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王都じゃ、森の民も、そんなには珍しくはないみたい。

ちらちらと、だけど、マントを被った姿を見かける。

ここに来るまでのように、森の民だからって、人に囲まれたり、ものをもらったりすることはなかった。


「それにしてもさ。

 僕ら、森の外を歩くときって、このマント被るけどさ。

 これって、森の民ですって、わざわざ言ってるみたいで、かえって目立つんじゃない?」


「あ。それ、僕も思った。」


本当に、こんなすっぽりマント被ってるのって、森の民くらいなんだよね。


「だけど、こんな街中じゃなくて、荒地とか歩くには、このマントがないと辛いよね。」


「ああ。影のないところね?

 それは確かに。」


あの初めて森を出たとき。

荒地の日差しの厳しさには、ずいぶん難儀したものだ。

とうとう行き倒れて、そこをピサンリに助けてもらったんだっけ。


僕はまたピサンリを思い出して、ちょっと淋しくなった。


「ねえねえ。

 ピサンリになにか、お土産買いたいんだけど?」


ちょいちょいと袖を引っ張って言ったら、オルニスはにやにや笑った。


「さっき着いたばっかりなのに、もう、お土産?

 まあ、いいけど。」


「ピサンリ、なにがいいかなあ?

 珍しい食べ物とか、あと、花の種とか、いいかも。

 ピサンリ、花壇を作りたい、って言ってたから。

 前にさ、ピサンリの住んでた村にはどこの家にも花壇があってさ。

 村中、花がいっぱいで、すごくきれいなところだったんだ。」


僕はあの村のことを思い出して、ちょっと懐かしい気持ちになった。


「花の種か。

 じゃあ、帰りにそれを見に行くか。」


オルニスは笑ってたけど、僕の希望は叶えてくれるみたいだった。


王城へ行く人はけっこう大勢いて、川みたいに人の流れができていた。

流れについていくと、謁見受付、ってところに自然に辿り着いた。

受付の前には、あの門の前よりも、もっと長い行列ができていた。


「すごいな、これ。

 前に来たときより、もっと多くなってる。」


オルニスは行列を眺めて感心したみたいに言った。

並ぶのは大変だなって思ったけど、それでも、僕はなんだか嬉しくなった。


「これみんな、ルクスに会いにきた人たち?」


「だと思うよ。」


「流石だね。相変わらずすごい人気だ。」


だけど、この人たち全員と会うなら、僕らの順番はなかなか来そうにないなとも思った。


往復するだけなら、ひと月くらい、のはずだった。

だけど、謁見の順番を待たなくちゃいけなければ、ひと月じゃ帰れないかもしれない。

ピサンリ、心配するかな?


だけど、このまま会わずに帰ってしまったら、何しにきたのか分からないし。

とりあえず、大人しく待つしかない。

けど、なんとかして、ピサンリに、遅くなることを伝えられないかな。


ピサンリだけじゃない。

大精霊にも、あの魔法をお休みするのは二回って言ってたけど。

もうちょっとお休みしないといけない、って、伝えられないかな。


エエル自体は、足りなくなる心配はなさそうだけど。

黙ってお休みするのは、少し、心苦しい。


で、ふと、気づいた。

あの魔法って、現身の僕はどこにいたって、可能なんだ。

もしかして、ここから、できないかな?


七日間眠りっぱなしになるけど、幸い、宿も取れたことだし。

その間、オルニスには迷惑をかけるかもしれないけど、基本、寝かしておいてくれれば問題ない。

あ、でも、泉の水がないんだっけ?

それだけ、なんとかならないかな…


「どうした?

 そろそろ順番が回ってくるよ?」


オルニスに袖を引っ張られて我に返った。


「ああ、ごめん。

 ちょっと考え事をしていてさ。」


「考え事?

 それより、さっき通った人の話してたのが聞こえたんだけど。

 この辺だと、謁見まであと十日くらいかかるらしいよ。」


オルニスはちょっとため息を吐いたけど。

十日?

