕置きもされてきた。

だけど、いつもそれは許されて、済んでしまえばまた元通り、だった。


「…ごめんね。僕のせいで…」


僕はうつむいたまままた謝った。


「だから、それは違うって。

 もう謝るな。」


ルクスは怒ったみたいに言った。


「まさか、本当に置いて行かれるとは、思わなかったなあ。」


アルテミシアはどこか遠くを見つめるようにして言った。


「ちょっと長めのお仕置きを受けてるだけだ。

 明日には追いつくさ。」


ルクスはみんなを元気づけるように断言した。


だね?とアルテミシアも笑って、さっさと地面に横になった。


「さあて、寝よ、寝よ。

 明日も朝、早いよ?」


だな、とルクスも横になった。


「もう笛はいいから、お前も寝ろ。

 明日は今日よりたくさん歩くぞ?」


僕は慌てて二人の真似をして地面に寝転んだ。


僕ら三人、いつも一緒だった。

森のなかで野宿したことだって、何回もあった。

だけど、その夜は、いつもの野宿とはちょっと違っていた。

不安で心細くて、目を閉じるのが怖かった。


すると、ごそごそとアルテミシアが近寄ってきた。


アルテミシアは僕の隣にくると、小さい子どもにするように、よしよしと頭を撫でた。


「大丈夫だ。

 いいから寝ろ。」


いつの間にか、反対側にはルクスもいた。

ルクスは僕ごとアルテミシアまで抱えるように腕を伸ばした。


「おやすみ。」


アルテミシアは静かに言った。

両方を友だちに囲まれて、僕は安心して目をつぶった。


気が付くと、すっかり夜は明けていた。

ルクスもアルテミシアももう起きていた。

ふたりとも、仲間たちの行った方角の手掛かりはないかと、あちこち調べていたみたいだった。

だけど、やっぱり、手掛かりのようなものは、見つからなかったみたいだった。


「とりあえず、ここに居たって仕方ない。

 まずは、手あたり次第、行ってみるとするか。」


結局、ルクスがそう決めて、僕らはまた歩き出した。





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