表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/43

8月3日

 8月3日、真人は銀座線に乗っていた。日曜日、銀座線は空いていた。とても静かだ。車内にはモーター音がよく聞こえる。河童は思っていた。今日はどこに行くんだろう。今日はどんな変わった風景を見るんだろう。


「今日はどこに行くの?」

「日本橋。東海道の起点らしい」


 日本橋は知っている。東海道の起点だ。乗り物ができ、道路があちこちにできた今、日本橋はどうなっているんだろう。今も日本橋はあるんだろうか?


「そうなんだ」


 と、河童は下を向いた。変わってしまった都会を考えるのが嫌なようだ。昔の風景がいいようだ。


「今はただの都会になってしまったんだけどね」

「ふーん・・・」


 真人は思った。河童にはやはり、あの頃の風景が好きなんだろうか? またあの頃に戻りたいんだろうか?


「昨日、いろいろと調べたんだけど、ここは昔、魚河岸だったんだね」

「ふーん」


 2人は日本橋駅に降りた。日本橋駅は、銀座線の他に、東西線、都営浅草線の駅だ。だが、こんな所にも駅ができたとは。東京は変わったな。


 2人は日本橋にやって来た。日本橋の上には高架橋があり、少し暗い。河童は驚いた。昔は木橋だったのに。こんなに丈夫な橋になってしまった。あの頃の木橋はもうなくなってしまったんだな。そして、景色は全く変わってしまった。


「関東大震災が起こった際に、復興とともにその機能が築地に移転したんだって」

「そうなんだ。僕の頃は魚市場があって、賑やかだったのに」


 その頃は、魚河岸の機能もあった。だが、関東大震災によって、魚河岸は築地に移転になった。あの頃は多くの魚河岸があったのに。今ではビルばかりになり、当時の風景はまったく失われてしまった。


「時代は変わったんだよ。日本橋はこんなに変わって、高速道路もできて」


 それを聞いて、河童は下を向いてしまった。どうしたんだろう。


「うーん・・・」

「どうしたの?」

「こんなに変わっちゃったんだ」


 河童は残念に思った。こんなに変わってしまったとは。地震に負けない街にするには、あんな強い建物を作らなければならないんだろうか? そして、魚河岸を移転しなければならないんだろうか?


「うん。江戸は東京に変わり、そしてさらに変わりゆくんだよ」


 東京はめまぐるしく変わりゆく。そしてその中で、昔ながらの風景は変わっていく。それはいい事なんだろうか?


「そして、あのころの面影はなくなっていくのかな?」

「それでも、残り続けるものはあるんだよ」

「そうなんだ」


 例えばこの橋だ。この橋は、魚河岸の機能が築地に変わる前からある。それは今でも、ここが東海道の起点だと示している。そしてここが、国道1号線の終点だ。今も昔も、日本橋は東海道の始まりって事に変わりはないんだ。


 ふと、真人は思った。今度は築地に行ってみようかな?


「じゃあ、日本橋の機能が移転した築地に行こうかな?」

「うん」


 2人は築地に行く事にした。築地は2018年まで魚河岸の機能を持っていた場所で、多くの人に親しまれてきた。だが、老朽化の進行などにより、豊洲にその機能が移転した。


 2人は再び地下鉄に乗っていた。今度は都営浅草線だ。浅草線は都営地下鉄最初の路線で、京成と京急をつなぐパイプラインのような役割を果たしている。ここを行きかう電車は様々で、京急や京成の他に、京成の子会社、北総鉄道の電車もやって来る。


 2人が乗ったのは京成の電車で、京急には乗り入れず、西馬込に向かう電車だ。中には外国人観光客もいる。長い夏休みを利用して、ここに来ていると思われる。彼らを見て河童は思った。開国や交通網の発達によって、こんなに多くの人がやって来るのか。日本も変わったな。


 大門で大江戸線に乗り換えて、2人は築地市場にやって来た。だが、そこは静まり返っている。賑やかだった築地市場からは、人はいなくなった。まるで祭りの後のようだ。


「ここが築地なの? ここにも何もないけど」

「ここも移転したんだよ。豊洲に」


 真人は移転前の築地を見た事がない。だが、資料でその様子を見た。とても活気があったという。だが、今ではそれがまるで嘘のようだ。


「そうなんだ」

「築地が魚市場だった頃はとても活気があったのに、今ではこうなってしまった」


 もう生でその様子を見る事ができないと感じると、下を向いてしまう。どうしてだろう。風景が変わり、当時の風景を生で見れなくなってしまう悲しみとは、それだろうか?


「こんなに近代的になったんだね」

「時代の流れって、すごいでしょ?」

「うん」


 ただ見ていても面白くない。今度は豊洲市場に向かおう。豊洲はもっと面白くて、多くの人がいるだろう。


「じゃあ、今度は豊洲の市場に行こうか?」

「うん」


 真人は再び大江戸線に乗り、月島に向かった。豊洲市場へは月島で有楽町線に乗り換えて、そこから今度はゆりかもめに乗り換えて、市場前まで行く。河童は夢中で全面展望を見ている。流れる車窓に興味津々なようだ。300年前にはこんなに速い乗り物はないから、興味がわくのだろう。


 2人は月島にやって来た。以前、佃に行く時に降り立ったが、今回は乗り換えのためだ。豊洲はこの次の駅だ。有楽町線には、東京メトロの電車だけではなく、東武鉄道、西武鉄道の電車もやって来る。とても賑やかな路線だが、行先は新木場ばかりだ。


 豊洲に降り立つと、ゆりかもめが見えた。お台場に行く時に新橋から乗ったが、今回は新橋ではなくこっちから乗る。ゆりかもめには多くの人が乗っている。その多くが観光客のようだ。彼らは市場ではなく、お台場に行くと思われる。


 2人は市場前駅にやって来た。市場前には多くの人が来ているが、そのほとんどが豊洲市場で働く人だ。みんな忙しそうだ。


 2人はデッキを進んでいき、豊洲市場に入った。豊洲市場は真新しく、清潔感のある構内だ。


「これが、豊洲市場?」

「うん。ピッカピカでしょ? できたばかりだもん」


 河童は驚いた。こんなに清潔な場所だとは。江戸時代とは全然違う。それに広い。この300年の間に、こんなに広くなったんだな。そして、いろんなものが食べられるようになったんだな。


「そうだね」

「すごいなー。江戸時代と全く違うよ」


 河童は人間の進化にとても驚いた。こんなに人間は発達している。でもそれは、いつからこんなに発達したんだろうか? それも調べたいな。


「すごいでしょ? こんなに変わったんだよ」

「それにしても広いね」


 河童は辺りを見渡している。市場がこんなに変わるとは。


「うん」

「だけど、日本橋に残っている会社もあるんだね。これは覚えておこう」


 だが、覚えておきたい事もある。かつてこの機能は、日本橋にあったんだと。日本橋はただ、東海道、国道1号線の起点だっただけではない。かつてはここに魚河岸の機能があったんだという事を忘れてはならない。


「自由研究、順調に進むといいね」

「ああ。みんなに見せびらかすのが、楽しみだね」


 真人は思った。これも自由研究のネタにしないと。これまでで多くの事を知った。これはきっとすごい自由研究ができるぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