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王都は巨大な城壁に囲まれた街だった。

こんな大きな壁は見たことがない。

大きな壁には、大きくて立派な門がついていて。

そこの前には、ずらりと長い行列ができていた。


門のところには鎧を着た兵士が何人かいて、王都に入る人たちに何か尋ねている。

あれを通過しないと、中には入れないようだった。


「これみんな、王都に来た人たちかなあ?」


僕らも順番に並びながら、辺りを見回した。

やっぱり平原の民が多いみたいだけど。

ちらほらと、森や山の民もいる。


森の民はたいてい、ずらっと長いマントを頭からすっぽり被っているんだけど。

ひょろりと背が高いので、分かってしまう。


山の民は大人数の集団で、わいわいと、何やら楽しそうに話していた。

山の民の言葉は、森の民とも平原の民とも違っているみたいで、聞こえてきても、何を話しているのかはさっぱり分からない。

ただ、妙に楽しそうで陽気な人たちだなってのは、見ていてよく分かった。


列はなかなか進まない。

僕らは馬車だから、まだ座っていられるけど、立ったまま並んでいる人たちは大変だなって思う。

なかには地べたに直に座っている人たちもいるけれど。

荷物に座ったり、準備のいいことに、敷物を持ってきている人もいた。


山の民たちも、進まない列を気にするみたいに、ちらちらと前を見たりしていたけど。

ひとりが背負い袋からなにか棒みたいなものを取り出した。

いったいどういう仕組みなのか、するするとその棒が伸びて、それをぽきぽきと折ったら、あっという間に椅子になっていた。


「うわ。すごい。」


「え?なにが、すごい?」


思わず呟いたら、オルニスが反応して、僕の見ているほうを一緒に見た。

そうして、即席の椅子を円く並べて、いきなり宴会を始めた山の民に目を丸くした。


「本当だ。すごいなあの人たち。

 え?あの椅子もテーブルも、どこから出したんだ?

 なんか、みんなカップ持ってるけど。

 うわ。いきなり、乾杯か。」


そう。いきなり彼らはそこで宴会を始めてしまったんだ。


周りは驚いて見ている人もいるんだけど。

彼らはまったく、気にしていない。


するとそこに、とことこと小さな男の子が近づいていった。

親はいない。

大丈夫かな。


心配になって目を離せないでいると、山の民のひとりが男の子に気づいた。

何か話しかけるけど、ひげで表情は分からない。

怒っているようには見えないけど。

男の子も、山の民の言ってることは分からないのか、きょとんとしている。


すると山の民は男の子にむかって、なにやら手招きのような仕草をした。

男の子はすたすたと山の民に近づいていく。

僕はどきどきして、思わず、届くはずもないのに、男の子を連れ戻しに行こうと身を乗りだしかけた。

そしたら馬車から転がり落ちそうになって、オルニスがあわてて捕まえてくれた。


それでも目だけはふたりともその男の子を見ていたんだけど。

まったく物怖じせずに、男の子は山の民に近づいていった。

山の民のもじゃもじゃのひげの間から、小さな目がきらきら光っているのが見えた。

それは優し気に笑っているようだった。


あ。大丈夫だ。


まだどきどきはおさまらなかったけれど。

山の民は、近寄ってきた男の子の頭をよしよしと優しく撫でると、持っていたカップを差し出した。

男の子はカップを受け取って中を覗き込むようにした。

すると、ぽんっ、とカップの中から、花が飛び出した。


「うわっ!」


同時に叫んだ人は、僕の周りにも大勢いた。

オルニスはもちろんだけど。

他にも、もっとたくさん。

かなりの人数が男の子のことを心配して、見守っていたらしかった。


男の子は、いきなりカップから飛び出した花にびっくりしたみたいだけど。

すぐに、けらけらと明るい声で笑い出した。

男の子の笑い声に応えるみたいに、カップの中からは、ぽんっぽんっと次々に花が飛び出す。

男の子がますます喜ぶと、山の民は、そのカップを持って行っていい、という身振りをした。


するとそこへ、男の子の母親らしき人が駆け付けてきた。

男の子は自慢げに山の民にもらったカップを母親に見せたけど。

母親は男の子の頭を抑えて、何度もぺこぺことお辞儀をしていた。


それに、山の民は、笑って、いい、いい、と言うように手を振ってみせる。

それから、男の子のほうに、もう一度、手を振った。

男の子が手を振り返すと、山の民は、にこにことまた手を振る。

周りにいた山の民の仲間が、なにやら笑って声をかけていた。

男の子は母親に何やら叱られながら、花の飛び出すカップを嬉しそうに持って去っていった。


「なんだか、面白そうな玩具だね?」


オルニスは男の子のもらったカップに興味津々みたいで、じっと見つめていた。


「あれ、どうなってるんだろ?」


「さあ。分からない。

 けど、魔法の気配は感じなかったなあ。」


もしあれが魔法なら、エエルの動きを感じるはずなんだけど。

今ここで、魔法を使った気配はまったくなかった。


「ふうん。魔法じゃないのに、あんな魔法みたいなことできるんだね?」


「不思議だよね。

 どうなってるのか、僕も知りたいよ。」


それにしても、あんな玩具を作って、それを持ち歩いているなんて、山の民ってのは面白そうな人たちだ。


「最初は怖そうな人たちかと思ったんだけどさ。」


「あ、それ、僕も思った。」


「思ったより、いい人みたいだね?」


「うん。それ、僕も思った。」


男の子に気を取られているうちに、列はだいぶ進んでいたらしい。

山の民たちも、椅子をしまって、順番に備えるみたいに並び直した。


門のところいた兵士たちは、僕らに平原の民の言葉で話しかけた。

オルニスは、それにゆっくりと何か答えている。

二言三言なにやら言葉を交わすと、兵士は、行っていい、みたいに、門の内側を指差した。


「いいってさ。

 でも、王様に面会を希望してる人は大勢いるから、何日か順番を待たなくちゃならないみたいだ。

 どこか宿をとって、休むとしようか。」


「宿?」


「この街には宿もたくさんあるからね。

 森の民の旅人もいるし、言葉の通じるところもある。

 僕が前に来たときに泊まった宿はなかなかよかったから。

 あそこにまた泊まれないか、行ってみよう。」


「分かった。

 よろしくお願いします。」


オルニスが連れて行ってくれた宿屋は、由緒のありそうな趣深い宿だった。

入り口の看板には、後ろ脚で立つ太った小馬が描かれていた。


幸い、宿には空き部屋があった。

僕ら森の民も足を延ばして寝られる大きな寝台を備えた部屋だった。

宿の主人は愛想のいい親切そうな人で、僕らの言葉も、片言だけど話せた。

馬車も宿の裏手に置いていいって言ってくれて、馬の世話もお願いできるみたいだった。


まだ日も高いし、夕飯には時間も早い。

部屋を取ると、僕らは、王城に謁見の申し込みに行くことにした。


「謁見は申し込み順らしいから、なるべく早く申し込めば、少しでも早く会えるだろう。」


確かに。

それは早くしておいたほうがいいや。


せっかくだし、ついでに街の見物もしよう、ってことになる。

王城は遠くはないらしいから、馬車は置いて、歩いて行くことにした。


僕らはマントを被ると、ふたり連れだって出かけていった。








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