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目を覚ますとオルニスが僕の顔を覗き込んでいた。


「おはよう。

 お目覚めは如何かい?」


「あ…

 有難う、助かったよ。

 待っててくれたの?」


「そろそろ起きるころだと思ってさ。

 あ、心配いらないよ?

 昨日まではたーっぷり王都見物を楽しんだからさ。」


「それは、よかった。」


オルニスは僕がからだを起こすのに手を貸してくれた。


「無理しなくていいよ。

 水は、飲むかい?」


オルニスはエエルの溶けた水の入った瓶を振ってみせる。

瓶にはまだ水はたくさん残っているようだった。


「あ。ちゃんと足りたみたいだね?よかった。」


「いや、これ、十本目なんだ。

 いいからケチらずに、たくさん飲ませろって、言われてさ…

 たくさん買ってくれたんだよ。」


「へ?言われた?買って、くれた?」


よく見ると、床にはエエルの水の瓶がずらっと入った大きな箱が置いてあった。


その辺りになって、ようやく僕は、部屋全体を見回す余裕を取り戻していた。

白くて清潔な部屋だけど、見覚えのない場所だ。


「あ、れ?

 ここ、どこ?」


そのとき、ばんっ、と乱暴に扉の開く音がして、カツカツ、と甲高い足音を立てながら、誰か部屋の中に走り込んできた。


「目を覚ましたって?

 大丈夫かい?」


その声に、半開きだった僕の目は、いきなりぱっちりと開いた。


「アルテミシア?」


開いた僕の目に映ったのは、懐かしい人の姿だった。


アルテミシアは有無を言わせず、いきなり僕に抱きついた。


「来るなら来ると連絡すればいいのに。

 謁見の順番に並んだんだって?

 君なら、そんなのに並ばなくったって、いつだって、会いにきてくれていいのに。」


「だって、ずるはだめでしょ?

 みんな、ルクスに会いたいのは同じなんだから。」


「まったく、君って人は…」


ぎゅって抱きしめられる。

ふわってアルテミシアの匂いに包まれる。

僕の世界はアルテミシアに染まって、幸せだ。


「奇妙な謁見の申し込みがあった、って、衛兵から連絡があってさ。

 なにやら、王様に直接伝える秘密があるとかなんとか、怪しいことを言う森の民だ、って。

 危険かもしれないから、謁見の申し込みを取り消したほうがいいかって聞かれたんだよ。」


「ああ!あれは、オルニスが適当なことを言ったから…」


僕がちらっとオルニスの方を見たら、オルニスは慌てて視線を逸らせた。


「でも、そのおかげで、君たちに気づけたんだ。

 謁見希望者の名前を見たとき、どれだけ驚いたことか。」


「なんだ、じゃあ、あれ、かえってよかったんじゃないか!」


オルニスは途端に元気になると自慢げに胸を張った。


「連絡先の宿に行ってみたら、君は眠ったっきりで。

 このままあと七日は目を覚まさないって言われたから。

 仕方なく、ここへ連れてきたんだ。」


「ここは、どこなの?」


「研究院だよ。

 あたしは今、ここで働いているんだ。」


そっか。


アルテミシアはちょっと拗ねたみたいな目をして僕をじっと見た。


「君に会うために、あたしたちは七日待ったよ?」


「それは、ごめん。」


慌てて謝ったら、すぐににこっと、鮮やかな笑顔になった。


「嘘だ。

 いいんだ。

 君がどれだけ大事なことをしてくれているのか、あたしたちもちゃんと分かってる。」


「…あの魔法、分かっててくれたの?」


「当たり前だろう?

 崩壊寸前だったこの世界に、突然、エエルが溢れだして。

 定期的に、エエルの波は世界を覆っていった。

 そのたびに、世界は安定して、それから豊かになっていった。

 それは君がしてくれたことだろう?」


「僕は、なにもしてない。

 大精霊と、大精霊を召喚してくれたヘルバのおかげだよ。」


「大精霊?

