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8月17日

 8月17日、夏休みもあと15日になった。まだまだ暑い日は続くが、頑張っていかないと。そして、とにかく自由研究を進めないと。その中で、真人はとても気になっている事がある。日本は1945年の8月15日以来、戦争がないんだろうか? それ以来、平和に生きているんだろうか? もっと調べないと、自由研究が終わらない。そう感じて、焦っている。


 真人は1階のダイニングにやって来た。好きなものが食べられて、好きな事ができる今の世界。それがどんなに幸せなのか考えないと。今日、ここでこうやって生きているのがどんなに幸せか、真人は感じていた。今まではそう感じなかったのに。戦争について考えだしてからだ。


「おはよう」

「おはよう」


 真人は食べ始めた。あの頃はあまりいいのを、そして十分に食べる事ができなかった。今日、こうしてこれだけ食べられるのを幸せに思わないと。


「どうしたの? 戦争なんか考えて」


 夏江は気になっていた。どうして真人は戦争について考えるようになったんだろう。この夏からだ。何がきっかけなんだろう。


「いや、気になって」

「ふーん。でも、この国の戦争なんて1945年にとっくに終わってるわよ。もうそれ以来、やってないの。もう、多くの人が経験していないんだよ」


 夏江は思っていた。どうして真人は戦争なんて暗い事を考えるんだろう。戦争なんて、1945年以来やっていない。今の日本は平和な日々を送っている。なのに、どうして戦争なんて考えるんだろう。


「そうなんだ」


 真人は驚いた。もう80年も戦争をしていないんだ。僕も、そして両親も平和な日々の中を生きてきたようだ。戦争を経験した人々は、あとどれぐらい生きているんだろう。日を追うごとに少なくなってきているのは明らかだ。戦争の記憶を忘れてはならないのに、それを経験している人々が少なくなっているのは、残念でたまらない。だけど、それは仕方がない事だ。人生には終わりがあるからだ。だけど、その記憶を語り継いでいくのが、今の子供たちの使命だ。もう二度と戦争をしてはならないから。


「今は平和なのよ。それを受け止めて、明るく生きなさい」

「はい・・・」


 真人は下を向いた。夏江には戦争を起こす理由がわからない。戦争を経験していないからかもしれない。だとすると、戦争を経験した人なら、何か知っているのでは? その人に聞いたら、何かがわかりそうだな。


 突然、夏江が肩を叩いた。どうしたんだろう。


「そんなに落ち込まないの!」

「・・・、わかったよ・・・」


 真人は再び朝食を食べ始めた。戦争の事を考えていると、あまり箸が進まない。


「ごちそうさま・・・」


 真人はようやく食べ終えた。そして、テレビを見ている。テレビを普通に見ている真人を見て、夏江は何かを感じていた。この夏休みで、真人は大きく変わった。どうしてだろう。私にもわからない。戦争を考えるようになったし、いろいろ考えるようになった。真人はこの夏で、どこか大きくなったようだ。


 歯を磨いた真人は、2階に戻ってきた。河童は下を向いている。戦争の事で落ち込んでいるんだろう。真人にはわかる。


「おはよう」


 だが、河童は反応しない。落ち込んでいて、言葉も出ないようだ。


「おはよう。どうしたの?」

「今はみんな、戦争をしてないんだって」


 河童も知った。日本は80年も戦争をしていない。その中で、戦争の記憶は失われつつある。果たして、日本の戦争の記憶は、どれだけ残り続けるんだろう。いつまでも忘れずに、今が平和である事を大切に思う気持ちを持たなければならないのに。


「そうなんだ。戦争って、いけない事だからね」

「みんな、わかってるんだよ。だけど、今もどこかで戦争が起こっているんだ」


 真人は空を見上げた。今日もどこかで戦争が起きているだろう。そこの人々は、同じ空を見ているんだろうか?


「どうしてみんな、戦争はしてはいけないってわからないのかな?」

「そうだね」


 河童も同じ気持ちだ。そう思うと、気持ちが落ち着いてくる。どうしてだろうか? 戦争をしてはならない気持ちが、真人も一緒だからだろうか?


「その気持ち、わかるの?」

「うん」

「・・・、ありがとう!」


 河童は笑みを浮かべた。やっと笑ってくれた。それだけで嬉しい。真人はほっとした。


「お母さんから聞いたけど、1945年を最後に戦争をしてないみたい」

「そうなんだ。太平洋戦争が最後なんだね」


 1945年8月15日、玉音放送とともに日本の終戦、そして敗戦が伝えられた。人々は涙し、戦争が終わった事を実感した。そしてそれ以来、日本は戦争をしていないのだ。


「ああ」


 ふと、真人は昨日の図書館で見た太平洋戦争の写真を思い出した。もうこんなのはこりごりだ。特攻隊になって、命を落としたくない。命は大切な物なのに、死んでまで国を守るなんて、ひどいじゃないか。


「もう戦争なんて、こりごりだよね。昨日の図書館で見たでしょ?」

「うん。もうあんなの、見たくないね」


 思えば80年でこの辺りは、東京は、日本は発展した。そして、今の風景がある。でもそれは、河童にとっては幸せなんだろうか? 変わりゆく風景の中で、変わらないものもある。それは平和への想い、そして、日本らしい建物だ。


「あれから80年。日本はこんなに発展した。そして今の風景がある」

「風景、か・・・」


 それを考えると、河童は下を向いてしまった。あの頃の風景が好きだからだ。自然豊かだったあの風景は、もう戻ってこない。


「どうしたの?」

「発展のために、風景は変わっていくのかな?」

「そうかもしれない」


 突然、真人は河童の肩を叩いた。河童は上を向いた。どうしたんだろう。


「だけど、変わらないものは変わらないでほしいね」

「うん。平和への思いもそうだし、昔からの記憶も」

「うん」


 言われてみればそうだ。平和への想いだけではなく、昔からの記憶も語り継がれている。それを後世の人々に伝えていくのが、僕たち、それからこれから生まれ来るだろう子供たちの使命なんだ。


「この先、この風景はどうなるのかわからないけれど、平和への想いは忘れないでほしい」

「いい事言うじゃん!」

「ありがとう」


 2人は再び空を見上げた。未来にはどんな空が広がっているんだろう。あの頃と一緒だろうけど、風景はもっと変わっていくだろう。そして、もっと豊かになっていくだろう。


「この思い、みんなに伝わればいいね」

「ああ」

「この風景は将来、どうなるのかな? 僕にはわからないよ」


 河童は思った。これからの未来には、平和への想いがあり、歴史が語り継がれているんだろうか? どうかわからないけれど、そうであってほしいな。

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