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卒業式(2022年3月17日)

 嫁が今日は雨が降るとか言っていたが。ステファニーは俺の膝の上で寛ぐ。朝7時、婆さんの家の庭に茶トラが二匹。ということは一匹は「だんご」か。30秒ほど動画を撮って、ファミマのWi-Fiを利用してユーチューブにアップしてやった。きよのちゃん、見てくれるだろう。


 曇り空だけど暖かい。ステファニーも俺に擦り寄ってくる。駐車場、昨日レジャーテーブルを出していた辺りに何か落ちている。昨日見つけたブルドッグのフィギュアの前足と後ろ足二本だ。

『あのブルドッグ確かその辺に投げたな』

 と、ランサーの前に落ちていた。嵌め込んで完成。


 12月5日に二人と知り合って三ヶ月ちょっと。今日は二人の卒業式だ。あっという間だったな。ただ残念なのはかなえちゃんがグループを抜けてしまったことか。車の中でアメブロを更新したり居眠りしたりしていた13時過ぎ、女の子の話し声が。ふと視線を上げると、あいちゃんときよのちゃんの姿が。

『おうさすが卒業式。あいつらブレザーにスカート履いとる。胸には菊の造花か』

 車を降りて迎える。

 あいちゃん俺に、「うちらかわいい?」

「おうめっちゃかわいいわ。ブレザーってみんな持っとったんか?」

「そうだよ」ときよのちゃん。

 あいちゃん、ネクタイを懸命に結ぼうとしているが…。

 きよのちゃんは黒いストッキングに革靴なのに、あいちゃんは生足に運動靴だ。

 俺は、「きよのちゃん良い物やるけん手ぇ出して」

 素直に差し出した掌に載せてやる。俺が手が引っ込めて、きよのちゃん、「きゃっうんこ!!」と下に落とす。拾ってやって、「な訳ねぇよ。昨日のブルドッグの足全部見つけた」

 あいちゃん、「こんなちっちゃいのに猫じいの目ぇ凄い!これ猫じいの車に載せて守り神にしたら」と俺に返す。


 あいちゃん後部座席に乗って、「猫じい狭いぃ」と当然の如く文句。すかさず、倒して寝ていた助手席と運転席のシートを起こしてやった。俺はとほほ気分だ。この車、完璧に二人の寛ぎ場所になっているから俺の要望は通らない。その証にあいちゃん、ドリンクホルダーにストックしていたお菓子をパクつき、「猫じいこれ!」と、そのゴミを当然の如く俺に差し出し、俺は下僕?の如くポケットにしまう。

 あいちゃん、「はい見事な上下関係でしたぁ」とか抜かしてやがる。でもかわいいから抗えない。何でも許してしまい兼ねない俺だ。


 俺は、「卒業式泣きよる奴居ったか?」

「居たよ」ときよのちゃん。

 あいちゃん、ネクタイをこねくり回しながら、「せっかく朝お父さんが結んでくれたんやけど上手く出来ん」

「毎日ネクタイ結んでいる大人は慣れてるよね」と続いたきよのちゃんに、あいちゃん、「お父さんは鉄鋼屋さんだよ」

 あいちゃん、「猫じい、ネクタイ結ぶ動画見せてぇ」と言うから、タブレットでユーチューブを開いてやった。見ながら結んでいたが、細い方の位置がおかしい、「もう出来ない〜!」と癇癪を起こし掛ける。見兼ねたきよのちゃんが、「ちょっと貸して」と弄ってやったら何とか見栄えがするようになった。

「マリア(きよのちゃんのこと)ありがとう。これでいいや」

 あいちゃん、「猫じい温泉の動画上げとったやろ。そこにうちのお菓子写っとったよ」

「おうそこまで気付かんやった。確かに動画撮ったとき左後ろドア開けとったわ」


 きよのちゃん、「じゃぁうちら行ってくるね。また来るよ」

 って、別にどこに行くのか訊く必要はないか。俺はずっと車の中。時折、車外に出て、ステファニーを膝の上に乗せて撫で回してやる。17時になったが、二人、来る気配がない。

『仕方ない。俺がやるか』とポリバケツを開けたら、もわ〜っと腐敗臭。二人が全部やらずに猫缶に残していた餌が腐っている。幸い、新しい猫缶が一つ残っていたので、駐車場の突端に出て猫にやった。ステファニーにアムアム、イモコにアニキ、それと握り丸。


 猫缶の四分の三ほどをやり終えたとき、住宅街の路地に話し声。

 きよのちゃん、「猫じいナイスぅ」

「うわっちゃ〜、もうほとんどやってしまったわ」と俺。二人もポリバケツから自分の餌を持ち出した。

「お前らその餌腐っとるぞ」

 二人、臭いを嗅いで、「そうかもしれん」とは認めながら、きよのちゃん、寄って来たシロにあげようとしたが、食べない。

「もうシロどうして」と嘆いていると、きよのちゃんの手に突然、シロが猫パンチ。

「痛〜!もううち何もしてないのに」と怒るきよのちゃん。あいちゃんが、「この〜シロ!」と追い払う。

「シロも食わんってやっぱり餌腐っとんやないか?」


 ランサーの下に隠れて出て来ようとしないステファニー。あいちゃんの古い餌には見向きもしない。新しい餌を眼前に出したら、ぱくっ。

 今度はきよのちゃんが古い餌を出して、ぱくっ。

「あれっステ、味分かるんかいな?」

 あいちゃんがポリバケツを覗いて、「もう新しい猫缶無いのぉ?」

「俺が開けた猫缶で最後や。ひとっ走りナフコに買いに行ったるわ」と家に入ったが、嫁と一悶着。

 出て来た俺にきよのちゃん、「猫じいもういいよ。みんな居なくなったよ」

 結局、古い餌も新しい餌も全部無くなってしまっていた。あいちゃんときよのちゃん、スカートを履いているのにコンクリート地に直座りしている。


 俺が、「お前ら昨日かなえちゃんに会ってきたんか?」

 きよのちゃん、「留守やった」

「かなえちゃんお前らから逃げよんじゃねぇ?」と俺。

「そうかもしれん」ときよのちゃん。

 きよのちゃん、片方だけ革靴を脱いでいる。あいちゃん、「マリア靴貸して」と履いてみる。ぴったり収まった。


 門限が近付いてきよのちゃん、「明日は雨だから来ないかもしれんよ」

 俺は、「ああ分かった。そんときは俺が餌やっとくわ」

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