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8月30日

 8月30日、長かった夏休みもいよいよ今日と明日だけだ。宿題は昨日で全て終わらせた。大変だったけど、充実した夏休みだったな。こんな夏休みになったのは、全部河童のせいだ。河童に感謝しないと。


「真人ー、ごはんよー」


 夏江の声で、真人は目を覚ました。真人は疲れて、かなり寝ていた。宿題を全部終わらせた安心感から、こうなったんだろう。だけど、今日は河童ともう1度東京を巡る日だ。河童のためにも、しっかりとしないと。


「はーい!」


 真人は1階にやって来た。1階では夏江が椅子に座っている。真人はその隣に座った。真人は朝食を食べ始めた。今日はみそ汁とごはんと納豆、それからオムレツだ。


「自由研究、終えたんでしょ?」

「うん!」


 真人は元気がいい。どうやら自由研究を終えて、機嫌がいいようだ。大変だったようだが、ようやくできて、一安心だな。今日は家でゆっくりするんだろうか? それとも、気晴らしにどこかに出かけるんだろうか?


「今年はどう?」

「なかなか良くできたと思うよ」


 それを聞いて、夏江は安心した。今年は出来がいいのか。どんなものか、私にも見せてほしいな。今年はかなりかかったようだから、きっと素晴らしいだろうな。でも、どうして今年はこんなに頑張っているんだろう。自分の見解では、戦後80年だから、それをテーマにしているんだろうと思うけど、東京の歴史も考えているのだから、それだけとは限らない。


「どうしたの? 今年はおかしいよ」

「何でもないってば」


 真人は照れている。本当に何にもないよ。河童になんて会っていないよ。本当はあっているのに、そんな事なんて言えない。もし、河童がいるって知ったら、日本中、いや世界中が大騒ぎになるだろう。


「こんなに考える事が多いから」

「本当に何でもないよ」


 真人は焦った。何も言いたくない。もうこんなに深く迫らないで。


「そっか。お母さん、何も言わないようにするわ」

「それでいいよ」


 真人は朝食を食べ終え、リビングでくつろいでいた。夏江はその様子を、不思議そうに見ている。こんなに東京を気にするとは。きっと何かがあったに違いない。だが、これ以上深く聞かないようにしよう。


 歯を磨いた真人は、部屋に戻ってきた。河童はすでに起きている。河童は部屋でじっとしている。どうやら、今日の東京巡りを待っているようだ。東京を巡る事は、すでに夏江に言ってある。


「おはよう」


 その声を聞いて、河童は声を上げた。東京を巡ると知って、顔を上げたようだ。


「おはよう」

「自由研究終わらせたから、今日は東京を巡ろうか?」

「うん!」


 そして、真人は東京巡りに向かった。夏休み、何度も通った田園都市線。だが、今日は特別に感じる。それは、河童と乗るのが最後だからだろう。そう思うと、今日のこの瞬間を大切にしようと思ってくる。河童もまたそうだ。この景色はもう見られない。また元の世界に戻らなければならない。


 真人は秋葉原にやって来た。秋葉原は今日も多くの人が行きかっている。家電量販店などの多くのビルが立ち並び、とても賑やかだ。300年前とは比べ物にならない。いつ頃からこんなに賑わうようになったんだろう。全くわからないけれど、ここまで賑わうにはいろんな事があっただろう。


 秋葉原を後にした2人がやって来たのは、東京駅だ。東京は巨大な赤レンガの駅で、東京というより、日本を代表する駅だ。この駅舎を見て、東京にやって来たと思う人も少なくないだろう。河童はそれを見て、人間の技術って、すごいなと思った。こんなのを自分たちの力と知恵で作り上げる。まだまだ人間は成長していくだろう。100年先にはどんなものが生まれるんだろう。全くわからないけれど、もっと人間を豊かにするものだろう。


 次にやって来たのは、新橋駅だ。ゆりかもめでお台場に行き、お台場から東京を見ようというのだ。新橋にも多くの人が来ている。その中には、ゆりかもめに乗ってお台場へ向かおうと言う人もいる。彼らは戦争を知らない世代ばかりだ。彼らは、お台場がかつて、砲台の場所だったという事を知っているんだろうか? 日本に戦争の時代があったというのを知っているんだろうか? 戦争の時代、人々はどんな生活を送っていたのか、知っているんだろうか?


