8月1日
8月1日、今日から8月だ。夏休みはあと1か月だ。だが、真人はあんまり気にしていない。夏休みはまだ始まったばかりだ。夏休みはこれからだ。まだまだ自由研究は途中だが、徐々に進めている。来月には完成させて、みんなに褒めてもらわないと。
真人は今日も田園都市線の電車に乗っていた。今日は汐留、そしてお台場に行く予定だ。お台場へは地下鉄ではなく、ゆりかもめで行く。お台場には地下鉄が通っていない。地下鉄の1日乗車券では行けない。なので、あんまり行った事がない。
「今日はどこに行くの?」
真人は振り向いた。河童だ。河童は気になっていた。今日はどこに行くんだろう。毎日が楽しみになってきた。
「お台場」
河童は首をかしげた。全く聞いた事のない場所だ。どこだろう。300年の間に新しくできた場所だろうか? ここはどんな場所なんだろう。観光スポットだろうか?
「そんな所があるんだな」
「この時代にはないの?」
河童はうなずいた。この頃にはお台場はなかったようだ。真人は車窓から海を眺めようとした。だが、見えない。300年前はここからも海が見えたんだろうか? どんな景色だったんだろう。ここ最近、つくづく感じている。
「うん。埋め立てられてできたのかな?」
「そうかもしれない」
真人は大江戸線に乗り換えて、汐留にやって来た。汐留にはシオサイトがある。ここは国鉄の汐留駅の跡地に作られた高層ビル街だ。国鉄の汐留駅はかつて、初代新橋駅だった。新橋駅は日本における鉄道発祥の地だ。そう、ここから日本の鉄道は始まったのだ。だが、2人はここには行かない。ここからゆりかもめに乗り換え、お台場に向かうのだ。
2人はゆりかもめの乗り場にやって来た。ゆりかもめは新橋からお台場を通って豊洲までを結ぶ新交通システムだ。今日も多くの人が来ている。夏休みのこの時期、より多くの人が来ている。
「これに乗って行くの?」
「うん、ゆりかもめって言うんだ」
「ふーん」
2人はゆりかもめに乗った。ゆりかもめは走り出した。2人はそこからシオサイトを見ている。河童は驚いている。こんな高いビルができるとは。こんなにも建築技術が発展するとは。自分の頃とは比べ物にならないな。
「こんなに高いビルが」
「すごいだろー」
河童は思った。こんなにも世界は変わるんだな。そして、技術は進化するんだ。でも、それによって自然が失われていく。それはいい事なんだろうか?
「こんなに変わるなんて」
真人はここから日本の鉄道の歴史が始まったんだと感じた。今では日本全国に網の目のように鉄道が走っている。その歴史はここから始まったんだなと思うと、ただ驚くばかりだ。
「ああ。ここから日本の鉄道の歴史は始まった。そして、日本全国に広がった」
「すごいなー」
真人は自信気な表情だ。この東京にも、鉄道が網の目のように走っている。それらは、生活に欠かせないもので、通勤・通学の重要な足になっている。300年で人々の足はこんなに変わった。見違えるほど便利になった。果たしてそれは、いい事なんだろうか?
「特に東京は網の目のように張り巡らされてるもん」
「そうだね」
と、大きな船が海を行きかっているのが見える。河童は船をじっと見ている。
「これが船?」
「うん」
河童は驚いている。こんなに大きな船ができるとは。300年前のよりずっと大きい。こんなにも大きくなるとは。
「あの時の船と比べて、大きいね」
「本当?」
「うん。とても小さい、木でできた船」
300年前はこんな船だったんだな。そんな遠くまでは行けなかったんだろうな。
「そうなんだ。これで、いろんな離島に行けるんだよ」
「そうなんだ」
レインボーブリッジが近づいてくると、お台場が見えてきた。河童はお台場をじっと見ている。ここがお台場なんだろうか? とても近代的な風景だ。300年でこんな場所ができるとは。東京の移り変わりは著しい。
「見えてきた!」
「これがお台場?」
「うん」
ゆりかもめは徐々に高度を上げていく。ゆりかもめはレインボーブリッジを渡って、お台場に入っていく。
「この大きな橋を渡っていくんだね」
「うん」
ゆりかもめはその手前で、時計回りに1周する。高度を上げるためにループ線になっているのだ。河童は驚いている。こんな場所もあるんだ。人間の技術力の進化って、すごいな。
「すごい! 1周回る!」
「すごいでしょ?」
「うん」
河童は驚いている。人間の乗り物はこんなに進化したんだな。これから100年先にはどんなのがあるんだろう。全く想像できないが、もっとすごいのが走っているだろうな。
「こんな乗り物もあるんだー」
「海を越えるんだー。すごい風景だなー」
「そうだろ?」
「うん」
ゆりかもめはレインボーブリッジを渡り、お台場にやって来た。お台場には様々な建物がある。フジテレビの本社、お台場海浜公園、テレコムセンター、アクアシティお台場、東京国際クルーズターミナルがある。東京にはこんな人工島があるんだな。河童は驚いている。
「ここがお台場?」
「うん」
河童は様々な建物に驚いている。江戸時代とは比べ物にならない。これから100年先は、どんな建物ができるんだろう。もっとすごいのができるんだろうな。
「こんな大きくて奇妙なものも」
「すごいな。江戸時代ではこんなの考えられないよ」
ふと、河童はお台場から東京を見た。江戸はこんな風景になったんだな。ここから見ると、当時の景色は全く失われている。あの頃の江戸が好きだったのに。
「東京って、海から見るとこんな風景なんだね」
「すごいだろ?」
「うん」
突然、河童は思った。どうして人間は海を埋め立てていくんだろう。そして、風景を変えていくんだろう。
「どうしてこんなに海を陸に変えていくの?」
真人は少し考えてしまった。自分にもわからない。これも自由研究で考えなければならない事柄だろうか?
「それはわからない。父さんや母さんに聞いてみようかな?」
「そうだね」
真人は少し考えてしまった。ここは楽しいお台場なのに。そして、真人は下を向いてしまった。河童は真人の表情を、心配そうに見ている。とんでもない事を聞いてしまった。こんな事を聞いて、本当によかったんだろうか?




