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目を覚ますとすっかり朝になっていた。

旅の人たちは荷物をまとめて、そろそろ出立しようとしていた。


ど、どうして誰も、起こしてくれなかったんだ?!


僕は飛び起きると、大急ぎでルクスとアルテミシアの姿を探した。


二人は族長とにこやかに話しをしていた。

すぐ傍にオルニスの姿もあった。


「やあ、起きたか、お寝坊さん。」


オルニスは僕の顔を見るとにこやかに手を上げた。


「ご、ごめん。うっかり寝過ごして…」


これから支度をして間に合うだろうか。

って、僕はまだ、一緒に行くかどうか、ルクスと相談もしてなくて…


「まったくだ。

 見送りもしてくれないのかと思った。」


オルニスはそう言って僕の肩を叩いた。


「あやうく、お前のこと、友だち甲斐のないやつだと思うところだった。」


「そんなこと…

 え?

 見送り?

 ってことは…」


いつの間にか、僕らは一緒には行かないと決まっていたみたいだった。


「そらそーだ。

 俺たちは、この世界を救う英雄なんだからな。」


ルクスは堂々とそう宣言した。


「世界を救う?

 英雄?

 え?うそ…

 あり得ないよ…」


「いや、お前、いきなり、あり得ないとか、断言するなよ。」


思わずつぶやいた僕を、ルクスはあっはっはと笑い飛ばした。


「大丈夫だ。

 いざとなったら、アマンへ行く道はちゃんと教えてもらった。

 お前らのことだけは、何があっても、俺が守る。

 だけど、もうしばらく、ぎりぎりまで、足掻いてみたいんだ。」


ルクスは僕の目をじっと見つめて言った。


「この本が、俺たちのところに来たってのは、もしかしたら、運命なんじゃないかって思うんだ。

 俺たちがここに残ることになったのも。

 偶然に偶然が重なっただけ、かもしんないけど。

 偶然がそんなふうに起こる確率は、そう高くはないだろ?

 だったら、やっぱり、やれることは、やっておきたい。」


それから、ちょっとだけ優しい目になって続けた。

 

「だけど、嫌なら、お前はこの人たちと一緒に行ってもいい。

 俺は、できるなら、三人一緒なのがいい、けど。」


「…アルテミシアは?

 アルテミシアも残るの?」


僕はアルテミシアの顔を見上げて言った。

アルテミシアはにこっとして悪戯っぽく言った。


「ルクスを一人にすると、何をしでかすか分からないからね?」


「分かった。」


アルテミシアもルクスも残るのに、僕だけ行くという選択肢はなかった。


「選ばれし者らよ…」


族長さんは僕らに手を差し伸べて、祝福をしてくれた。

僕らは三人とも緊張した顔をして、厳かに祝福を受けた。


一人前の大人になって、故郷の郷を出ることになったときに、受ける祝福。

本当なら、生まれ故郷の郷の族長さんにやってもらうのが筋なんだけど。

それでも、今、こんなふうに祝福をしてもらって、なんだか、一人前になれた気がした。


「くそっ。

 でも、やっぱ、なんか、寂しい…」


祝福が終わると、いきなり、ぐいっと引き寄せられて、オルニスは僕に抱きついた。

ちょっと泣いているみたいだった。


「お前とは、いい友だちになれると思ったのに…」


「僕もだよ、オルニス。」


僕はそっとオルニスの背中に手を置いた。


「だけど、僕らはもうちゃんと友だちだ。

 だから、またこっちに戻ってきたときには、会いに来てよ?」


おう、と応えたオルニスの声は震えていた。

オルニスは、ずずっと盛大に鼻をすすってから、明るく言った。


「僕は先にあっちへ行って待ってるよ。

 お前らがもしあっちに来ることになったら、僕の家に泊めてやる。

 お前らのために、部屋、ひとつ、あけておくから。」


「それは、助かるなあ。」


泊まるところがあるとなったら安心だもんね。


名残は惜しかったけれど、いつまでもそうしているわけにもいかない。

オルニスも族長さんも、彼らの旅へと出立していった。

見送る僕らは、とても寂しかったけれど、それも仕方なかった。


彼らの去った後、郷は一段とがらんとして、ひっそりとしているように感じた。

それはもう、郷のみんなのいた場所とも、僕ら三人で暮らしていた場所とも、違う場所になってしまったみたいだった。


だけど、ぼんやりしている暇はなかった。


「謎を解く鍵は平原にある。」


ルクスはそう言うなり、旅支度を始めた。


「平原に行くの?」


僕はアルテミシアに尋ねてみた。

アルテミシアは、うん、と頷いた。


「とにかく、あの本をちゃんと読むためには、平原の民の言葉を知らないとね。

 だから、平原に行くんだって。」


「お前は、どうする?」


ルクスはこっちをむいて、一応、そう尋ねる。


「も、もちろん、一緒に行くよ!」


僕は思わず叫んでいた。

置いて行かれるなんて真っ平だ。


だけど、平原に行くのは正直、怖かった。

平原の民の言葉を知るためには、平原の民とも話したりしなくちゃならないんだろうけど。

両親から聞いた平原の民の話しを思い出して、今から尻込みしたくなった。


「よし。

 じゃあ、これを着ろ。」


ルクスはそう言うと、三枚の大きな布を取り出した。

それは頭からすっぽり覆う頭巾のついた、大きな大きなマントだった。


「平原の民と交易するときには、このマントを着て行ってたんだと。

 少なくとも、これを着て行けば、いきなりあちらも俺たちに攻撃してきたりはしないだろう。

 さっき、あの人たちから、もらっといたんだ。」


そ、それは…助かる?のかな?

けど、こんなマントくらいで、本当に信用、されるの?


それでも、何もないよりは、ましか。


すっぽりとマントで全身を覆って、僕らは、旅の人たちの行った方とは反対の方にむかって、ゆっくりと一歩を踏み出した。









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