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8月11日

 8月11日、真人は支度をしていた。昨日話していた通り、再び図書館に行くつもりだ。自由研究を完成させるためには、まだまだ資料が必要だ。やるからには完璧で完成させなければならない。そうしなければ、両親に怒られるだろう。両親が納得するようにできにしないと。


「今日は図書館に行くんだね」


 河童も行くつもりだ。もちろん、その間は話しかけるのはやめておこう。真人が変に思われるからだ。


「うん。もっと調べたいと思ってね」

「そうなんだ。頑張ってるね」


 河童は笑みを浮かべている。頑張っている真人を応援している。真人は思った。河童の期待に応えないと。きっと完璧で完成させてみせるよ。だから、見ていてね。


 真人は家を出て、図書館に向かった。今日も暑い日が続いている。道を行く人々はまばらで、多くの人が家にいて、エアコンに当たっているようだ。辺りからはセミの鳴き声がけたたましいほど聞こえてくる。河童は思った。セミはこの環境に慣れているんだろうか? 昔の風景と今の風景のどっちが好きなんだろうか?


 しばらく歩いていると、図書館に着いた。図書館の周りには、何人かの子供がいる。その中には、真人の同級生もいる。彼らも自由研究のためにここに来ていると思われる。みんな、自由研究で大変なんだな。自分も大変だけど。彼らには負けられない。一番いい自由研究を作ってみせる。


 2人は図書館に入った。そこには多くの人がいる。その中には子供もいる。子供たちは様々な本を読んでいる。どうやら資料を読んでいるようだ。おそらく自由研究のためだろう。


 真人はその中で、東京の歴史が書かれている資料を開いた。そこには、河童のいる江戸時代を描いた絵もある。この頃は写真なんてない。その頃の様子を描いた絵しか資料がない。でも、その頃はどんな生活をしていたのかがよくわかる。河童はこんな風景で生活しているのかな? 自分もこの頃に行きたかったな。今に比べてそんなに忙しくない。ゆっくりとした時間が流れているようだ。


「見て! これが東京の歴史なんだね」


 河童はその絵を真剣に見ている。確かにこんな感じの風景だ。懐かしいな。いつになったらここに戻れるんだろう。早く帰りたいな。そして河童は驚いた。こんなに資料が残っているとは。これから先、年月を重ねるごとに、どれぐらい資料が多くなるんだろう。全く想像できないな。


「すごく厚いな」

「すごいでしょ。見てみよう」


 真人は資料を次々と見て、読んで、めくっていった。東京はこんなに歴史を刻んできた。でも、これからもっと歴史を刻んでいくだろう。それは、どんな歴史だろう。全く予想できない。でも、きっと今以上に豊かで、平和な日々だろうな。


「これは?」


 と、真人はある絵を見つけた。そこには、海から黒い船がやってくる絵だ。これは何だろう。


「黒船って書いてある。アメリカから来たんだな」


 下の説明には、黒船来航と書いてある。これは1853年に神奈川の浦賀にアメリカから黒船がやって来た時だ。この黒船に乗っていたペリー提督がアメリカ合衆国大統領からの国書を渡し、日本に開国を要求した。そして、日本は日米和親条約を締結する運びとなった。そして、日本の鎖国政策は終わり、近代化、明治維新へと動き出す。


「その頃は鎖国だった」

「だけどここから日本は変わりだしたんだな」


 真人は思った。黒船が来なければ、日本はここまで発展しなかったのでは? だけど、鎖国によって日本らしい文化が築かれ、それが今でも続いている。変わりゆくものと変わらないものをうまく織り交ぜながら発展していく、それが日本の歴史なんだなと。


