表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/43

8月18日

 8月18日、8月も残り2週間、そして夏休みが終わるまで残り2週間だ。宿題は自由研究を除いて、ほとんどできた。だが、自由研究が終わっていない。江戸、東京の歴史、そして太平洋戦争を振り返って、どうして人間は戦争を起こすのかというのが課題だが、理由がなかなかわからない。真人は悩んでいた。このまま、未完成のまま9月を迎えるんだろうか? それは嫌だ。


「どうしたの?」


 河童の声で、真人は我に返った。真人はずっと空を見ていた。昨日は河童が見ていたが、今日は形勢逆転したようだ。河童は不思議そうに見ている。どうしてこんな事になったんだろう。何に悩んでいるんだろう。話してほしいよ。


「戦争で犠牲になった人、天国で今の日本をどう思ってるんだろうと思って」


 雲の上には、戦争で犠牲になった人々の天使がいると思っている。彼らは今、平和な日本がこんなに発展しているのをどう思っているんだろうか? こんな時代に生きてみたいと思っているんだろうか? 平和な中を生きている人々を、どういう想いで見ているんだろうか?


「どうだろう。わからないよ」


 河童にもわからない。だけど、今こうして平和である事を幸せそうに見ている、そして、二度と戦争を起こしてはいけないと思っているに違いない。


「そっか・・・。こんなに変わった日本を見て、どう思ってるのかなと思って」

「そうだね。こんなに発展するとは思わなかっただろうな」


 真人の創造に、河童は共感した。確かに、戦前とは比べ物にならないほど人が増え、宅地化が進み、豊かな生活になった。そんな日本を、彼らはどう思っているんだろうか? 本音が聞きたいな。


「昔の姿のほうがいいと思ってる人、どれぐらいいるんだろうな」


「どうだろう。きっとびっくりしてるんじゃないかな? まるで戦争なんてなかったかのように発展したから」


 80年も戦争をせず、発展し続けたら、こうなるんだろうか? 戦争が生むのは、破壊でしかないのは確かだ。どうして人間は、破壊しか生まない戦争をするんだろうか?


「それでいいと思ってるのかな?」


 真人も思っている。確かに戦争は破壊しか生まない。なのに、人間はどうして戦争をするんだろう。


「どうだろう。でも、きっと発展していいと思ってるよ」

「そうかな?」


 真人は東京の景色を思い浮かべた。残すべきものを残して、その中で発展していく東京、今と昔が入り乱れる東京、それが理想ではないかな?


「きっと思ってるさ。でも、残すべき物は残して、生まれ変わっていくんだ」


 今はもう解体された住宅に住んでいた人々は、どう思っているんだろう。あの頃に戻りたいと思っているんだろうか? 時代の流れには逆らえない、仕方ないと思っているんだろうか?


「そうなのかな? その人々の声、聞きたいな」

「うーん・・・」


 今はもう亡くなった人々に聞いて、昔と今とどっちがいいのか聞きたい。だけど、聞く事ができない。天国になんて、生きている時に行くなんてできないだろう。


「できないよね?」

「うん。でも、生まれ変わる事を嬉しく思わないと」


 彼らは生まれ変わるのかな? もし生まれ変わるとしたら、平和な時代に生まれたいに決まっている。


「嬉しいのかな?」

「どうだろう。僕もその人々の声が聞きたいね」


 戦死した人々は、平和な日本を願って死んでいっただろう。彼らは戦後、高度経済成長で発展していく東京を見たかったんだろうな。無念でしょうがないな。


「うん。死んでった人々、復興し、発展していく日本を見たかっただろうな」

「きっと思ってると思うよ」

「もっと生きたかっただろうな」


 突然、真人は泣き出した。彼らの事を思うと、涙が止まらなくなる。かわいそうすぎて、終戦を、発展していく日本を見れなくて、残念だろうな。


「どうして犠牲にならなくちゃいけないんだろう」

「うーん・・・」


 河童は考え込んでしまった。どうして人が犠牲にならなくちゃいけないんだろう。自分にもわからないな。


「わからないの?」

「うん。僕にもわからないよ」

「わからないんだ・・・」


 河童にもわからないようだ。お互い様だな。これも自由研究のネタにできないだろうか?


「それも自由研究のネタにしようよ」

「そうだね」


 真人は机に座り、自由研究を進め始めた。また自由研究のネタが広がった。




 その日の晩ごはん、真人は考えていた。どうして人は戦争をするんだろう。真人は下を向いていた。


「父さん」

「どうした?」


 敏郎は驚いた。どうしたんだろう。真人が質問してくるなんて、あんまりなかったのに。


「どうして戦争で人を犠牲にしなくちゃいけないのかな?」

「真人、急にどうした? そんな暗い事言っちゃだめだぞ!」


 敏郎は驚いている。どうして真人はそんな事を考えているんだろう。もっと明るく生きていてほしいのに。夏江は不思議そうにその様子を見ていた。ここ最近、戦争について考えている。何があったのかと聞いても、何も答えてくれない。ひょっとして、登校日に戦争についての話があったからだろうか?


「・・・、ごめんなさい・・・。ちょっと考えてしまって」

「そっか・・・。父さんにもわからないんだ」


 敏郎にもわからないようだ。敏郎も戦争を経験していない。だから戦争の事は全く考えていないんだな。そして、戦争の記憶は時のかなたに消えていくのかな? 忘れてはならない記憶なのに、残念だな。


「わからないんだ・・・」

「そんなこと考えてたら、ごはんがおいしくなくなるぞ!」

「・・・、わかった・・・」


 真人は晩ごはんを食べ始めた。敏郎は黙々と晩ごはんを食べている。真人の発言に、むっつりしてしまったようだ。言ってはいけない事を言ってしまったようで、真人はびくびくしていた。本当にあった出来事なのに、どうして言ってはいけないんだろうか?


「最近、どうしたの?」

「いろいろ考えてる事があって」


 夏江はどうしてそんな事を聞くのか問いかけた。だが、それでも何も言おうとしない。


「そうなんだ」

「真人・・・」


 敏郎も考え込んでしまった。今年の真人は何かがおかしいな。どうして戦争の事を考えるようになってしまったんだろう。もう80年前の事なのに。ひょっとして、今年が戦後80年だから、考えているんだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