8月9日
8月9日、真人は朝から騒然としている。何事だろう。いつもより早く起き、ランドセルに色々入れている。その中には、宿題の一部もある。どうしたんだろう。河童は不思議そうに見ている。
「どうしたの?」
「今日は登校日なんだ」
今日は登校日なのか。今月いっぱいはずっと休みなのかと思っていたが、登校日があるとは。何をするんだろう。中に入れた物から見て、一部の宿題を提出するんだろう。自由研究はまだのようだ。河童は忙しそうにしている真人を見て、今日はしばらく遊べないんだな、いつ帰って来るんだろうと思った。
「そうなんだ」
支度はできた。小学校に行こう。みんなは、先生は元気にしているかな?
「行ってくるね」
「行ってらっしゃーい」
真人は部屋を出ていった。河童は1人になってしまった。河童は寂しくなった。
1階にやって来た真人は、夏江のもとにやって来た。夏江は食器洗いをしている。
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃーい!」
真人は家を出て、小学校に向かった。窓では、河童が見ている。だが、真人はそれに気づいていない。振り返らない。
「真人・・・」
寂しくなった河童は、外に出る事にした。だが、誰もいる事に気が付かない。真人しか見えないようだ。今日も暑い日が続いている。朝からアイスを食べている人もいる。その多くは高校生や大学生で、長い休みを楽しんでいた。だが、今日は小中学校の登校日だ。河童は彼らを見て、うらやましそうに思えた。誰かと一緒に歩いている。だけど、自分の姿は誰にも見えない。おそらく、真人にしか見えない。誰か、僕に気が付いてよ。誰も気が付かないのは、時代の流れなんだろうか? 時代の流れの中で、河童などの妖怪の存在も薄れていくんだろうか? そう思うと、河童は寂しくなった。
「こんな風景、慣れないなー。でも、いつかこうなってしまうんだな」
河童は今のこの風景が、いまだに慣れない。自然豊かで、のどかだったあの頃が懐かしいよ。またあの頃に戻りたいよ。だけど、今月中はそこに帰れない。これは自分への罰なんだ。
歩いているうちに、河童は寂しくなった。やっぱり、真人といるのが一番幸せだな。早く元の世界に戻りたい。だけど帰ると、真人に会えない。どうしたらいいんだろう。河童は困っていた。
「結局、何も楽しくないや。どうしてだろう」
結局、河童は真人の家に帰ってきた。だが、夏江は河童に気が付かない。誰もいないように見えるようだ。とても寂しいな。
河童はリビングにやって来た。すると、長崎の様子が映し出されていた。今日は長崎の平和記念日だ。1945年の8月9日、午前11時2分、広島に続いて長崎にも原爆が投下された。それ以来、8月9日は長崎の平和記念日で、追悼式典が開かれる。たまたまその様子がテレビでやっていたのだ。それを見て、河童は広島の平和記念日の様子を思い出した。広島だけでなく、長崎にも原爆が投下されたとは。その時も思ったのだが、人間はどうして戦争をするんだろう。それは真人にも、夏江にもわからない。それは永遠の課題なんだろうか? 戦争のない、平和な世界こそ、理想の世界なのに、どうして世界はそうならないんだろう。人間はそうする気がないんだろうか? もう見てられない。河童は真人の部屋に向かった。
河童は部屋に戻ってきた。だが、真人はいない。いつになったら真人は小学校から帰って来るんだろう。今頃、真人は友達と楽しく過ごしているんだろうな。そう思うと、自分はここより昔の方が楽しく思えてきた。自分はここにいるべき存在ではない。
それから2時間ぐらい、河童は部屋で寝ていた。寝ている間、考えているのは真人の事ばかりだ。とても寂しい。いつになったら真人は帰って来るんだろう。いくら願っても真人は帰ってこない。
「ただいまー」
突然、真人の声がした。まさか、真人が帰ってきたんだろうか? 河童は飛び起きた。
「おかえりー」
真人は2階に向かった。河童は元気にしているかな?
「ただいま!」
真人は2階に戻ってきた。河童は寂しそうな表情だ。寂しかったんだろうか?