 その先には、明治時代の絵が描かれている。大政奉還が起き、明治時代になり、日本は変わりだした頃だ。


「これが明治時代?」


 河童は興味津々で見ている。これが明治時代の風景なのか。徐々にではあるが、今に近づいてきた。だけど、高い建物はあんまりないな。


「そうらしいね。徐々に街が近代的になった」


 そして、河童は残念そうな表情になった。こんなに変わってしまうんだ。昔の風景がどんどん失われていく。寂しいな。


「こんなに変わってしまうんだね」

「うん」


 その次の絵には、道路の上を走る乗り物が描かれている。その乗り物は、2本の細い鉄の上を車輪で走っている。


「これは?」

「路面電車って書いてあるね。昔はこんな所も走ってたんだね。今では荒川線だけになったけど」


 東京には都電と言われる路面電車がある。かつてはいくつもの系統があり、至る所を走っていた。だが、モータリゼーションが進むと、道路の上を走る路面電車は邪魔者扱いされ、廃止されていった。また、より輸送力の高い地下鉄に変わっていったのも原因だ。あれだけあった系統も、今では荒川線と言われる1系統1路線のみになってしまった。今でも荒川線は地域のために走っている。


「消えていったものもあるんだね」

「うん。そして、地下鉄に変わっていった」


 それを聞いて、河童は顔を上げた。スカイツリーなどに行く時に乗ったあの電車だな。


「あのスカイツリーとかに行くために乗ったやつ?」

「そう。そっちのほうがたくさんの人が乗れるからね」

「言われてみればそうだね」


 河童は納得した。確かに、この頃の路面電車は1両または2両だ。地下鉄はそれに比べて10両編成もあるから、輸送力が高い。だから地下鉄の方がいいんだな。


「それに、車が増えて、路面電車が邪魔されるようにもなったし」


 もっとページを進めていくと、車の波にのまれている路面電車の写真がある。これが路面電車が消えていった1つの原因のようだ。これでは次々となくなるわけだ。


「それも時代の流れなのかな?」

「きっとそうだ」


 そしてその先のページには、東京スカイツリーの建設の様子がある。そして、今へとつながっていくんだな。河童はその写真に感心している。


「こんなに変わったんだね。すごいなー」


 真人は少しページを戻した。すると、東京大空襲の様子がある。多くの建物が立ち並んでいた東京が、まるで焼け野原のようだ。これが戦争の恐ろしさなんだな。どうして人間は戦争をするんだろう。こんな負の遺産を生むばかりなのに。どこに戦争をする意味があるんだろう。


「これは?」

「こ、これは、東京大空襲かな?」


 それを見て、真人は思った。まるで広島の原爆投下の写真みたいだな。あれだけ発展していた東京が1晩だけで焼け野原になるなんて。その時いた人々は、変わり果てた東京を見て、とても落ち込んだだろうな。だけど、東京はそれから驚くほど復興していった。そして、あれ以来、日本はもう戦争を起こしていない。あの時の教訓が生かされていると思われる。


「焼け野原になったんだね。何日か前に見た、原爆投下直後の映像みたい」

「そうだろう。こんな時代もあったんだ」


 少しページを進めていくと、そこには更新していく人々の写真がある。それは、1964年に行われた東京五輪の写真だ。河童はそれを、真剣に見ている。何かが行われているようだ。みんなの表情を見て、きっと素晴らしい事なんだろう。


「これは?」

「東京オリンピックだね。スポーツの祭典、平和の祭典」


 世界ではこんなのが行われているのか。今では多くのスポーツがあり、それを世界で競い合っているんだな。その最高の舞台がオリンピックなんだな。


「こんなのが行われたんだ」

「すごいでしょ?」

「うん」


 河童は呆然としている。日本はこんな歴史を刻んできたんだ。そしてこれから、日本はどんな歴史を刻んでいくんだろう。わからないけれど、きっと素晴らしいものだろうな。


「いろんな時代があったんだね」

「うん」


 真人は思った。これから日本はどうなっていくんだろう。


「そしてこの先も風景は変わり続ける・・・」

「この先、東京はどうなるんだろう。僕には想像できないよ」

「僕もだよ」


 2人は思っている。だけど、変わらないものもある。残すべき建物、風景はもちろん、平和への思いだ。


「だけど、平和への想いは変わらない」

「そうだね。平和である事がどんなに幸せなのか、かみしめながら、生きていかないとね」

「うん」


 そして、東京はこれからも発展していく。僕はそれを感じながら、生きていくんだ。

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