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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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光る虫たちがいると闇は近寄ってこなかった。

僕らはおっちゃんに案内されて、安全に村まで辿り着いた。


それにしても、こんなところで、会うなんて。

何年ぶりだろう。

ずっと、どうしてたんだろうか。

話したいことはいっぱいあって、それを考えてたら、怖かったことも少し忘れてしまっていた。


村の周りには明々と篝火がたくさん炊いてあった。

隙間があかないように、光で囲ってある感じ。

あの闇は、光があると入り込めないらしいから、あれはきっと、闇への一番の対抗策なんだろう。


村の入口には、不思議な形の木の門があった。

人が三人くらい縦に並びそうな高い柱が左右にあって、その間に、横木が一本だけ渡してある。

柱の間には扉もなにもないから、これで門の役割を果たしているのかなって、ちょっと不思議だった。


不思議な門をくぐると、そこに大勢の村人たちがいた。

みんな心配そうにざわざわと話していた。


虫使いのおっちゃんを見て、村の人たちは、ほっとしたように出迎えてくれた。

肩を叩いたり、笑いかけたり、とても親し気な様子だった。


心地よい人々のざわめきを聞きながら、僕もようやくほっとした。

それから、はっと気付いた。

このざわざわした感じは、村の人たちだけのものじゃない。

ここにはエエルもいる!


耳をすませると、エエルたちの歌が聞こえてきた。

なんだか、久しぶりにエエルの声を聞いて、ものすごくほっとした。

たった一日だけだったはずなのに。

もうずっと、エエルの歌を聞いてないような気になっていた。


エエルの歌は聞き慣れない調べで、すぐには一緒に歌えそうになかった。

もう少し、よく聞かなくちゃ。

だけど、今はとても疲れていて、エエルの声に集、中…


あ、れ?


僕の中で、なにかが、かちっと鳴ったようだった。

それは、匠の作るなにかの装置の歯車と歯車が合ったときの音みたいだった。


ふらっとして、次の瞬間には、ゆっくりと世界が斜めになっていった。


あ………


僕の周りに光る虫たちが集まってくる。

まるで、光のお布団にくるまれるみたい。

ふわっと心地いい感触に包まれて、幸せになって…

そのまま僕は気を失っていた。


気が付いたら、寝台に寝かされていた。

例のごとく、平原の民の寝台は僕らには小さいから。

寝台は二台並べてあった。


「やあ!お目覚めかい?」


見開いた目に最初に映ったのは陽気なオルニスだった。

僕はほっとして思わず言っていた。


「お腹すいた。」


オルニスは目を丸くして、それからちょっと呆れたみたいに笑った。


「気が付いて最初に言うのがそれかい?

 まあ、元気になった証拠か。」


それから僕の背中に腕を入れて起こしてくれた。


「ここは、目的地の村、だよね?」


僕はオルニスに尋ねた。


確か、村に着いたところまでは、覚えてるんだ。

ここにはエエルもいて…


僕はずっと聞こえているエエルの歌に耳をすませた。


そうだ。このちょっと聞き慣れない歌の調子。

慣れてないからすぐには笛で合わせられないなってちょっと思った。

昨夜も聞いたエエルの歌だ。


もちろん、じっくり聞けば、そのうちに合わせられるとは思う。

ここのエエルたちと一緒に歌うのが楽しみだな。


「なんだ。まだ目が覚めてないみたいだね。」


エエルの歌に気をとられていた僕を、オルニスはぼんやりしていると思ったみたい。

いや、もしかしたら、オルニスの言ったことを何か聞き逃したかな?


「おっちゃんは?」


僕はオルニスを見て尋ねた。


「あの、僕らを助けてくれた人?」


「そう。」


「なんか、村の人たちと話しがあるとか言ってどこかへ行ったけど。

 君が目を覚ましたら、呼んでくれ、って。

 だけど、呼ぶって、どうやったらいいんだ?」


「ああ!」


僕はいつも胸にいるブブを探した。

だけど、賢いブブは、もうそこにはいなかった。


「多分、もう、行ってくれてると思う。」


「って、あの、君の胸にいつもくっついてる虫?」


「うん。

 ブブはね、あのおっちゃんからもらったんだ。」


僕はブブとは話したことないんだけど。

おっちゃんはブブと話しもできたはずだ。

もしかしたら、今頃、積もる話でもしてるのかもしれない。


「あの人は、いったい、何者なの?」


「あの人は…」


僕はオルニスにおっちゃんのことを話した。

どこから話したらいいか分からないくらいいろんなことがあったけど。

相変わらず要領を得ない僕の話しを、オルニスは根気よく聞いていた。


「…まあ、悪い人じゃないだろう、とは思ったけどね。

 僕らも助けてもらったわけだし。」


聞き終えたオルニスはそう言ったけど、ちょっと胡散臭そうに僕を見た。


「最初に遭ったとき、処刑されかかってたって?」


「そうなんだ。

 畑を荒らす悪い虫を使う罪人としてね。

 もちろん、それは誤解だったわけだけど。」


「虫を使う技、なんて、初めて聞いたよ。

 あれは、なんの秘術なんだろう?」


「どうなのかな。

 おっちゃんは森の民に育ててもらった人だから。

 もしかしたら、その森の秘術だったのかもね?」


「森の民の秘術?

 それにしたって、初耳だよ。」


森の民は、あっちこっちの森に分散して暮らしてて、森の民同士でも、余所の一族とはあまり関りを持たない。

だから、それぞれの一族に伝わる秘術は、かなり違ってることも多い。


「まだまだ、世界は僕が思ってるよりずっと広いってことかなあ。」


オルニスはそう言って笑った。


そのとき、扉の、ばたん、って開く音がした。


「坊ちゃん、お目覚めですか?」


そう言って顔をのぞかせたのは、虫使いのおっちゃんだった。

























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