7月23日
7月23日、真人は窓から外をじっと見ていた。真人は最近、思っている。かつてここはどんな場所だったんだろう。今は住宅しか見えないこの場所は、住宅ができる前はのどかな場所だったに違いない。もっと昔は、何にもないただの森だったかもしれない。その頃に行ってみたいな。だけど、そんな事はかなわない。タイムマシンがあって、過去に行けるのなら、見てみたい。でも、タイムマシンなんてない。今を生きるしかないのだ。
「おはよう」
真人は振り向いた。夏江だ。
「おはよう。自由研究、進んでる?」
「全く・・・」
だが、真人は全く進んでないという。すでに何をしようか決めたのに、進めようとしているのに、全く進まない。
「早く進めなさいね」
夏江は去っていった。夏江はいらだっている。なかなか自由研究を進めない真人を心配している。その後姿を見て、真人は焦った。早く自由研究を進めないと。
「はぁ・・・」
真人は1階に向かった。朝食を食べようというのだ。河童は真人の様子が気になった。外を見て、何を考えているんだろう。何かに悩んでいるんだろうか? もし、悩んでいる事があれば、何でも相談に乗ってやるよ。
真人の様子がおかしい、それは夏江にもわかっていた。ここ最近、何かを考えているようだ。だが、何にも考えようとしない。
「ごちそうさま・・・」
真人は食べ終えると、リビングでくつろいでいた。どこか悩んでいる表情だ。テレビがついているのに、見ようとしない。明らかにおかしい。夏江は不安になった。
真人はすぐに立ち上がり、歯を磨くと、再び2階に向かった。また勉強をしに行くようだ。夏江はその姿を見て、頼もしく思った。この子はきっといい子になるだろう。
「自由研究か・・・」
2階に行く間、真人は思わずつぶやいてしまった。何も言いたくなかったが、思わず言ってしまった。それほど、自由研究で悩んでいるのだ。
真人は自分の部屋に戻ってきた。真人はベッドに仰向けになった。天井は昔と変わらない。天井の向こうには、青い空が広がっている。河童のいた江戸時代も、こんな空だったんだろうか? もっと、きれいな空だったんだろうか?
「ほんと、どうしようかな? このままではまた怒られるよ」
「どうしたの?」
真人は横を向いた。河童が話しかけたようだ。まさか河童が心配してくるとは。
「自由研究が全く進まなくて・・・」
「そんな宿題、あるんだね」
河童は驚いた。こんな宿題があるのか。江戸時代では考えられないよ。というか、学校の存在さえも知らなかった。こんなに日本は変わったんだな。
「うん。夏休みの宿題の定番さ」
「そうなんだ。僕はそんなの知らないね」
河童は窓の外から空を見上げた。空は変わらないのに、風景はまるっきり違う。時代の流れの中で、風景は変わっていくんだなと痛感している。
ふと、河童は思った。ここって、住みよい場所なんだろうか? 自分は水も空気も澄んでいる江戸時代の頃がいいと思っている。
「ふーん・・・。ここ、住みよい?」
「住みよい所だなと思って」
真人はここが住みよいと思っているという。どうして空気がそんなに澄んでいないのに、いいと思っているんだろう。
「本当? 僕はあんまりなれないけど」
「そうなんだ」
真人は驚いた。今の時代がとても豊かなのに、いろんなものが手に入って、便利になったのに。どうしてそう思っているんだろう。その理由がわからない。
「昔はのどかな場所だったのに、こうなっちゃったんだね」
「のどかな場所?」
真人は呆然となった。ここはもっとのどかな場所だったのか。いったい。どんな風景が広がっていたんだろう。ぜひ調べて、自由研究のネタにしたいな。
「今でいう、農村っぽい所だね」
「そうなんだ」
真人は信じられなかった。ここは住宅が広がっているのに、昔は農村だったとは。今の風景からはその面影が全くと言っていいほどなくなってしまった。
真人は、外を見ている河童の横に立った。いつも見ているこの風景も、昔は農村の風景だったんだな。そう思うと、時代の移り変わりを感じた。人々は豊かさを求めて、住宅地を作っていった。そんな中で、昔ののどかな風景、自然が広がる風景を失ってしまったんだな。
「まるで別の世界だね」
河童も驚いている。300年の間に、こんなに風景が変わるとは。
「こんなに変わっちゃったんだね」
「うん」
と、河童は下を向いた。河童は悲しそうな表情だ。
「うーん・・・」
「どうしたの?」
真人は、河童の悲しそうな表情が気になった。何に悩んでいるんだろう。何か悩んでいる事があれば、話してほしいな。
「この辺りに川があったんだけど、全く見えないや」
「川?」
真人は驚いた。この辺りに川がったとは。もしかして、宅地化の中で埋め立てられたのかな?
「知らないの?」
「うん」
河童は驚いた。川があった事すら知らないとは。真人が生まれるころには、もう川の存在は忘れ去られているのかな?
「もしかして、埋め立てられてなくなったのかな?」
「どうだろう。でも、そうかもしれないね」
確かにそうだ。家を作るのに、川は邪魔になる。だから埋め立ててしまうのかな? それとも、川の上に作るのかな?
「寂しいな。僕、この川で遊ぶのが好きだったのに」
河童が寂しがっているのは、いつも遊んだ川がなくなっているからだ。300年も経つと、その川もなくなってしまうんだと思うと、寂しい気持ちになる。
「昔はきれいな川だったのかな?」
「うん」
真人は辺りを見渡した。この辺りできれいだなと思う川は、都会ではなく田舎ぐらいしかないかもしれない。そう思うと、河童が過ごしづらい環境になってしまったのではと思ってしまう。
「この辺りできれいな川って、ないからね」
「そうなんだ」
真人は知っている。川は基本的に遊泳禁止だ。ばい菌だらけで、泳いだら病気になると思っている。
「泳いだら危ないって言われる」
「そんなに変わってしまったんだね」
「うん」
ふと、真人は思った。明日にでも、近所を歩いて、昔の風景を探しに行こうか? そうすれば、自由研究のネタがわかるかもしれないし、いい気分転換になるだろう。
「ちょっといい?」
「どうしたの?」
「明日、近所を歩かない?」
河童は驚いた。300年後のこの辺りを歩くとは。なかなか面白そうだな。行ってみようかな?
「いいけど」
「ありがとう」
真人は喜んだ。これで自由研究を始める第一歩を踏み出せるかもしれないぞ。これからに期待だな。
そのお昼、真人は昼食を楽しそうに食べている。朝とは全く違う表情だ。明らかにおかしい。夏江はその表情が気になった。
「真人、どうしたの? 元気じゃない」
「自由研究のネタを考えたんだ」
夏江は驚いた。もう自由研究のネタを考えたとは。どんな内容だろう。
「本当? どんなの?」
「ひばりが原の移り変わり」
ひばりが原の移り変わりか。なかなか面白そうだ。この辺りはどのような歴史を刻んできたのか。これは面白い内容だな。ぜひ、出来上がったら、自分にも見せてほしいな。
「へぇ。面白そうね。頑張ってね」
「うん」
真人はやる気が出てきた。必ず完成させて、みんなを驚かせてやる。