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8月13日

 8月13日、真人は目を覚ました。徐々に夏休みにも終わりが見えてきた。だが、自由研究がなかなか進まない。量が多いのだ。徐々に真人は焦ってきた。だが、早く進めないと。そして、素晴らしいものにしないと。


 真人は1階のダイニングに向かった。夏休みのいつものルーティンだ。これも今月で終わってしまう。そして、いつもの時間に起きて、小学校に行く。そんな日々が始まる。ちょっと残念だけど、学校へ行かないと。


 真人はダイニングにやって来た。夏江が朝食を作っている。


「おはよう」

「おはよう」


 真人は椅子に座った。すでに目の前に朝食がある。今日はご飯とみそ汁の他に、ベーコンエッグがある。真人は食べ始めた。リビングの向こうからは、いつもの風景が広がる。それを見て、真人は思った。その先にあるのは住宅街だ。だが、そこにはかつて、田園風景が広がっていただろう。300年の時を経て、こんな風景になった。その風景は、河童にとって幸せなんだろうか? 真人は外を見て、しばらく考え込んでしまい、箸が進まなかった。


「自由研究、進んでる?」


 夏江の声で、真人は我に返った。


「順調」


 真人は焦っている。量が多くて思った以上に進んでいないってのを言う事ができない。


「そう。それはよかった。期待してるわよ」


 夏江は気になっていた。どうして外を見て、ぼーっとしていたんだろう。何を考えていたんだろう。とても気になるな。


「どうしたの?」

「いや、何でもないよ」


 真人は何もないような表情だ。自由研究の内容なんて、みんなには難しいかもしれない。だけど、これはやりがいがあるだろう。完成させなければ。


 真人は朝食を食べ終え、歯を磨いて、2階に戻ってきた。今日も河童は外を見ている。最近そんな日々が続いている。真人はわかっている。変わりゆく風景に戸惑っているのだろう。いつになったらそれに慣れるんだろう。全くわからないな。


「おはよう」


 だが、河童は何も言わない。どうしたんだろう。また何を考えているんだろうか?


「どうしたの? 今日も外を見てるよ」

「どうして、人は田んぼや畑を建物にするのかなって」


 それを聞いて、真人は驚いた。答える事ができない。だが、わかっているのは、もっと豊かな生活をするためだという事だ。その為に、人々は建物を近代的にしていった。果たしてそれはいい事なんだろうか? 真人は最近考えている。


「えっ・・・」

「わからないの?」


 河童は不思議そうな表情だ。答えを知ろうとしている。だが、真人にはわからない。どうしよう。河童にそう言われても、答えが見つからないよ。


「うん」

「そうか・・・」


 河童はがっかりした。答えがわからない。いつになったらわかるんだろう。


「気にしてるの?」

「うん。今はどこのを買って食べてるのかなと思って」


 河童は思っている。昔は田畑が広がっていて、そこのを食べていた。だが、こんな風景になったら、どこのを食べているんだろう。遠く離れた田舎のを食べているんだろうか?


「今でも日本には田畑があって、そこで栽培したものもあるけど、海外のもあるよ」


 海外のもあるのか。もう日本は、国産のものだけで食べていないんだな。開国によって、様々な国の文化が流れ込んできただけでなく、様々な国の食材が食べられるようになったのかな?


「そうなんだ」


 それを聞いて、河童は下を向いてしまった。自給自足ができなくなって、日本はどうなってしまうんだろうか? 他国だよりになってしまうんだろうか?


「どうしたの?」

「世界とつながって、日本って変わってしまったのかなって」


 確かにそうだ。開国をきっかけに、日本は海外の文化を取り入れ、日本中が変わり始めた。中には、海外の文化を取り入れて、進化したものもある。そう思うと、いい事ばかりだ。


「うーん・・・、わからないけど、そうじゃないと思うよ」

「昔の風景がいいよ」


 だが、河童は昔ののどかな風景がいいようだ。空気が澄んでいて、川があって、緑豊かな風景だ。自分が見てきた風景とはまるっきり違ってしまった。


「昔の風景がいいんだ。だけど、世界は変わりゆく。それを認めなければ」

「変わっていくの?」


 それを聞いて、河童は悲しくなった。あの時の風景は、変わらなければならないんだろうか? 残す事はできなかったんだろうか?


「うん。風景は変わりゆくものだと思うよ」

「そうなんだ・・・」


 河童は泣いてしまった。真人は慰めた。だが、河童は泣き止まない。


「悲しまないで!」

「だって、あの頃の風景はもう戻ってこないんだよ!」


 あの風景はもう戻ってこない。あの風景を残せなかったんだろうか? この風景に慣れないよ。早くあの頃に戻りたいよ。


「大丈夫?」

「わからない」


 と、そこに夏江がやって来た。夏江は、騒いでいる真人が気になったようだ。


「どうしたの?」

「何でもないよ」


 何にもないようだ。だが、今さっき何を話していたんだろう。


「そう・・・。勉強しなさいよ」

「はーい」


 真人は自由研究を進め始めた。何としても自由研究は進めないと。家族が頑張らなければ。


「昔の風景か。もしできるなら、行ってみたいな」


 真人は最近、思っている。河童のいる300年前の光景を見たいな。きっと、今とは違ってのどかで、素晴らしい風景なんだろうな。


「本当?」

「うん」

「きっと気に入ると思うよ」


 河童は喜んだ。300年前の風景が気に入ってくれたようだ。どんな風景なのか、伝えたいな。見せたいけど、そんな手段はない。タイムマシンがあれば、間近で見られるのに。


「そうだね。あの頃の江戸って、とてもいいと思うんだ。これが日本の本来の姿のようで」

「本来の日本の姿、か・・・」


 河童は思った。今の日本の姿に、人間は満足しているんだろうか? 豊かになったとはいえ、それは人間以外もいいと思っているんだろうか?

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