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ばんっ!と扉を開ける音と共に、元気な声が響き渡った。


「おはようございますじゃ!」


は、い?


まだしっかり夢のなかにいた僕は、重たいまぶたを持ち上げて薄目を開ける。

隣のベットでルクスがよろよろと起き上がるのが見えた。


「みなさ~ん、素敵な朝が来ましたよ~、じゃ。」


あれ、あの、じゃ、っての、わざと付けてるのかな?


ふんふ~ん、という陽気な鼻歌が、だんだん近づいてきたな、と思ったら、もう一回、ばーんっ!と扉の開く音がした。


「おや、まだお休みでしたかのう。

 これはこれは、失礼、しました、じゃ。」


失礼なんて、思ってないよね?絶対。


けれど、扉を開いた途端に部屋になだれこんできたいい匂いに、僕は思わず目がぱっちりと開いていた。


「なんだろう?美味しい匂いだ。」


「焼きたてのパンをお持ちしましたじゃ。

 朝食にいたしましょう、じゃ。」


ピサンリは両腕に大きな籠をぶら下げていて、そのどっちにも、美味しそうなものが溢れんばかりに詰め込まれてあった。


「うわ。すごい、ご馳走だ。」


「ゆっくり休んでたくさん眠ったら、次は栄養をたっぷりとって、元気をつけんとのう。」


それ、大賛成。


僕はすぐに飛び起きた。


顔を洗って厨房へ行くと、先に起きていたアルテミシアとピサンリが、食事を皿に盛り付けている最中だった。


「おはよう。だいぶ顔色がよくなったね。」


アルテミシアは僕の顔を見てにっこりしてくれる。


「うん。もうすっかり元気だよ。」


だから、今日はそのご馳走、全種類、食べてもいいよね?


僕も二人を手伝い始めた。

みずみずしいサラダや焼きたてのパンを見ていると、ちょっとつまみ食いしたくなったけど、そこはぐっと我慢をする。

せっかくだもの、みんな揃ってからいただきますのほうがいい。


そこへ、少し遅れて、ルクスも起きてきた。


「へえ~、朝からすごいご馳走だなあ?」


「皆さんにお会いできたのが嬉し過ぎて、わし、昨夜はほとんど眠れんでのう。

 今朝も早く目が覚めたから、張り切って、食事を作ってきたのじゃ。」


ピサンリは全身から嬉しいが溢れだしているみたいだった。


「そんなに張り切り過ぎたら、疲れちゃうよ?

 僕らまだまだここにいるんだから、もうちょっとのんびりいこうよ?」


ちょっと呆れてそう言ったら、ピサンリは顔に腕を当てて泣く真似をした。


「なんとまあ、嬉しいことを言うてくださる。

 よよよよよ~。」


「なにその、よよよよよ?」


「森の民はそう言うて泣かれるのじゃろう?」


「……」


やっぱり、ピサンリの習った森の民の言葉は、いろいろと間違ってる。


テーブルいっぱいにご馳走を並べて、朝食になった。


だけど、最初、ピサンリは僕らと一緒にテーブルにはつかないで、脇に突っ立っていた。


「なんでピサンリは座らないの?」


ここ、あいてるよ?と僕の隣を指さしたら、ピサンリは、いやいや、と首を振った。


「わしは、みなさんのお世話係じゃもの。

 一緒にテーブルにつくなんて、そんな畏れ多い。」


「昨日は一緒に食べてたよね?」


「それは、しきたりを知らなかっただけで…

 あれから村長にいろいろと叱られたのじゃ…」


ピサンリはちょっと悲しそうな顔になって、申し訳なかった、と頭を下げた。


「なんで?なんで謝るの?

 ピサンリは何も謝るようなことはしてない。

 それに、今まではどうだったかは知らないけど、僕らはピサンリも一緒に食べるほうがいいよ。」


誰に対してなんだか分からないけど、ちょっと腹が立って言い方がきつくなる。

そしたら、ルクスが宥めるように言った。


「まあまあ。けど、俺もこいつと同意見だ。

 アルテミシアは?」


「もちろん、あたしも。

 ピサンリ、そこに座ってよ?」


アルテミシアはそう言って僕の隣のあいていた席を指さした。


「どうせここには俺たちしかいないんだし。

 村長には黙っといてやるから、いいだろ?」


ルクスはそう言うと、自分から立って行って、ピサンリの背中を押して連れてきた。


「食事は大勢いればいるほど美味しくなるって、うちの母親もよく言ってたからな。」


それ、僕がルクスのお母さんによく言ってもらってた言葉だ。

だから遠慮せず、いつでもご飯、食べにおいで、って。

だけど、それは僕も同意見だ。

僕も家でひとりぼっちでご飯を食べるのは嫌だったから。

ご飯のときには、いっつも、ルクスかアルテミシアの家に行っていた。


ピサンリは最初遠慮してたけど、そのうちに慣れて、みんなに食べ物を解説しながら、自分もたくさん食べた。


「これ、これ、これはこうして、こう、こっちのソースと混ぜて…」


平原の民の食べ物って、複雑だけど、なんか楽しい。

ピサンリに教えてもらいながら、僕らも朝食をたっぷり食べた。


みんなお腹いっぱいになって、運動がてら外をちょっと散歩するかなってなった。


すっかり高く上がったお日様は、すっごくきらきらしていて、今日も暑くなりそうだった。

僕らは日陰を選んで歩きながら村の中を進んでいった。


家々の間には、畑、というものがあって、野菜、が植えられていた。

あの、今朝も食べたサラダの材料だ。

野菜、は、新芽のようにとても柔らかくて食べやすい。

それでいて、新芽よりも苦くなくて美味しかった。


村の人たちはもう起きて働いていた。

畑に水をまいたり、土を細かく砕いたりしている。

彼らは僕らを見ると、みんな丁寧にお辞儀をしてくれた。


「ここは元々、石ころだらけの荒れ果てた地じゃった。

 それなのに、今こうして畑を作って暮らしていけるのは、森の賢者さまにいろんなことを教えていただいたからだそうですじゃ。」


それは、昔々大昔、ちょうどこの村ができたばかりのころのこと。

荒地にしがみつくように暮らしていた人々に、井戸を掘る場所や、土を運んで畑を作ることを助言したのは、たまたまこの地を通りかかった森の民だったらしい。


その森の民たちのおかげで、僕らもこんなに歓待してもらえるんだと思った。


歩いていると、大勢が集まってわいわいしているところがあった。


「井戸を掘っているのじゃ。」


ピサンリはそう教えてくれた。

僕らの郷には泉があってそこを水場にしていたから井戸はなかったんだけど。

他所の郷には井戸もあったし、井戸というものがどういうものかは知っていた。


その様子を見ていたアルテミシアは、うーん、と首を傾げた。


「あそこ掘っても、水、出ないと思うよ?」


ええっ、とピサンリはのけ反って、アルテミシアを見返した。


アルテミシアは首にかけた守り石のペンダントを外すと、紐の端を手に持ってぶら下げた。

ゆらゆらとペンダントを揺らしながら、ゆっくりと歩き出す。

アルテミシアって、水の気配を辿るのが上手い。

僕らは知ってるけど、ピサンリは、いったい何が始まったのかと驚いているみたいだった。










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