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8月20日

 8月20日、夏休みはあと12日。タイトルは決まった。あとは完成させるだけだ。だが、なかなか進まない。どうしよう。真人は焦っていた。どうして戦争をするのかというのがなかなかわからない。頭を抱え込んでしまう。


「どうしたの?」


 真人は横を向いた。話しかけたのは河童だ。どうしたんだろう。いつも悩んでいるのは河童ばかりだ。真人が河童に話しかけられるのはあんまりない。


「世界のどこかで戦争が続いてるのかな?」


 河童は泣きそうな表情だ。それを考えるたびに、頭を抱え込んでしまう。もうしてほしくないのに。どうすれば戦争はなくなるんだろう。その答えが全く見つからない。


「きっとそうだろう。戦争はやっちゃいけないのに」


 真人は残念そうな表情だ。どんなに戦争をしてはいけないと言っていても、世界のどこかで戦争が起こっている。どうして人間は戦争をするのか。戦争をして、何の得もないのに。破壊と殺戮を生むだけなのに。


「どうしてわかってるのに、やるのかな?」

「わからないよ」


 河童にもその理由がわからない。どうしてもその理由がわからないといけないのにな。


「大丈夫?」

「うん」


 河童は空を見上げた。世界のどこかで戦争は怒っている。それがなくなるには、どうすればいいんだろう。


「僕にもわからないよ。でも、どうしてわかってくれないんだろう」

「うーん・・・」


 真人は考え込んでしまった。河童は心配そうに見ている。こんなに悩んでいる真人は見た事がない。それほど、難しい疑問のようだ。それは、永遠の課題のように見える。


「どうしたの?」

「ちょっと考えてみたいな」

「うん」


 すると、真人はあるDVDを出し、パソコンで見始めた。戦争の様子が映っているビデオだ。これを見れば、何らかのヒントがわかるんじゃないかな? 自分にはわからないけれど、ちょっと見てみよう。


「どうしたの? 戦争のドキュメンタリーを見て」


 見ているうちに、真人は悲しくなった。国のためとはいえ、死ぬまでの事をするなんて。自分には耐えられないだろうな。そして、戦犯は裁判にかけられるべきだと思ってしまう。


「どうして人間って、戦争を起こすのかなって」

「うーん・・・」


 それでも河童にはわからない。真人も考え込んでしまった。河童は心配そうに見ている。


「わからないの?」

「うん」


 真人は頭を抱えて、考え込んでしまった。いつになったらその答えがわかるんだろう。真人は心配になってきた。


「どうしよう・・・」

「どうしたの?」


 河童も心配そうだ。河童のためにも、自由研究を頑張らないと。


「夏休みが終わるまでにその答えを見つけないと」

「真人・・・」


 真人は下に行ってしまった。河童はその様子をじっと見ている。いつになった元の真人に戻るんだろう。その答えが全くわからない。




 夜、晩ごはんを食べた真人は部屋に戻ってきた。河童はカーテンの中から空を見上げている。いつもの光景だ。江戸時代にはこんな夜景はない。もっと明るくなった。果たして、こうやって光が増えるのはいい事なんだろうか?


「どうだった?」


 真人の入ってくる音に気付き、河童は振り向いた。河童は何か聞きたいような表情だ。


「わからなかった」

「そうなんだ」


 真人は思った。ほかに河童は、言いたくない秘密があるようだ。もしあるなら、話してほしいな。友達じゃないか。


「どうしたの?」

「何でもないよ・・・」

「そう・・・」


 それを聞いて、真人はハッとなった。この子にも両親がいるのか。両親の河童はどんな人だろう。全く想像できない。暖かい性格なんだろうか? それとも、厳しいんだろうか?


「父さん・・・、母さん・・・」


 河童は空を見上げ、両親の事を思い出した。300年前で自分の帰りを待っているんだろうか? 両親は自分をどう思っているんだろうか?


「もうすぐ帰るんだけど、ずっとここでいたいな・・・」


 東京を見るたび、河童は思う事がある。江戸時代にあんな風景だった東京って、将来こうなってしまうんだな。両親も想像できないだろうな。そんな東京を見れて、本当に嬉しかったよ。


「江戸って、こうなってしまうんだな・・・」


 住宅地の夜景の向こうには、副都心の輝きが見える。とても高い。こんな高いビルができるのも、300年前では想像できないだろう。だが、東京はこうなる。そして、当時の街並みの多くは消えていく。だが、人々の心の中には残り続けるだろう。


「信じられないよ・・・」


 真人は再び自由研究を進め始めた。河童は外を見たままだ。この日は、真人が寝るまで全く話さなかった。




 深夜、風の冷たさで真人は目を覚ました。窓を開けっぱなしにしているようだ。閉めたはずなのに、どうしたんだろう。真人はカーテンの中から窓を見た。すると、開いている。閉めたはずなのにな。


 真人は屋根の上を見た。そこには河童がいる。屋根うえで夜景を見ているようだ。夜も遅くなり、街の明かりは少ない。多くの人々は寝ているだろう。だけど、どこかでは深夜でも起きていて、仕事をしている人がいる。これも江戸時代にはなかっただろう。みんな、夜に寝て、朝に起きる生活をしているだろう。


「どうしたの?」


 河童は振り向いた。そこには真人がいる。


「眠れないよ・・・」


 どうやら眠れないようだ。ずっと悩んでいるので、眠れないようだ。


「江戸って、こうなるんだなと思って」

「急にどうしたの?」


 真人は河童の横に座った。一緒に東京の夜景を見ている。江戸時代は、どんな夜景だったんだろう。この頃は、明かりなんてほとんどなかった。電気も、電球もできる前の頃だった。もっと暗い夜だったと思われる。こんな風になるって、誰が想像したんだろうな。


「いや、何でもないよ・・・」

「そっか・・・」


 それから、真人と河童はしばらく、東京の夜景を見ていた。いつも見ている夜景なのに、どうしてこんなに考えてしまうんだろう。河童と出会ったからだろうか?


 真人は眠たくなってきた。そろそろ寝ないと。明日も自由研究を進めないと。


「じゃあ、おやすみ」

「おやすみ」


 真人はまた部屋に戻っていった。その後も河童は、眠くなるまで夜景を見ていたという。

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