 この大きなエエルの源は、そのお方なのか。」


「うん。

 とっても、えっと…チャーミング、な方だよ。

 すぐに寝ちゃうけどね。」


僕はついさっきまで会っていた大精霊を思い出して笑った。

もう少し、起きててくれると助かるんだけどなあ。


「魔法って、なかなかうまくいかないけど、大精霊にいろいろと教わりながら、僕もやってみたんだ。」


アルテミシアは僕の顔をしげしげと見つめた。


「君はやっぱりすごい人だよ。」


「すごいのはルクスとアルテミシアだよ。

 噂は聞いてるよ?

 風のエエルたちが教えてくれたんだ。

 っと、僕にじゃなくて、大精霊に教えてくれたのを、大精霊が僕に教えてくれたんだけどね?」


僕は正確に言い直してから、ちょっとばつが悪くなって笑った。

アルテミシアは、もしかしたら、僕のこと、ちょっと誤解してるかもしれないけど。

僕、そんなに立派にはなってないから。


「ふたりとも、すごいよね?

 僕、鼻、た~かだかだよ!」


僕は昔みたいにアルテミシアに甘えて抱きしめようとした。

けど、なんかちょっと違和感があって、すぐに手を引っ込めた。


うん?

なんだろう?


力いっぱい抱きしめたら、なんだか、アルテミシアを壊してしまいそうな気がしたんだ。


そのとき、もう一度扉がばんっと開いて、さっきよりもっとどかどかと靴の音がした。


「起きたって?

 おい、大丈夫なのか?

 俺に会いに来たんなら、直接来いよ。

 お前が起きるの、ずっと待ってたんだぞ?」


それは、よく知ってる声より、ちょっと低くなっていた。

だけど、やっぱり、よく知ってる声だ。


「ルクス!」


僕は叫んでベットから下りようとした。

けど、まだ力が入らなくて、転げ落ちそうになった。

その僕をルクスはものすごい早業で駆け寄って抱きかかえてくれた。

その腕の力強さに、思わず僕はどきっとした。


ルクスは僕をベットに戻しながらちょっと眉をひそめた。


「相変わらず細っこいな。

 ちゃんと、飯、食ってるか?」


「もちろん、ちゃんと食べてるよ?」


「そっか。

 まあ、いいや。」


すぐ目の前にいる人は、ものすごく懐かしくて、けど、どこか見知らぬ人のようでもあった。

ルクスの腕はすごく太くなっていて、肩にも胸にもしっかりと筋肉がついていた。


「よく来たな。

 ゆっくりしていってくれ。」


ルクスはそう言って僕の肩をぽんぽんと叩いた。

その掌の分厚さに、僕はまたちょっとどきっとした。


「目が覚めたって聞いたから、会議、放り出してきたんだ。

 悪いけど、すぐに戻らなくちゃ。

 からだがもう少し回復したら、一緒に飯でも食おう。」


それだけ言うと、ルクスは、そそくさと部屋を出て行ってしまった。

ものすごく忙しそうだと思った。


「まったくルクスときたら、相変わらず一方的だな?」


アルテミシアはそう言って苦笑した。

僕は首を振った。


「ううん。

 ふたりとも、すごく忙しいんだよね。

 アルテミシアも、ごめんね?

 こんなところにいてもいいの?」


「あたしはあいつよりは自由のきく立場だから。

 それに、せっかく来てくれた君のこと、ルクスだって、本当は、もっと一緒にいて、もてなしたいって思ってると思うよ。」


そっか。

その言葉だけでじゅうぶんだ。


「有難う。

 僕、ふたりの邪魔になるんじゃないかって心配だったんだけど。

 やっぱり、来てよかった。」


アルテミシアはちらっと笑って、僕の頭を昔みたいに撫でてくれた。

その手つきは、すごく懐かしくて、やっぱり昔のまんまだった。


「目覚めたばかりはまだ動けないんだろ?

 早く元気になりなよね?

 元気になったら、あっちこっち、案内してまわるよ。」


「それは楽しみだ。」


僕は、なるべく早く元気になろう、って、思った。











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