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8月8日

 8月8日、夏休みも折り返した近づいてきた。明日は登校日だ。登校日では一部の宿題が提出になる。真人はすでにそれらを終えていて、準備は万端だ。問題は自由研究だ。調べるものがかなり多いので大変だが、それほどやりがいがあるだろう。


「おはよう」


 真人は目を覚ました。目の前には河童がいる。どうしたんだろう。今日はどこか楽しそうだな。


「おはよう」

「今日は花火だね」


 今日は近くの川で花火大会だ。今日はとてもいい天気だ。いい花火が見れそうだ。


「うん」

「一緒に見よう? たまには勉強も休まないとね」


 河童は乗り気だ。一緒に花火大会を見たいようだ。家族も花火を見るようだ。今日は多くの人が川の周辺にやって来るだろうな。ひばりが原駅には多くの人がやって来るだろうな。


「そうだね」


 真人はワクワクしていた。ここ最近、花火は中止されたり、観客が少なかったり、物足りなかった。だが、徐々に元の日々が戻ってきて、とても嬉しい。


「こうしてまたみられるようになって嬉しいわ」


 それを聞いて、河童は首をかしげた。いったい何があったんだろう。何か、花火大会ができなかったり、行けなかったりする原因があったんだろうか?


「どうして?」

「2020年に新型コロナウィルスが流行して、花火大会どころかどんなイベントも中止になったの。そして、東京オリンピックは延期になったし」


 2020年、前年の2019年の暮れに中国の武漢で発生した新型コロナウィルスが日本でも流行し始めた。それによって、数多くのイベントが中止や延期になった。ニュースについてはいつも新型コロナウィルス関連ばかりになり、外出が制限される楽しくない毎日になった。どうしてこんな世界になってしまったんだろうと思う日々だった。最も大きかったのは、2020年に開催される予定だった東京五輪が翌年に延期になった事だ。翌年、2021年には予定通り開催されたものの、開催に反対する人々がいたり、無観客開催だったりで、いつもとは違う、静かな大会になった。もし、新型コロナウィルスがなければ、どんなに楽しかったんだろう。そう思った人々も少なくないだろう。


 2021年になり、新型コロナウィルスのワクチンが出回り始めた。だが、そのたびに新型コロナウィルスは変異株ができ、それに対応したワクチンができような物なら、また変異株ができるという、まるでいたちごっこのような日々が続いた。


「そんな事があったんだね」


 だが、真人はあんまり覚えていない。河童は表情だけで分かった。嫌な思い出は忘れたいと思う気持ちは、誰も一緒なんだな。


「覚えていない?」

「うん」


 やっぱりそうだったのか。もう忘れたい。前を向いていきたいと思っているんだな。自分と一緒だな。


「もう忘れ去られたんだね。だけど、そんな事があったのを覚えておいてね」


 だが、今日は花火大会だ。今夜は思いっきり楽しもう。これまでの苦しい日々を忘れて。


「とりあえず、今日は花火を楽しもう」

「そうだね」


 真人は1階にやって来た。すでに敏郎は出勤していて、ダイニングには夏江がいる。いつもの朝だ。


「おはよう」

「おはよう」


 夏江はニュースを見ていた。今日は花火大会のようだ。例年通りやるようだ。新型コロナウィルスが流行していた頃は、やらなかったり観客が少なかったけど、今年は何の制限もなくやるんだな。


「今日は花火大会らしいよ」

「本当? 見たいなー」


 真人はその予定を聞いて、目を輝かせた。今日は花火大会に行こう。素晴らしい夏の思い出を作りたいな。




 真人は2階に戻ってきた。9時から勉強を始める。それまで何をしよう。


 ふと、真人は思った。江戸の頃にも花火はあるんだろうか? とても楽しいんだろうか?


