表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/43

8月29日

 8月29日、あと3日だ。もうあと3日しかない。長いようで短かった。だけど、充実した夏休みだったな。河童と出会って、東京をもっと深く知る事ができて。こんなに東京の歴史を考えるなんて、思っていなかった。この夏で、僕はこんなに成長できた。きっとこの経験は、今後に生かされてくるだろうな。


「おはよう」


 真人が部屋に入ると、そこには河童がいる。河童は笑みを浮かべている。だが、心の中では別れを悲しんでいるんだろうな。


「おはよう」


 真人は真剣な表情だ。今日で最後に残った宿題、自由研究を終わらせないと。今年の自由研究は容量が大きくて、大変だった。だけど、それだけやりがいがあるものになった。きっと、みんな驚くだろうな。そして、両親も驚くだろうな。


「今日は真剣だね」

「今日で自由研究を終わらせないとと思ってね」


 河童はじっと見ている。真人はとても真剣だな。自分も何かに真剣にならないと。そして、真人のようにいい子にならないと。


「本当?」

「うん」


 真人は以前から考えている事がある。明日は最後の思い出にもう一度東京を巡ろう。そして、自分にも河童にも忘れられない夏にしよう。


「明日は東京を巡るからね」

「僕のために、ありがとう」


 河童は嬉しくなった。300年後の世界に来てくれた河童のために、一緒に東京を巡ってくれた。妖怪であることを怖がらずに、優しく接してくれた真人に感謝したい。時には悲しんだりしたり、不安になったりしたけれど、とてもいい思い出になったな。


「なーに、この風景を忘れないようにするために、頑張ってるんだよ」

「本当にありがとう」


 色々話してしまった。早く自由研究を進めないと、明日は楽しめなくなっちゃう。


「さて、頑張らなくっちゃ」


 真人は自由研究を進めていく。とても真剣な表情だ。河童はその様子をじっと見ている。河童はおとなしそうだ。何も悲しんでいない。自分も真剣にならないとと思っているようだ。


 2時間ぐらい進めていた。少し疲れてきた。真人は寝そうになった。だが、今日で終わらせないと。


「真人ー、頑張ってる?」


 真人は振り向いた。夏江だ。どうしたんだろう。何か話をしに来たようだ。


「うん。もうすぐ終わりそうだよ」

「そう! 頑張ってるね!」


 もうすぐ終わりそうだと聞いて、夏江はほっとなった。今月中に終わるのか心配になったが、何とかなりそうだ。もしできなかったら、先生に迷惑をかけてしまうから。


「ありがとう」


 ふと、夏江は思った。どうして今年の真人はこんなに戦争について考えているんだろう。何か理由があるんじゃないだろうか?


「母さん思ってるんだ。どうしてこんなに戦争について考えてるのかなって」

「えっ!?」


 まさか、河童がいるのがばれたんだろうか? いや、河童は真人以外には見えないはずだ。だとすると、何か他の何かを感じたんだろうか?


「今年が戦後80年だからだと思ってるの」


 確かに今年は戦後80年だ。ニュースやドキュメンタリーでよく取り上げられている。だから、真人は注目しているのかな?


「そうかな?」

「絶対そうよ。今年は節目の年だもん」


 真人は照れている。こんなに戦争の事は考えなかったのに、今年は考えている。それはいい事なんだろうか? 明るく生きなければならないのに。戦争なんて考えずに、明るく生きなければならないのに。


「そういえば、そうだね」


 突然、夏江は真人の頭を撫でた。どうしたんだろう。真人は驚いた。


「真人、きっといい子になると思ってるよ」

「ありがとう。僕、頑張るね」

「頑張ってね」

「うん!」


 母は部屋を出ていった。河童は2人の様子をじっと見ている。いい母親だな。こんな母親のもとに生まれたかったな。


「いいお母さんだね」

「こんなに認めてくれたの、初めてだよ」


 真人は嬉しかった。今までこんなに認められたことがなかった。いつも厳しく言われてきたのに。初めて褒められると、もっと頑張りたくなる。どうしてだろう。


「そうだったんだ」

「お母さん、とっても厳しいから。特に自由研究が面白くなかったら、怒るもん」


 真人はこれまでに怒られたことを思い出した。そのたびに下を向いてしまい、時には泣いてしまった。


「そうなんだ」

「でも、今年の自由研究は最高に素晴らしいから、とっても褒めてるんだろうね。河童と出会わなければ、こんなに頑張れなかったよ」


 そういわれて、河童は嬉しくなった。僕と出会えたからだって、照れるな。ただ、ここにやって来ただけなのに。それだけでこんなきっかけが生まれてしまうなんて。


「そう、かな?」

「河童、ここに来てくれてありがとう。僕の事、忘れないでね」

「うん!」


 色々話してしまった。また自由研究を頑張らないと。最後まで終わらせるまで気が抜けない。


「さて、また頑張らないと!」


 真人は再び机に向かい、自由研究を進めた。あと少しで終わりそうだ。きっとみんな、驚くだろうな。そう思いながら、どんどん進めていく。


 昼前になった。そろそろ正午だ。それまでに終わりそうだ。真人はワクワクしてきた。何度も経験しているが、もう少しで完成するとなると、こんな気持ちになるんだろうか?


「よし! 完成した!」


 その声に、河童は反応した。自由研究が完成したようだ。


「本当?」

「うん! これ!」


 真人は今年の自由研究を見せた。とてもびっしりと書かれていて、とても素晴らしい。これはみんな驚くだろうな。


「すごい! きっとお母さん、喜ぶよ」

「そうだね!」


 2人は喜んでいた。真人は来月の1日の提出を楽しみにしていた。先生はどんな反応をするんだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