 レインボーブリッジを渡り、2人はお台場海浜公園駅にやって来た。ここからしばらく歩くと、お台場海浜公園だ。お台場海浜公園には多くの人がいる。彼らは、残り少ない夏休みを楽しんでいるようだ。砲台の跡があるというお台場海浜公園の先には、あまり人がいない。ここに砲台の跡があったという歴史は、薄れていくのではと思われる。だが、砲台の跡はここに砲台の跡があったというのを残している。


 真人はお台場海浜公園から東京の高層ビル群を見ている。300年前は、こんな高い建物がなかった。きっと、その向こうの山がよく見えたんだろうな。富士山もよく見えたんだろうな。それは果たしていい事なんだろうか? それとも、悪い事なんだろうか? 自分にはわからない。


 2人は新橋に戻り、新橋から山手線に乗って、渋谷にやって来た。今日も渋谷は多くの若者が歩いている。とても活気に満ちている。だけど、そこにはどんな風景が広がっていたんだろう。全く想像できないな。だけど、300年前はもっとのどかだったんだろうな。建物があっても、低かったんだろうな。誰がこんな未来になるって予想したんだろう。それでいいんだろうか? 全くわからないな。


 次に向かったのは、新宿だ。新宿は街道の宿場町で、今では乗降客数世界一の駅がある事で知られる。新宿もまた多くの人であふれかえっている。それは今も昔も変わらない。だが、その人の数は、300年前と比べて多くなっただろう。もはや、ほとんど昔の面影を残すものはないだろう。この辺りを歩いている人はみんな、ここに何があったのかは知らないだろう。こうして昔の風景は忘れ去られていくんだろうか? いや、忘れないでほしいな。




 夕方、2人は家に戻ってきた。今日はいろいろ巡って、とても楽しかったな。これで心置きなく元の世界に戻れる。


「ねぇ」


 河童は顔を上げた。まだ行きたい所があるんだろうか? こんな夜中にどこだろう。


「どうしたの?」

「今夜は高台から東京の夜景を見ようかなと思って」


 真人は知っていた。この近くに、東京を一望する高台があって、そこからの夜景は美しいという事を。


「いいよ」

「行こう!」


 2人はその高台がある公園に向かった。その高台は丘陵地帯のひときわ高い丘にある。ここは公園として整備されたが、最近使う子供が少なくて、老朽化が進んでいる。だが、この高台は時々訪れる人がいて、比較的きれいに残っている。


「高台があったんだね」

「うん。いつも遊んでいる公園の先にあるんだ」


 真人は笑みを浮かべている。きっと河童も気にいるだろうな。来てくれたことに対する、最後のプレゼントだ。


「ふーん・・・」


 しばらく歩いていると、公園に着いた。公園は静まり返っている。その中央に、高台がある。これが言っていた高台だろうか?


「ここ?」

「うん。このてっぺんだよ」


 2人は高台に向かった。その高台へは、階段を上がっていく。2人は一歩一歩歩いている。河童はワクワクしている。どんな風景だろう。


「へぇ」

「東京は一望できるんだって」

「本当?」

「うん」


 しばらく歩いて、2人はその高台にやって来た。そこはひときわ高い場所にある。


「着いた!」


 河童はその先の景色を見た。その先に広がるのは、東京の夜景だ。300年前とは比べ物にならないほど大きい。まるで星空のように光っている。とても幻想的だな。この光は、人間の技術力が生み出したんだ。そう思うと、人間ってどんなにすごいのか、改めて感じる事ができる。果たして、この夜景はこの先はどうなっていくんだろう。真人も河童もわからない。でも、もっと明るくなるんだろうなと思う。


「すごい!」

「きれいだろ?」

「うん」


 だが、それとともに、河童は悲しんだ。あの頃ののどかな江戸ではなくなってしまうからだ。あの頃の江戸が良かったのに。


「どうしたの?」

「江戸って、こうなっちゃうんだね」


 真人は真剣にその景色を見ている。信じられないけれど、本当の話なんだ。変わるのを、受け入れよう。そして、自分たちも変わっていこう。強く、優しく。そうしなければ、時代の流れに取り残されてしまうだろう。


「うん。信じられないけど、本当なんだ」

「残念だけど、受け止めないと。そして、自分も変わらないと」


 河童はまた元気になった。確かに、変わらなければ何も始まらない。自分も頑張らなければ。


「そうだね」


 突然、真人は河童の肩を叩いた。どうしたんだろう。河童は顔を上げた。


「夏休み、一緒にいてくれて本当にありがとう」

「こちらこそありがとう。未来の東京を見る事ができて、嬉しかったよ」


 そして、最後の夜は過ぎていった。これは、最高の、そして一生の思い出になるだろうな。そして、明日からは自分たちで進んでいかないと。

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