8月31日
そして8月31日になった。夏休みは今日で最後、そして河童との別れの日だ。もう会う事はないけれど、河童と過ごした夏は忘れない。そうすれば、心の中でも会える。だから寂しくない。別れを通じて、ともに成長していこう。どんな未来が待っているかわからないけれど、300年後の世界も、これからの世界も、きっといい方向に向かっていくだろう。
「おはよう」
「おはよう」
河童に話しかけられるのも、話しかけるのも、今日が最後だ。そう思うと、真人は感慨深くなった。
「いよいよ今日だね」
「うん」
真人はこれまでの日々を思い出した。いろいろあったけれど、どれもいい思い出だったな。そして、今年の夏休みで、僕も河童も大きく成長できた。
「いろいろあったけど、いい思い出だったよ」
「こっちこそ。素晴らしい自由研究ができたし、何しろ、会えてうれしかったよ」
真人は何より、こんな素晴らしい自由研究ができた事に、感謝している。もし河童に出会わなければ、こんなに東京の事、戦争の事を考えなかった。この経験はきっと、未来に生かされてくるだろうな。
「この先、どうなってしまうんだろう」
「わからないけれど、より豊かな世界になっていくんだろうね」
真人は空を見上げた。300年前もこの空だ。空を見上げるたびに、河童と過ごした夏を思い出そう。
「そうだね。僕にはわからないけれど、もっといい場所なんだろうな」
「今日で夏休みが終わる。そしてまた小学校が始まる。どんな事があっても、忘れないよ」
明日からはまた学校だ。どんな日々が待っているだろう。わからないけれど、充実した日々を送ろう。
「こっちも」
「300年後の世界がわかって、本当によかったよ」
河童は感謝していた。300年後の東京がこんなになるなんて、思わなかった。一体、300年の間に、どんな事が起こったのか、知る事ができた。でも、知ったのはその一部だ。300年の間に、東京はもっと様々な出来事があっただろう。その全てを僕は知らないし、知る事はない。
「うん。僕もよかったと思うよ」
「この空は300年と一緒。でも風景は変わっていく」
と、真人は思った。この世界のどこかで戦争が起こっている。いつの日か、この世界から戦争がなくなり、平和な世の中になってほしいな。その為には、戦争を起こさない事だ。単純な事だけど、人間はどうしてそれができないんだろうか?
「だけど、平和への想いは変わらないんだね。これからも、そうであってほしいな」
「うん。この世界が平和であってほしいな」
河童も平和への願いは同じだ。もう戦争なんてこりごりだ。世界中の人々が手をつなぎ、仲良く生きていく世界が見たいな。
突然、河童は涙を流した。別れが悲しいのだろう。真人には河童の気持ちがわかった。
「どうしたの?」
「別れるのが悲しいんだよ」
やはりそのようだ。別れはつらいものだ。だけど、乗り越えていこう。
「悲しいけれど、乗り越えよう。そして、強くなろう。人間は、出会いと別れを繰り返して成長していくのだから」
「ああ」
と、奥の窓の方から光が差してきた。それを見て、河童は感じた。お迎えた来たんだ。300年前の世界に戻る時が来たんだ。
「あっ・・・」
「これは?」
真人は驚いた。そして思った。いよいよ別れの時だろうか?
「お迎えた来たんだ」
光の向こうから、大人の河童が現れた。これが河童の父だろうか? 2人ともそっくりだな。
「河童、元の世界に帰ろう」
「うん」
河童は真人に向かって手を振った。すると、真人も手を振った。いよいよお別れの時だ。
「さようなら」
「さようなら」
そして、河童は元の世界に戻っていった。河童が見えなくなると、光は見えなくなった。そこには、元の部屋の風景が広がっている。
「どうしたの?」
真人は振り向いた。夏江だ。真人を起こしに来たようだ。すでに真人は起きている。
「いや、何でもないよ」
真人は笑みを浮かべた。夏江は何があったのか、全くわからない。それは、真人にしかわからない。
そして、真人と河童の夏は終わった。だけど、この思い出は永遠に残り続けるだろう。
時代は、そして日本は、東京は変わりゆく。その中で、風景は変わりゆくだろう。だけど、変わらないものもある。それは、平和への想いだ。それを持ち続けていく事が、未来への希望になるだろう。そして、これから生まれてくる子供たちのためになるだろう。今日もどこかで戦争が起こっている。この想いは、どうすれば伝わるんだろう。




