8月29日
8月29日、あと3日だ。もうあと3日しかない。長いようで短かった。だけど、充実した夏休みだったな。河童と出会って、東京をもっと深く知る事ができて。こんなに東京の歴史を考えるなんて、思っていなかった。この夏で、僕はこんなに成長できた。きっとこの経験は、今後に生かされてくるだろうな。
「おはよう」
真人が部屋に入ると、そこには河童がいる。河童は笑みを浮かべている。だが、心の中では別れを悲しんでいるんだろうな。
「おはよう」
真人は真剣な表情だ。今日で最後に残った宿題、自由研究を終わらせないと。今年の自由研究は容量が大きくて、大変だった。だけど、それだけやりがいがあるものになった。きっと、みんな驚くだろうな。そして、両親も驚くだろうな。
「今日は真剣だね」
「今日で自由研究を終わらせないとと思ってね」
河童はじっと見ている。真人はとても真剣だな。自分も何かに真剣にならないと。そして、真人のようにいい子にならないと。
「本当?」
「うん」
真人は以前から考えている事がある。明日は最後の思い出にもう一度東京を巡ろう。そして、自分にも河童にも忘れられない夏にしよう。
「明日は東京を巡るからね」
「僕のために、ありがとう」
河童は嬉しくなった。300年後の世界に来てくれた河童のために、一緒に東京を巡ってくれた。妖怪であることを怖がらずに、優しく接してくれた真人に感謝したい。時には悲しんだりしたり、不安になったりしたけれど、とてもいい思い出になったな。
「なーに、この風景を忘れないようにするために、頑張ってるんだよ」
「本当にありがとう」
色々話してしまった。早く自由研究を進めないと、明日は楽しめなくなっちゃう。
「さて、頑張らなくっちゃ」
真人は自由研究を進めていく。とても真剣な表情だ。河童はその様子をじっと見ている。河童はおとなしそうだ。何も悲しんでいない。自分も真剣にならないとと思っているようだ。
2時間ぐらい進めていた。少し疲れてきた。真人は寝そうになった。だが、今日で終わらせないと。
「真人ー、頑張ってる?」
真人は振り向いた。夏江だ。どうしたんだろう。何か話をしに来たようだ。
「うん。もうすぐ終わりそうだよ」
「そう! 頑張ってるね!」
もうすぐ終わりそうだと聞いて、夏江はほっとなった。今月中に終わるのか心配になったが、何とかなりそうだ。もしできなかったら、先生に迷惑をかけてしまうから。
「ありがとう」
ふと、夏江は思った。どうして今年の真人はこんなに戦争について考えているんだろう。何か理由があるんじゃないだろうか?
「母さん思ってるんだ。どうしてこんなに戦争について考えてるのかなって」
「えっ!?」
まさか、河童がいるのがばれたんだろうか? いや、河童は真人以外には見えないはずだ。だとすると、何か他の何かを感じたんだろうか?
「今年が戦後80年だからだと思ってるの」
確かに今年は戦後80年だ。ニュースやドキュメンタリーでよく取り上げられている。だから、真人は注目しているのかな?
「そうかな?」
「絶対そうよ。今年は節目の年だもん」
真人は照れている。こんなに戦争の事は考えなかったのに、今年は考えている。それはいい事なんだろうか? 明るく生きなければならないのに。戦争なんて考えずに、明るく生きなければならないのに。
「そういえば、そうだね」
突然、夏江は真人の頭を撫でた。どうしたんだろう。真人は驚いた。
「真人、きっといい子になると思ってるよ」
「ありがとう。僕、頑張るね」
「頑張ってね」
「うん!」
母は部屋を出ていった。河童は2人の様子をじっと見ている。いい母親だな。こんな母親のもとに生まれたかったな。
「いいお母さんだね」
「こんなに認めてくれたの、初めてだよ」
真人は嬉しかった。今までこんなに認められたことがなかった。いつも厳しく言われてきたのに。初めて褒められると、もっと頑張りたくなる。どうしてだろう。
「そうだったんだ」
「お母さん、とっても厳しいから。特に自由研究が面白くなかったら、怒るもん」
真人はこれまでに怒られたことを思い出した。そのたびに下を向いてしまい、時には泣いてしまった。
「そうなんだ」
「でも、今年の自由研究は最高に素晴らしいから、とっても褒めてるんだろうね。河童と出会わなければ、こんなに頑張れなかったよ」
そういわれて、河童は嬉しくなった。僕と出会えたからだって、照れるな。ただ、ここにやって来ただけなのに。それだけでこんなきっかけが生まれてしまうなんて。
「そう、かな?」
「河童、ここに来てくれてありがとう。僕の事、忘れないでね」
「うん!」
色々話してしまった。また自由研究を頑張らないと。最後まで終わらせるまで気が抜けない。
「さて、また頑張らないと!」
真人は再び机に向かい、自由研究を進めた。あと少しで終わりそうだ。きっとみんな、驚くだろうな。そう思いながら、どんどん進めていく。
昼前になった。そろそろ正午だ。それまでに終わりそうだ。真人はワクワクしてきた。何度も経験しているが、もう少しで完成するとなると、こんな気持ちになるんだろうか?
「よし! 完成した!」
その声に、河童は反応した。自由研究が完成したようだ。
「本当?」
「うん! これ!」
真人は今年の自由研究を見せた。とてもびっしりと書かれていて、とても素晴らしい。これはみんな驚くだろうな。
「すごい! きっとお母さん、喜ぶよ」
「そうだね!」
2人は喜んでいた。真人は来月の1日の提出を楽しみにしていた。先生はどんな反応をするんだろうか?