「おかえり・・・」
河童は元気がなさそうだ。帰ってきたんだから、早く元気を出してよ。
「どうしたの?」
「今日って、長崎に原爆が落とされたの?」
「うん」
確かにそうだ。真人も知っている。今日は長崎に原爆が落とされた日だ。まさか、河童はテレビ中継を見て、それを知ったんだろうか?
「広島もそうだけど、どうして原爆を作って落とすのかな?」
「うーん・・・」
だが、真人は答えが見つからない。戦争はやってはいけない事なのに、原爆なんて作るべきではないのに、どうして作るんだろう。どれだけ考えても、その答えは見つからない。
「思いつかないの?」
「難しい答えだね。今日、学校で先生が言ったんだけど」
今日の授業で、先生が長崎の事を言っていた。それを聞いていて、真人は思った。どうして作ってはいけないのに原爆を作るんだろう。その理由が見つからない。
「けっこう有名な事なんだね」
「うん。夏休みの登校日はこの内容が定番だから」
この日は登校日であり、長崎の平和記念日でもある。だから、同じく原爆投下を経験した広島の事も授業である。そのたびに、世界が平和であり続けるようにと考える。そして、15日には終戦記念日がある。そう思うと、8月は平和について考える月だなと考えさせられる。
「それぐらい衝撃的な事なんだね。こんなに多くの人が亡くなったと知って、こんな悲惨な出来事を忘れないように努力してるんだね。平和への想いっていうか」
真人は空を見た。空には青い空しか見えない。戦争だった頃は多くの戦闘機が飛んでいたんだろうな。空襲の時はより多くの戦闘機が飛んで、焼夷弾を落としていたんだろうな。この平和な時代に生まれた事を感謝し、二度とこんな悲劇が起きないように願わないと。
「僕、思ってるんだ。どんなに時代が移り変わって、風景が変わっても、平和への想いはいつの時代も変わらないのかなって」
最近、真人は思っている。どんなに時代が変わっても、どんなに風景が変わっても、平和への思いは変わらないんだと。
「平和への想い、か・・・。確かにそうだね!」
河童もその言葉に感心していた。平和である事はとても大事だし、これからも受け継いでいかなければならない。その為には、何をすればいいんだろう。河童にはその答えがわからない。
「わかるの?」
「うん! 戦争なんて、してはいけないんだもん!」
真人は笑みを浮かべた。河童も同じ考えを持っているんだね。どうして世界では戦争が起きているんだろう。やってはいけない事なのに。
「僕もそう思う! その気持ちをいつまでも大切にしていきたいね!」
「うん」
少し話していたら、勉強をする時間になった。今日も勉強を頑張っていかないと。今月までにやらなければならない勉強がまだまだ残っている。もちろん、自由研究もだ。
「さて、今日も勉強を始めるか!」
「頑張ってね!」
「おう!」
真人は勉強を始めた。勉強をしている間、河童はじっと空を見ていた。河童は思っていた。あの時の空って、どんな空だったんだろう。僕の住んでいたころと変わりなかったんだろうか?
真人は勉強を終え、背伸びをした。そして、後ろを振り向いた。河童は外を見ている。どうしたんだろうか?
「疲れたなー。あれっ、どうしたの?」
「こんなに風景が変わったんだなと思って」
河童は思っていた。こんなに風景が変わったんだな。これから先、僕らの住んでいる風景はこうなってしまうんだな。最初は信じられなかったけど、受け止めていかないと。
「信じられないけど、いつかこうなるんだよ」
「いまだに受け入れられないよ」
だが、河童は受け入れられない。あの頃の風景がのどかでいいのに。そこが僕らの遊び場だったのに。どうしてこうなったのかな? 豊かさのためなら、こんな犠牲が必要なんだろうか?
「直にわかるよ。これが江戸の未来なんだ」
真人は思った。人々は豊かになったと思っているけど、それは自然を犠牲にしているのでは? それによって、自然が失われて、苦しんでいる生き物もいるのでは? そう思うと、豊かさのためには何かを失わなければならないんだろうかと考えた。