それは、けっこう、ちょうどいい日数だな、って僕は思った。


今の僕は睡眠も栄養も足りているし。

明日の朝いちばんにあの魔法を使ったとして、そこから七日。

謁見の日は起きて二日目になるから、ちょっとふらついているかもだけど。

話しをする間くらいは、起きてられるんじゃないかな。


あとは、泉の水だ。


多分、普通の水でも、飲ませてもらえば、大丈夫な気もするけど…


水ねえ、水、水。


泉の水ってのは、アマンのエエルがたっぷり溶け込んだ水だ。

つまりは、ここの水にも、エエルをたっぷり溶け込ませれば…


う、ん?

そのくらいは僕、できるんじゃないかな?


うん。できそうな気がしてきたぞ?


そう思った瞬間、さっきよりもうちょっと強く、袖を引っ張られた。


「ほら、ぼーっとすんな、って。

 順番、次だぞ?」


あ。はいはい。


とりあえず考え事は横に置いといて、先に謁見の申し込みをしよう。


順番がきて、僕らはふたり並んで、緊張して受付の人の前に立った。

受付の人はゆっくりと穏やかな口調で僕らに話しかける。

どうやら、名前とどこから来たのかと謁見の目的を話せ、と言われたみたいだった。


話せない僕の分も、オルニスが話してくれる。

僕はとりあえず黙ってオルニスの隣にいて、うんうん、と頷いていた。


だけど、オルニスは、ふと途中で止まって、僕のほうを振り返った。


「なあ?

 謁見の目的、はなんにする?」


「え?旧い友だちに会いに来た、じゃダメなの?」


「それじゃ、なんか、格好つかないんじゃないか?」


「格好つける必要あるの?」


こそこそと相談してたら、受付の人にちらっと睨まれた。

オルニスは慌てて、なにか答えた。

すると、さらに受付の人になにか質問された。

オルニスは困ったように僕を振り返った。


「大事な進言ってのは、なんだ、って聞かれた。」


「は?へ?

 大事な進言って、なに?」


「いや、だからさ。

 僕ら、王様に大事な進言をしに来ました、って言ったんだ。」


「なんでそんなこと言ったの。

 余計なこと言わないで、もう正直に言おうよ。」


僕は困った顔になったけど。

オルニスは何か思いついたみたいで、いきなりにやっと笑って、受付の人にむかって何か言った。

すると、受付の人は、思い切り訝し気な顔になって、オルニスのことをちらっと見てから、小さなため息をひとつ吐いて、それから何やら札を一枚、手渡してくれた。


「よし。

 うまくいった。

 さあ、花の種、見に行こうか。」


札を受け取ると、オルニスは上機嫌で僕の腕を引っ張った。

どうやらこの札が受付完了のしるしらしい。

僕らはとりあえず、謁見の申し込みはできたみたいだった。


「って、大事な進言、どう言ったの?」


僕は気になって、急ぎ足で歩くオルニスの腕を引っ張って尋ねた。

オルニスはまたにやっと笑って、僕の耳元で、秘密を打ち明けるように声を潜めて言った。


「それはさ、本当に大事な秘密だから、王様本人に直接にしか言えません、って、言った。」


は?

よくそれで通してもらえたね?

僕は、あの受付の人の訝し気な目の理由が、よく分かると思った。


どう考えても、怪し過ぎるだろ。

もっとも、そんなんでも通せって、ルクスなら言っておくのかな。

ルクスって、そもそも、人を疑ったりしないもんね。

きっと、受付の人だって、こんな怪しいやつは通したくない、とか思ってても。

王様があんなだから、仕方ないから通してくれたんだ。


確かに僕らは、ルクスに危害なんて加えるつもりはないし。

単に昔馴染みの友だちに会いにきただけなんだけど。

僕はこっそり受付の人に心のなかで謝っておくことにした。

 













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