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8月15日

 8月15日、今日は80回目の終戦記念日だ。今年は大阪・関西万博が行われていて、お祭り気分のようだが、今日は平和を考える日だ。だが、もうそれは80年前にもなる。その記憶は、徐々に薄れていく。だが、それを忘れてはならない。なぜならば、それは日本のみならず世界の負の歴史なのだから。


 真人は朝から図書館に行っていた。だが、河童は行かなかった。今日は1人で部屋にいたいそうだ。一緒に行動するのが疲れたのかな? 今日は1人にしておこう。真人は図書館で様々な事を調べていた。そんな真人の姿を見て、多くの子供たちは異様に思っていた。それだけではない。大人も異様に思っていた。こんなに調べるとは。ただの自由研究なのに、どうしてだろう。それぐらい、調べる量が多いんだろうか?


 だが、真人はそれが普通だと思っていた。今年こそはすごい自由研究を作ってみせるぞ。


 正午前になって、真人が帰ってきた。真人は汗をかいている。図書館から家までの道のりを歩いただけだ。それだけでも、こんなに汗をかいてしまう。今日も猛暑が続いている。いつまでこの猛暑は続くんだろう。300年前はそんなになかったのに。発展とともにこうなってしまったんだろうか?


 真人は部屋に入った。そこには河童がいる。河童は外を見ている。いつもそうだ。どうしたんだろう。何かあったんだろうか?


「どうしたの? 外を見て」

「今日って、80回目の終戦記念日なんだなと思って」


 河童の表情は暗そうだ。ニュースによると、今日は80回目の終戦記念日らしい。正午に黙とうが行われえるそうだ。戦争を聞くたびに、河童は思う。どうして人間は戦争をするんだろうか? 戦争をしても、苦しみを生むだけなのに。


「そうなんだ」


 やっぱり今日は80回目の終戦記念日だ。戦争なんてなければ、ずっと世界は平和だったのに。どうして戦争なんてしてしまったんだろうか? 河童はつくづく思っている。


「ああ。日本は戦争に負けたんだ」


 今年の夏休みでよく知った。日本は戦争に負けた。その戦争の中で、数多くの犠牲者が出た。戦時中はとても貧しい生活をしていた。今とは比べ物にならないほどだ。今、こうやって安定した食事ができるのを、感謝して食べないと。そして、今こうして平和でいられることを素晴らしいと思わないと。


「まだ日本の歴史を学んだことはないけれど、いつかは学ぶだろうな。だけどこれだけは思うんだ。戦争って、やっちゃいけないって」

「そうだね」


 確かに、真人の言っている通りだ。戦争はしてはならない。それは、今の人々も共通して考えている事だろう。だけど、一昔前はそんな事をどうしてしていたんだろう。河童は疑問に思っている。


「最近はウクライナで起こってるみたいだけど、やっちゃいけないとわかって、どうして戦争ってするのかなって」


 それとともに、最近知った事がある。それは、ウクライナの事だ。どうしてロシアは攻撃するのか? 戦争はもうしてはならないのに。世界は平和であってこそ素晴らしいと思うのに。


「真人くん・・・」


 河童は真人の真剣な表情に心打たれている。そんなに世界の人々を心配しているとは。これはいい大人になるぞ。


「どうしたの?」

「よくわかるんだね」


 河童は感動していた。こんなに世界平和を願う子供がいるとは。現代の人々も伊達じゃないな。


「うん。この時代になっても、平和への思いは変わらないんだ」

「僕もそう思ってる。平和への思いって、今でも変わらないね」


 2人は思っている。どんなに時代は流れても、平和への思いは変わらないんだ。時代は変わりゆく。風景は変わりゆく。だけど、平和への想い、誰かの事を考える想いは変わらないんだ。


「風景は変わりゆく。だけど平和への思いは変わらない。世界中がそうであってほしいね」

「うん。この思いが、世界中に届けばいいのに」


 真人は空を見上げた。今日も世界のどこかで戦争が行われているかもしれない。彼らも同じ空を見ているんだろうか? どういう気持ちで見ているんだろうか? 平和な世界になるといいなと思っているんだろうか? 自分の国が勝ってほしいと思って言うんだろうか? 早く戦争が終わってほしいと思っているんだろうか?


「ああ」


 そろそろ正午だ。今日の全国高校野球でも、正午の黙とうが行われる。これは戦後の高校野球の恒例行事で、この家では毎年、高校野球を見ながら黙とうをする。


「気分転換に、下で高校野球でも見ようかな?」

「うん」


 真人と河童は1階にやって来た。リビングのテレビでは、高校野球が流れている。ここにいる高校生はもちろん、太平洋戦争を知らない。だけど、今日が終戦記念日だという事、正午に黙とうが行われるのは知っている。


「あら、どうしたの?」


 夏江は昼食を作っている。今日は冷やし中華のようだ。


「気分転換に高校野球でも見ようかなと」

「いいじゃない」


 真人はリビングに座り、高校野球を見ている。球児たちは、汗をかきながら試合をしている。彼らはとても真剣な表情だ。夏の甲子園は負けたら3年生は引退、それは先輩との別れを意味する。負けて涙する選手は、負けた悔しさの他に、3年生との別れに涙する。だが、真人にはそれがわからない。まだ考える時期じゃない。


「みんな頑張ってるね」

「うん」


 と、夏江が振り向いた。そろそろ正午だ。黙とうの時間だ。


「そういえば今日は終戦記念日だね。正午になったら黙とうするんだね」

「そうだね」


 一通りの作業を終えた夏江が、リビングにやって来た。そろそろ黙とうの時間のようだ。真人も河童も真剣な表情になっている。


「私たちも黙とうしようか?」

「うん」


 と、審判団がタイムをかけた。そろそろ黙とうの時間だろうか?


「あっ、そろそろかな?」

「そうだね」


 甲子園のアナウンスがかかった。そろそろ黙とうだ。


「黙とう!」


 そして、試合開始や試合終了などで流れるサイレンが響いた。夏江と真人は目を閉じ、黙とうをした。河童も目を閉じて、黙とうしている。だが、真人はそれを知らない。


「黙とう終わり!」


 その声とともに、3人は目を開けた。そして、試合は再開した。


 河童は思っている。彼等はみんな、戦争を経験していないだろう。だけど、戦争はしてはならない、きっとそう思っているんだろう。


「もう戦争なんて嫌だね」

「うん」


 真人は思っている。どうして人は戦争をするんだろうか? 戦争をしても、何も徳はないのに。


「どうして人は戦争をするのかな?」


 夏江も思っている。この想い、世界中の人々に届かないかな? そして、戦争がなくならないかな?


「お母さんもそう思うの?」

「うん」


 真人にはわからない。どうすれば世界から戦争がなくなるのか。大阪・関西万博が行われている中で、どうしてどこかで戦争が起こっているんだろうか?


「僕にもわからないよ」

「そっか・・・」


 だが、夏江は思った。今、平和である事に感謝して、平和がどんなに素晴らしい事なのか、伝えていかなければならない。もう戦争という悲劇を起こさないためにも。


「平和である事を、素晴らしいと思わないと」

「そうだね」


 3人は、いつも通りに行われている高校野球を見て、平和について考えていた。

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