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8月25日

 8月25日、夏休みが終わるまであと1週間、河童との別れまであと1週間。寂しいけれど、別れを乗り越えてこそ、成長できる。だから、別れはしょうがない。そして、その時、その瞬間は二度と戻ってこない。この瞬間を大切にしていきたいな。そして、一生の思い出になればいいなと思っている。


 朝から真人は騒がしかった。どうしたんだろう。河童は不思議そうに見ている。そして、楽しそうだ。どこか旅行に行くから、楽しいんだろうか? 思えば、300年前なんて、旅行なんて考えられなかった。おそらく、鉄道ができて、こんなに盛んになったんだろう。300年前では考えられない事だ。


「おはよう」


 だが、真人は反応しない。忙しいようだ。そんなに忙しそうに、何をしているんだろう。


 ふと、真人は思った。河童が悲しんでいる。どうしたんだろう。


「どうしたの?」

「東京って、こんなに変わっちゃうんだなと」


 またそんな事を考えているのか。こんなに変わってしまう事を、受け入れてほしいな。そして、前を向いて生きてほしいな。もうすぐこの世界との別れが待っているのに。


「・・・、それは、仕方ないんだよ。受け止めないと」

「本当なの?」

「うん」


 突然、真人は明るくなった。一緒にどこかに行こうと思っているんだろうか?


「そうだ。今日は気分転換にお台場で遊ぼうか? 両親も行くけど」

「いいよ」


 全く計画していなかった事だが、真人は家族とお台場に行く事になった。宿題や自由研究を頑張っているから、そんな真人にご褒美を与えようと思い、夏江が考えたようだ。もっと詳しく言ったら、お台場の東京ジョイポリスに行く予定だ。ジョイポリスはお台場にある屋内型テーマパークで、多くの観光客が来る人気スポットだ。ここを目当てにお台場に来る人も少なくない。


 真人と両親は、田園都市線に乗っていた。3人そろって田園都市線に乗るのは久しぶりだ。真人は興奮していた。東京ジョイポリスに行けるからだ。東京ジョイポリスに行くのは初めてだ。友達の中には、行った事がある人もいるらしい。真人はその様子を見て、自分も行ってみたいなと思った。まさか行けるとは。


 3人は渋谷で降り、埼京線に乗り換えた。埼京線に乗れば、東京ジョイポリスに近い東京テレポート駅までまっすぐ行ける。渋谷は今日も多くの若者が歩いている。これが渋谷なんだ。だが、渋谷は工事中だ。いつになったら終わるんだろう。工事が終わる頃には、渋谷はどうなっているんだろう。全く想像できないが、もっと魅力的な風景になるんだろうな。


 埼京線の電車は大崎を過ぎると、りんかい線に入った。ここから終点の新木場駅の近くまでは地下区間だ。当然、東京テレポートも地下区間にある。真人は電車に乗っている間、笑顔が止まらない。東京ジョイポリスに行けるのが嬉しいようだ。


 電車は東京テレポート駅に到着した。降り立つと、踊る大捜査線のBGMが流れる。この近くにはフジテレビの本社もあり、ここのキャラクターショップと展望台も、多くの観光客が訪れる。東京テレポート駅には多くの乗客が乗り降りする。そのほとんどは観光客だ。お台場が娯楽の場所だという事を実感させられる。


 3人は地上に降り立った。お台場には多くの近代的な建物がある。お台場はまるっきり別の風景になった。砲台のために設けられたと思わせないほどだ。


「ここがお台場。ここはかつて、砲台のために設けられたんだね」

「うん。でも、ここは今や娯楽のスポットになった」


 だが、お台場は娯楽スポットになった。それは、戦争の記憶を消すためのように見える。


「こんな思い出を忘れようとしているかのようだね」

「うん」


 敏郎は海の方を見ている。海浜公園には、砲台の跡がある。公園を歩いている人は、その砲台を、どんな想いで見ているんだろう。そして、世界のどこかで起こっている戦争を、どう思っているんだろうか?


「もう戦争の事を考えないようにするためかな?」

「それもあるかもしれない」


 ちょっとくらい内容になってしまった。これから東京ジョイポリスに行くのに、こんな暗い話をしてもいいんだろうか? いや、いいわけがない。これから楽しんでくるのだから。


「さぁ、ジョイポリスに行こうか?」

「うん!」


 3人は東京ジョイポリスに向かった。真人にしか見えないが、河童も一緒だ。




 4人は東京ジョイポリスにやって来た。中には多くの人がいて、楽しんでいる。どれもとても楽しそうだが、最初は『撃音 ライブコースター』に乗る事にした。そのコースターは、世界初のリズムゲームのコースターで、4人乗りの乗り物に乗る。真人はワクワクしていた。