「江戸でも花火大会はあるの?」

「うん。あの時のようにきれいなのかな?」


 やっぱりあの頃にも花火はあるようだ。とてもきれいなんだろうな。多くの人が感動したんだろうな。


「きっときれいだと思うよ」

「楽しみだね」

「うん」


 真人は思った。花火は多くの人々を魅了する。そして幸せにする。それは、いつの時代も一緒なんだな。花火は、単なる夏の風物詩ではなく、こんな力を持っているんだな。


「花火って、いつの時代でも多くの人々を魅了するよね。どうしてだろう」

「やっぱり、きれいだからかな?」

「そうかもしれない」


 ふと、真人は思い出した。放浪の画家、山下清の事だ。


「山下清って画家が言ったんだ。『みんなが爆弾なんかつくらないできれいな花火ばかりつくっていたらきっと戦争なんて起きなかったんだな』って」


 山下清は、平和を祈っていた。だけど、今でも戦争が起きている。どうして山下清の主が通じないんだろう。どうして世界のどこかで戦争が起きているんだろう。もう戦争はしてはいけないのに。


「確かに! 真人の気持ち、よくわかるよ」


 河童は真人の想いに同感していた。戦争なんて、しなければいいんだ。みんなが毎日を平和に過ごせればそれでいいんだ。でも、そのためにはどうすればいいんだろう。その答えが全くわからない。


「ありがとう。戦争なんて、してはいけないよね」

「うん。花火を見て、世界中の人々が幸せになればいいよね」

「僕もそう思ってるよ」


 真人は立ち上がり、空を見上げた。戦争が起きている場所でも、こんな空を見ているんだろうか? もし、戦争が起きている場所で花火を打ち上げたら、戦争は止まるんだろうか? そして、戦争をしなくなるんだろうか?


「平和への気持ちは、今の時代でも変わらないんだね」


 河童は感じた。平和への気持ちは、今でも変わらないんだな。




 3時ぐらいになった。花火まではまだまだだが、混雑も考えて早めに行かないと。そう思った夏江はすでに準備を終えていた。そろそろ真人にも言わないと。きっと真人は待っているだろう。すでに明日提出の宿題を終えているらしい。だから、そのご褒美として花火を見せようかな?


 その頃、真人は2階で自由研究を書いていた。今年はとても濃い内容のものになりそうだ。きっとみんなびっくりするだろうな。


 と、そこに夏江がやって来た。真人にはその理由がわかった。隅田川の花火を見に行くんだろう。


「さて、花火を見ようか?」

「うん」


 3人は自宅を出発した。夏江には見えないが、河童も一緒だ。夏江は河童が真人の隣にいるのを知らない。3とても暑い。外を歩いている人はあんまりいない。あまりの暑さに冷房から離れる事ができず、家から出られないと思われる。


 3人は花火大会の会場にやって来た。中には家から見ようとする人もいる。見るためだけに、こんな場所に行くのが疲れるだけで嫌なのだろうか? だが、3人はここから見る事にした。やはりここから見る花火が美しいに決まってる。


 日も暮れて、徐々に人が集まってきた。彼らのほとんどは和服で、とても騒がしい。もうすぐ花火大会が始まる事を予感している。


 そして、花火大会が始まった。東京の夜空に花火が打ち上がる。彼らは花火に感動し、中には写真を撮る人もいる。3人も花火に感動していた。


「きれい!」

「やっぱり花火は多くの人を魅了するんだね」


 ふと、真人は思った。河童の北江戸時代って、どんな花火が見れたんだろう。きっともっと美しかっただろうな。あの頃の花火を見てみたいな。でもそんな事は出来ない。タイムマシンがあれば見られるのに。


「江戸時代はどんな風景が広がっていたんだろう。全く想像がつかないよ。もしタイムマシンがあれば、その時代に行って、花火を見たいよ」

「本当?」


 河童は驚いた。歴史はまだ習っていないけれど、江戸時代にこんなに興味を持っているとは。江戸時代に興味を持ってくれないけれど、嬉しいな。


「うん。だけど、それはできない。タイムマシンはこの時代には存在しないから。あと何年経てば、できるのかな? わからないよ」


 ふと、真人は思った。彼らはどんな想いでこの花火を見ているんだろう。山下清が思っていた事のように、この世界から戦争がなくなるようにと考えながら、花火を見ているんだろうか? それとも、単純に美しいと思ってみているんだろうか?

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