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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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そんなことがあってから、数日後。

僕はそろそろ次のエエルを送らなくちゃなあって思ってた。


オルニスは毎朝、僕を迎えに来てくれる。

そうして、一緒に山の民の研究室に行っていた。


「ねえ、オルニス。

 そろそろ、僕、またあの魔法、やらなくちゃって思ってるんだけど。」


ルクスに会う予定とか、その後、ちょっと落ち込んじゃったりとか、いろいろあって、なんだか延ばし延ばしになっちゃってたけど。

もっとも、前みたいに、切羽詰まってる状況でもないから、まあ、べつに、そんなには問題もないんだろうけど。


オルニスは僕の顔を見て、それはちょうどいい、って言った。


「僕も、そろそろ、一度、ピサンリのところへ戻ろうって思ってたんだ。

 宿の主人とのレシピの約束のこともあるし。

 ピサンリに頼まれた物もあるしね。

 魔法の間の君のお世話は、まんじゅうお化けに頼めるってもう話しはしてある。

 行ってきても、構わないかな?」


「それは、もちろん。」


眠ってる間のことまで手回ししてくれるなんて、流石オルニスだ。


「で、さ。

 それなら、ちょうどいいって思ってさ。」


「ちょうどいい?」


何か楽しいことを考えててるときの顔をするオルニスに、僕は恐る恐る尋ねた。


「何がちょうどいい?」


「君、あの魔法使うんなら、また大精霊のところへ帰るんだろ?

 なら、また、ピサンリに話しかけてもらえないかな?」


「ピサンリに?

 だけど、あれは、あんまりうまくいかなくて…」


ピサンリは僕に話しかけらたこと、夢かなにかだと思ってるみたいだし。


「大丈夫。

 今度は僕がいるから。」


オルニスは自分を指差して言った。


「だからさ、僕があっちに着いたころを見計って、魔法を使ってほしいんだ。」


「なるほど!」


僕はオルニスのアイデアに感心した。


「つまり、君がピサンリに、今、僕が話しかけてるんだよ、って言ってくれるってわけ?」


「そうそう。

 それなら、もしかしたら、会話も成り立つんじゃないか、って思ってさ。」


「ピサンリ!

 君ってなんて素晴らしいんだ。

 それは素敵な考えだよ。」


僕はピサンリに抱きついた。


「そんな手間をかけてくれるなんて。」


「手間ったって、どのみち、行くついでだからね?」


ピサンリはちょっと笑って肩をすくめた。


「まあ、これも、僕らの実験?になるんじゃないかって、思ってさ。」


「そうだね!

 それは是非、一回やってみたいよ!」


こうして僕らはその、実験、をやってみることになった。


その日の昼にはオルニスはもうそそくさと出発してしまった。

いつものことだけど、旅の準備、とか、しなくても大丈夫なのかな。

ピサンリに頼まれた買い物とかあるって言ってたけど。

そういうのは、もう、早々に用意してあったらしい。


僕も、なんとか大急ぎで、スパイスをいくつか買ってきて、それを持って行ってもらうことにした。

オルニスの出発がお昼過ぎになったのは、それを待っていたせいかもしれない。

それがなかったら、さっさと朝には出発していたのかも。


前に借りた伝令用の早馬を、今回も借りることができた。

そういう根回しも、さっさと済ませてあった。

馬は研究院の厩舎に繋がれていて、すぐさま出発が可能だった。


「三日あれば着くと思うんだけど。

 念のため、四日後に、あの魔法を始めてくれるかな?」


「あの魔法、始めてすぐに、大精霊のところへ行けるわけじゃないかもしれないけど…」


「構わないよ。

 そのまま、君が現れるまで、僕はピサンリのところに留まっているから。

 そうだ、合図を決めておかなくちゃ。」


オルニスは、うーん、と腕組みをして考え込んだ。


「合図?って、なんの?」


「君がさ、話しかけてる、って合図。

 何かさ、合言葉を言って、それが合ってたら、間違いなく君だ、って分かるじゃないか。」


「………そんなこと、しなくても、分かる、んじゃないかな……」


「いやいや。

 こういう秘密作戦には、合言葉、大事でしょ。」


オルニスは人差し指を立てて振ってみせた。

…秘密作戦、って…

なんかオルニス、楽しそうだね。


「そう?

 じゃあ、何か、決めておこうか。」


「山!川!とか、当たり前過ぎて面白くないよね?」


いやいや。それでじゅうぶんだと僕は思うよ?


「やっぱさ、僕らだけのオリジナル、って必要だよね。

 そうだな…

 木の実、ときたら、パイ、ってのはどう?」


なんか、こだわってるね?


「あ。うん。いいと思う。」


答え方がちょっと適当過ぎたのか、オルニスはじろっと僕を睨んだ。


「って、何、そのやる気のなさは。

 じゃあ、それに、追加。

 ミッドナイト、と、シェード。

 いいかい?」


「分かった。ミッドナイトシェードね。」


「全部言ったらダメだよ?

 ミッドナイト、って言ったら、シェード、ね?」


「分かったよ。」


「なんか楽しいな。わくわくしてきちゃった。」


オルニスはすごく楽しそうで、それならまあ、いいっかって思った。







 














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