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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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元気になったら一緒に食事でも、って言ってたルクスだけど、僕が元気になっても、なかなかその機会はなさそうだった。


アルテミシアはひどく申し訳なさそうにその事情を説明してくれた。


「ごめん。

 朝食も昼食も夕食も、それから、朝と昼のお茶の時間も。

 みんな百日以上先まで予定が入っているんだ。」


僕はほうと思わず唸った。


「流石ルクスだ。

 忙しいなら仕方ないよ。」


アルテミシアは言いにくそうにしながら続けた。


「ひとつ、提案なんだけど。

 待っていてくれるなら、この部屋に滞在してくれて構わないし、その間に王都の見物でもどうかな?」


宿代とかご飯代とかやっぱり心配だし、そう言ってもらえるのは助かるんだけど…


「…ごめん。

 流石に僕もそんなに長く帰らないわけにはいかないよ。

 ピサンリにはひと月くらい、って言って出てきたのに、もう既に、そのひと月よりも帰りが遅くなってしまっているし…

 これ以上遅くなって心配かけたくないんだ。」


「だよね?」


アルテミシアは僕の返答は予想通りだったのか、仕方なさそうにため息を吐いた。


「本当にごめん。

 せっかく遠くからわざわざ会いにきてくれたのに。

 ルクスもどうにか都合をつけようと、いろいろやってみたんだけどさ。」


ルクスのためになんとか事情を説明しようとするアルテミシアを、僕はむしろ気の毒に思った。

僕はルクスもアルテミシアも悪く思うなんてことないから、そんなに必死にならなくてもいいのにと思った。


「遠くからわざわざ会いに来てるのは、僕だけじゃなくて、他のお客さんたちも一緒でしょ?

 みんなそんな苦労をしても、ルクスに会いたいんだよね。

 僕だけ特別扱いってわけにはいかないよ。」


アルテミシアは僕の目をじっと見つめて言った。


「君は特別な人だよ。

 あたしにとっても。ルクスにとっても。」


「有難う。

 そう言ってもらえただけでじゅうぶんだ。」


真剣な顔をしてそんなことを言ってくれるアルテミシアが僕には嬉しかった。


「だけど、アルテミシアも、もうずっとここにいてくれてさ。

 僕、それも、すごく申し訳ないって思ってるんだけど。

 アルテミシアだって、とても忙しいんでしょう?」


「あたしはいいんだってば!」


ちょっと怒ったようにアルテミシアは言った。

だから僕は、ごめん、を言うのはやめにした。


「うん。

 有難うアルテミシア。

 僕、とっても、嬉しかった。」


アルテミシアはちょっとびっくりした顔をして僕を見ていたけど、仕方ないな、ってふうに笑った。


「まったく…君にはかなわないよ。

 君のことは、あたしからもルクスに伝えておくよ。

 といっても、あたしも、そんなにルクスと話せる時間はないんだけどね?」


アルテミシアでも話せないのかあ。

本当に忙しいんだなあ、ルクス。


「ところでさ。」


僕は気になってたことをアルテミシアに尋ねてみた。


「ここに来たときに申し込んだ謁見の順番だけど。

 あのとき、あと十日くらいで会える、って言われたんだよね。

 明日ちょうどその十日目のはずなんだけど。

 あの申し込みはまだ、有効なのかなあ?」


「謁見?

 さあ、そっちはどうかな…」


アルテミシアは首を傾げた。


「オルニスの怪しい言い訳のせいで、申し込みを取り消されてなければ、いいんだけど。

 もっとも、そのおかげでアルテミシアに見つけてもらえたんだから。

 僕としては、オルニスには感謝すべきなんだろうなあ。」


あ、そうだった、とアルテミシアは思い出したみたいだった。


「いや、取り消すようにとは言わなかったから、まだその申し込みは有効なんじゃないかな。」


だけど、とちょっと気の毒そうな目をして僕を見る。


「謁見ってのは、本当に、少しの時間しかないんだ。

 せいぜい、挨拶程度、かな。

 しかも、王座の前に立ったまま話すんだ。

 君にそんなことをさせるなんて…」


「僕はいっこうに構わないよ。

 ほんの少しだけでも、ルクスと直接話せるんなら。」


「むぅ…」


アルテミシアはちょっと唸ったけど、すぐに、仕方ないな、とため息を吐いた。


「君も早く帰らなくちゃならないなら、今回はそうしようか。

 だけど、またきっと会いに来てくれるよね?

 そのときは、先にルクスの予定をあけておくから、その日に合わせて来てほしい。」


「次はそうさせてもらうよ。

 今回は突然来ちゃってごめんね?」


アルテミシアはむぅと唸った。


「次は、ルクスには何をしても、君のために、一日、あけさせるから。」


「そんなこと、勝手に約束しちゃっていいの?」


強く言うアルテミシアに僕は苦笑した。

アルテミシアは、ふん、と強く頷いた。


「構わないよ。

 ルクスだって、きっとそうしてくれって思ってるから。」


「アルテミシアは、昔から、僕らのことなら、なんだって分かっちゃうもんね。」


昔から、そうだった。

アルテミシアはなんだって僕らのことお見通しだったんだ。


「いや、本当、今回はいきなり来た僕もいけなかったんだ。

 ごめんね?

 次はちゃんと、手順を踏むから。」


「昔馴染みの友だちに会うのに、そんな手順もくそもない、とあたしは思うんだけどね。」


アルテミシアはちょっとため息を吐いた。


ルクスは立派になって偉くなってしまったんだなあ、って思った。

ちょっと遠い人になった気がした。













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