7月27日
7月27日、真人は浅草を歩いていた。浅草は新しい風景と古い風景が混在している。昔からある浅草寺は、今日も多くの観光客でにぎわっている。江戸時代では想像できないほどだ。その中には、外国人観光客もいて、とても楽しんでいる。河童は彼らを見て、違和感を覚えている。世界中の人々が来ているとは。日本はいつからこんなに変わったんだろう。
「ねぇ」
「どうしたんだい?」
真人は横を向いた。2人は寄り添って歩いている。そんな日々もだいぶ慣れてきた。最初は違和感を覚えていたが、すっかり普通だと思うようになった。
「聞きたいんだけど、江戸時代の東京って、どんなんだったのかな?」
「うーん、今とは違って、高い建物がなかったんだ」
見渡すと、そんなに高くはないものの、多くのビルが建っている。江戸時代では、こんなに高いビルは全くなかったんだろうか? きっと、遠くからでも浅草寺が見えたんだろうな。そして、富士山がよく見えたんだろうな。
「そうなんだ」
「それにみんな、木でできていて」
「へぇ」
この時代に鉄とかコンクリートとか、なかったんだな。昔ながらの風景が当たり前のようにある。自分もこんな時代に生まれたかったな。
2人は浅草寺でお参りをした。今日も浅草寺は多くの人がお参りに来ていて、その前の店舗では多くの人がお土産を買っている。真人が願をかけたのはもちろん、自由研究がうまくいくように、成績が上がるようにだ。河童はそんな真人の表情をじっと見ている。
次に2人が向かったのは、柴又だ。柴又は柴又帝釈天の門前町で、ここも古くからの街並みが残っている。ここは映画『男はつらいよ』の舞台で、もう二度と帰らないが、寅さんこと車寅次郎がいつ帰ってきてもここが故郷と思わせるような風景にしているんだろうか? 真人は『男はつらいよ』を見た事がない。だが、祖父母は見た事があるという。車寅次郎を演じていた渥美清が亡くなった時には驚き、もう新しい『男はつらいよ』はもう作られないと知り、がっくりしたという。
真人は名物の草団子を食べている。ここの名物は草団子だ。寅さんの実家が団子屋だったから、ここが名物になったんだろうか?
「今の日本の姿を見て、どう思う?」
「こんなに変わっちゃうんだなと驚いてる」
河童はショックを受けている。だが、これが未来の江戸、東京の姿なんだ。時の流れの中で、こんなに東京は変わってしまった。それを受け入れて、前に進んでいかないと。だが、なかなか受け入れる事ができない。
「ショックを受けた?」
真人は不安に思っている。これで引きこもってしまわないか心配だ。もっと一緒に東京をめぐりたいと思っているのに。このままでは自由研究が進まないのに。
「うん。だけど、受け入れないと」
河童は少し強気になった。だが、また下を向いてしまう。まだまだ受け入れられないようだ。早く受け入れてほしいな。これが未来の東京の姿だから。
「変わっていく物もあれば、変わらない物もある」
それを聞いて、河童は顔を上げた。確かにそうだ。変わっていく物もあれば、浅草寺や柴又の風景のように、変わらない物もある。残り続ける物もあれば、新しくなる物もある。それらが混在している、それが今の東京、そして世界の風景なのだと。
「そういう事だね」
「うん」
この風景がいつまでも残りますように、そして、こんな時代があったんだと人々がこれからも記憶していますように。そう思い、2人は柴又を後にした。
その夜、真人は今日巡った事をまとめていた。今日は浅草と柴又を巡った。新しさの中に古さもあり、それがいい具合に共存している。残しておくべき風景とは何なのか、真人にはわかった。
「真人ー、晩ごはんよー」
「はーい!」
真人はその声を聞いて、下に向かった。今日は何だろう。真人は楽しみにしていた。
真人は1階のダイニングにやって来た。今日はそうめんのようだ。真人は喜んだ。すでに敏郎は帰っていて、椅子に座っている。
「今日はそうめんよ」
「おいしそう」
真人は椅子に座った。目の前には丼に入ったそうめんがある。
「いただきまーす!」
真人はそうめんをめんつゆにつけ、食べ始めた。清涼感があって、とてもおいしい。
「おいしい!」
「夏らしくていいでしょ?」
夏江は喜んでいる。頑張っている真人のために、奮発して今日はそうめんを作ってみたようだ。
「うん」
「どう? 自由研究、進んでる?」
「まぁまぁ」
ある程度は進んでいるようだ。できるのが楽しみだな。どんなテーマになるんだろう。敏江はその内容を知りたいと思った。
「そう。どんなテーマにするの?」
「東京の移り変わりを考えようかなと」
それを聞いて、夏江は驚いた。真人がこんな事を考えるとは。相当な資料が必要になりそうだけど、大丈夫だろうか? もしできたら、とても褒められるのでは?
「そんなすごいのを?」
「うん。面白いでしょ?」
真人は笑みを浮かべた。今年の自由研究の内容にとても自信を持っているようだ。これなら、両親も先生も納得してくれるだろう。
「面白そうだね。でも、どうしてこんな事を研究しようと思ったの?」
真人は焦った。河童と出会ったからとは言いたくない。河童なんて、この世にはいないと言われている。出会った、見たと言ったら、みんなびっくりするだろう。そして、いろんな人が集まって、大変な事になるだろう。だから、何も言わないようにしよう。
「いや、なんとなく」
嘘を言ったが、夏江は普通に答えるんだろうか? とても不安だ。
「でも、すごいじゃないの?」
「そう・・・、かな?」
どうやら本当の事だと思っているようだ。夏江は感心している。真人がこんな事を調べているとは。でも、どうしてこんな事を調べようと思ったんだろうか?
「すごいよ!」
真人はそうめんを食べ終えた。夏江と敏郎はまだそうめんを食べている。
「ごちそうさま」
真人は2階に向かった。少し2階でゆっくりしていよう。
真人は2階に戻ってきた。そこには河童がいる。河童は外の景色を見ている。窓の外から見えるのは、住宅街の明かりだ。それを見て、河童は何を思うんだろう。江戸時代には、電気なんてなかった。灯しか明かりがなかったんだろうか?
「戻ってきたよ」
真人の声に、河童は振り向いた。
「何だったの?」
「そうめん」
そうめんと聞いて、河童は反応した。この時代でもそうめんはある。あの時と変わらないんだな。これは日本の伝統なんだろうか?
「そっか。江戸時代でもおなじみなんだね」
「そうなんだ。ここは変わっていないんだね」
変わりゆく物があれば、変わらない物もある。それをこの夏休みでもっと考えていきたいな。きっとこれは、自由研究のテーマの1つになるだろう。