「これ乗りたい!」

「そうしよう!」


 3人は撃音に乗った。最初はゆっくりだ。そして、ボタンを押してリズムを取る。3人はうまくタイミングが合わなかったところもあるが、とても楽しめているようだ。


 後半になって、スピードが速くなり、徐々のジェットコースターらしくなってきた。


「キャー!」


 3人とも絶叫している。河童はその様子を、うらやましそうに見ている。300年後の人々は、こんな事で楽しんでいるのか。自分の住んでいる頃は全く想像できないよ。


 戻ってきた3人は、笑顔だ。とても楽しかったようだ。こんな3人の笑顔、久しぶりだな。


「楽しい!」

「それはよかった!」


 普段、固い表情の敏郎も、やわらかい表情だ。こんな敏郎の表情は、久しぶりだな。とてもいい気分転換になれたと思われる。そして、また仕事を頑張ろうという気持ちになれただろう。


「自由研究、順調に進んでるみたいだから、気分転換に来たんだよ」

「うん。もっと頑張らなくっちゃね」


 自由研究を頑張っているようだから、そのご褒美としてここに行こうと思ったようだ。自由研究を頑張ってよかった。河童と出会えてよかった。真人は心の奥底からそう思っていた。


 次に見つけたのは、『ハーフパイプトーキョー』だ。入った時から、真人が気になっていたアトラクションだ。左右に動いているのを見て、自分も乗りたいと思った。


 ようやく3人の番になり、3人はマシンに乗った。だが、真人は1人で乗った。どうしたんだろうか?


「これも乗ろう!」

「うん!」


 夏江と敏郎は2人でマシンに乗った。だが、真人は1人だ。どうして真人は1人なんだろう。2人は戸惑っている。


「僕は1人でいいよ!」


 実は、向かいにいるのは河童だ。だが、2人には見えない。そして、その他の人にも見えない。


「どうして?」

「いいから」


 そして、マシンが動き出した。左右にハーフパイプの中を動きながら、動きが大きくなっていく。光る場所で踏むと、得点が加算されるらしい。4人は踏んで、得点を上げていく。


「うわぁぁぁぁ!」


 ハーフパイプの端まで行くと、4人は叫んだ。


 アトラクションはあっという間に終わった。あっという間だったけど、とても楽しめたな。


「楽しかった!」

「そうだね」


 その後も3人はいろんなアトラクションを満喫した。その中には、恐怖体験のもあれば、車に乗って大冒険をする体験をするアトラクションもある。こんなに楽しめる所だとは。今日は来てよかったな。また行きたいな。


 そろそろ正午だ。どこで食べよう。3人は悩んだ結果、2階にあるD-ラウンジに決めた。リーズナブルでおいしそうだなと思ったからだ。


「お腹空いたから、ここで食べよう」

「うん!」


 真人はチリドッグのセット、夏江と敏郎はBBQオニオンドッグのセットを注文した。ホットドッグは待たずに出てくる。


 3人は席に座った。画面には、様々な海の生物の映像が映し出されているが、よく見ると、人間の顔だ。人面魚のようだ。どうやら、右のスキャンスポットに立った人の顔が、水槽内を泳いでいる海の生物の顔になるらしい。だが、3人はそれに興味がないようだ。河童は今の人間の技術に驚いていた。こんな事も出来るのか。すごいな。


「いただきまーす!」


 真人はチリドッグを食べ始めた。とてもおいしい。


「おいしい!」


 夏江と敏郎はBBQオニオンドッグを食べ始めた。こっちもおいしいな。


「本当だ!」


 3人は水槽の映像を面白そうに見ていた。まるでここは水族館のようだ。だが、ここはテーマパークだ。とても信じられない。


「今日はいい気分転換になれた?」

「うん」


 真人は笑みを浮かべている。笑っている真人を見たのは、いつぶりだろう。あんまり見ていなかった気がする。テーマパークの力って、人を笑顔にする所にあるんだろうか?


「それはよかった。もうすぐ夏休みも終わりだけど、頑張ろうね」

「うん!」


 3人はその後も様々なアトラクションを巡り、気が付けば夕方になっていた。今日はとても楽しかったな。また行きたいな。




 その夜、真人は部屋で今日の疲れを取っていた。今日はとても疲れたな。でも、いい気晴らしになれた。これからもっと頑張っていこうという気持ちになれた。2学期からまた頑張ろう。


 ふと、真人はカーテンを開け、ベランダを見た。そこには河童がいる。月を見て、何を思っているんだろう。


「どうしたの?」


 河童は振り向いた。声をかけたのは真人だ。どうしたんだろう。


「戦争をしないように、こんな楽しい事をやるんだね」

「ああ」


 河童は今日の東京ジョイポリスの様子を見て思った。人間は戦争をしないために、しようとする心を作らないために、こんな楽しい事をするのかな? もし、楽しみが奪われたら、戦争を起こしてしまうんだろうか?


「そんな未来になるといいね」


 河童は思っている。いつになったら戦争のない平和な世界になるんだろう。そんな世界、どれだけの人々が願っているんだろうか? おそらく、世界中のみんなが願っているだろうけど。


「いつになったら、戦争のない未来になるんだろう」

「わからないけれど、そうなるといいね」


 真人も思っている。戦争のない平和な世界になるには、どうすればいいんだろう。全くわからないな。

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