8月10日
8月10日、真人は昨日に比べて少し遅めに起きた。昨日は登校日だった。今日からまた夏休みだ。今日から事実上の後半戦だ。今月までに残っている宿題を終わらせないと。そして何より、自由研究を終わらせないと。今年はすごい自由研究を作るんだ。そして、みんなを驚かせるんだ。
「おはよう!」
真人は河童に声をかけた。河童は外を見ている。外を見て、何を思っているんだろう。この空は、河童が住んでいる空と同じなんだろうか?
「今日も見てるんだね」
「うん」
河童は元気がなさそうだ。やはり昨日の事が尾を引いているようだ。だが、すぐにまた元気になるだろう。きっと、ここでの生活にも慣れるだろう。でも、どれぐらいここにいるんだろう。全くわからないな。
「どうしたんだい? 外を見て」
「どうしてこんな日本になったんだろうと思って」
河童は思っている。どうして日本はこんな姿になったんだろうか? 鎖国が終わり、日本は大きく変わってしまった。それはいい事なんだろうか? 風景は変わらなければならないんだろうか?
「そりゃあ、豊かになるためだよ」
真人は思っている。人々はより豊かな生活にするために、街を発展させていった。風景が変わるのは、そのためなんだろうか? 自分はいいと思っている。だけど、それで自然がなくなってしまうのは、残念な事だなと思っている。河童には、それをわかってくれるんだろうか?
「豊かになって、それでいいのかな? それで失われてしまうものは、どうなるのかなって」
河童は気にしている。発展とともに古いものが失われてしまう。それはいい事なんだろうか? 昔ながらの民家はなくなり、近代的な民家になっていく。あの頃の風景が恋しいな。だけど、変わらなければいけないんだろうか?
「失われてしまうもの、か」
「そうだな・・・。失われていくものもあるけど、それは思い出として残り、そして絶えず新しくなっていくんじゃないかな?」
記憶に残り続ける、か。古いものが消え、資料でしか残らなくなってしまう。その人が死ぬと、その記憶からも消されてしまう。資料でしか残らなくなってしまう。それはいい事なんだろうか? もっと、何か方法がないんだろうか?
「新しくなっていく、のか・・・」
真人は思った。それが嫌なんだろうか? 昔のままの風景がいいんだろうか? そう思うと、みんな今の風景で満足できているんだろうかと思えてくる。昔、ここに住んでいた人々は、こんなに風景が変わったひばりが原をどう思っているんだろうか? 昔の風景がいいと思っているんだろうか?
「それが嫌なの?」
「うん」
真人は考え込んでしまった。それは果たしていい事なんだろうか? 河童が満足していない。他にそう思っている人も多くいるんだろうか?
「うーん・・・」
「人々は豊かさを求めて、街を発展させていく。だけど、それによって失われていく自然に目を向けなければならない」
ひばりが原もそうだけど、全国のニュータウンも、どこの都会も、かつては自然でいっぱいだった。だが、人々はそこを街にしていった。そして、今の風景になった。それは、自然を犠牲にしてできたものだ。そう思うと、河童が満足できる場所じゃないんだなと思えてくる。もっと、みんなが住みやすい場所って、どこなんだろう。真人は深く考えてしまった。
「僕もそう思う!」
「本当?」
河童は顔を上げた。真人も思っている事が一緒なんだな。真人はやっぱり僕の友達だな。
「うん。できれば、もっと調べたいな」
真人は思った。近いうちに、また図書館に行ってみよう。そして、全国各地の風景を見よう。きっと、河童が気に入る風景もあるだろうな。
「そうだな。今度、図書館に行ってみようか?」
「図書館?」
また図書館に行くのか。真人は真剣だな。自分も真剣にならないと。
「様々な本があるんだよ。そこに、何かヒントがあるのかなと思って」
「僕も行こうかな?」
「いいよ!」
と、そこに夏江がやって来た。どうやら勉強の状況を見に来たようだ。真人は緊張している。最近、よく頑張っていると聞いている。夏江は真人の頑張りに鼻高々だ。
「どう、進んでる?」
「うん」
真人はほっとした。河童と何かを話している所を知られたんじゃないかと思った。だが、何も言われなかった。2人の関係は、河童の存在は誰にも言わないようにしよう。
「最近頑張ってるから、一緒にどこかに行こうか?」
旅行をしようとの話だ。だが、自由研究の関係でそんな暇はない。今年の自由研究はとても壮大だ。なかなか終わりそうにない。だから、旅行に行く暇なんてないのだ。
「ごめん。自由研究のために明日も出かけないと」
そんなに自由研究が大変なのか。どんな自由研究になるのかな? とても楽しみだな。
「そう。気を付けてね」
「うん」
「いい自由研究になる事を願ってるよ」
「ありがとう」
夏江は笑みを浮かべている。きっといい自由研究ができるだろうな。期待したいな。
「どんな自由研究が出来上がるのか、楽しみだわ」
「待っててね!」
「じゃあね」
夏江は部屋を出ていった。真人は夏江の後ろ姿を見ていた。
「はぁ・・・」
真人はため息をついた。夏江のためにも、今年の自由研究は頑張らないと。みんな、自由研究に期待してるな。
「お母さん、けっこう勉強熱心なんだね」
「うん。えらい子に育ってほしいらしいからね」
河童は感心している。こんなに勉強熱心なんだな。自分の住んでいる時代とは比べ物にならないんだよ。これも、鎖国ではなくなったからだろうか?
「そうなんだ。大変なんだね」
「お母さんの期待に応えないとね」
真人は再び勉強を始めた。夏江のためにも、頑張らなければ。そして、来月の1日に素晴らしい自由研究を発表できるようにするんだ。
「頑張ってね」
「わかったよ」
河童は期待していた。きっと真人は将来、素晴らしい大人になるだろうな。自分も立派な大人にならないと。




