4 『ラグスイッチ2』
土煙が思い切り払われ、黒い人が姿を現す。
シグマは、システムは話すことはないと、そう言っていた。このイレギュラーにどう対応するべきか・・・
「・・・さぁ、戦おうか。 そのためにきたんだろ?」
瞬間、黒い影が消え、姿を視認する時間も無く腹部に衝撃が発生する。
「ぐぁっ!・・・」
痛みはないが、衝撃で肺の中にある酸素が吐き出され、体が宙を滑る。
そのまま壁に衝突し、体は止まった。
「あぁ、くそッ!・・・新入りが対応する案件じゃないだろ・・・」
壁がパキパキと再生し始め、体を飲み込もうとする。
「やべ・・・早く抜け出さなきゃ強制スタックだ。笑えない・・・」
壁から体を剥がし、着地する。
痛みがないのはありがたいが・・・何が危険かわからない。
システム内での死は強制的に現実に戻される。
クエスト失敗だ。
だが・・・プロゲーマーでさえラグには勝てない・・・どう戦うか。
瞬間、黒い影が指をパチンと鳴らした。
ステージに変化が起こるように大量のシーソーが視界を埋め壁を作る。
ザ、ボス戦と言った感じだ。
ゲーム好きの俺からしたらかなり好きな演出だ。
「ボス戦のステージって感じか?」
俺がそういうと、黒い影はニヤリと笑った。
「分かるかい?やっぱりボスのステージってのは演出としては外せないかなと思ってね」
黒い影はそう言った。
なるほど。
ステージ・・・と言ったな。
なら俺もアイツもこの範囲から逃げられないはずだ。
ボスはステージから出られないからな。 たまにバグで出てくるけど。
「じゃあ、始めようか・・・」
黒い影がそう呟いた瞬間。 世界の時間がピタリと止まる。
「マジか・・・視界に入るもの全てがラグの範囲・・・。マズイ・・・不可視の攻撃がくる!」
瞬間、体に衝撃が走り、パァンと飛ぶ。
地面を転がりながら起き上がり、適当に銃を撃ち込むが手応えはない。
「どこ撃ってるのさ? やっぱり。見えないみたいだね。ラグってのは完全に認識の外だから、対処は難しいねぇ」
背後から声が聞こえ、振り返ると同時に発砲するが、影の前で弾丸が停止する。
「マジかよ・・・」
背後から肩を優しく叩かれ振り返ると、顔面に強烈な一撃をもらう。
ズシンと全身に響き、膝をつく。
「ラグって・・・酷いと世界が止まるもんね。でもゲームの良いところは、ラグがあまりにも酷いと本体に負荷がかかり、ゲームがシャットダウンされること。 この世界にはシャットダウンはないから、未来永劫閉じ込めることだって出来るんだよ?」
そう言いながら俺の首を掴み、持ち上げる。
「ぐっ」
影はニヤリと笑いながらいう。
「気持ち悪いだろ?痛みがない世界なのに、苦しみがある。ただの思い込みだよ。 君たちが起こす現象でわかりやすくいうなら、ホラーゲームとかで隠れてる時に何故か小声になっちゃうとか・・・そんな話かな?」
長々と話す影を睨みながら、策を練る。
何がないだろうか。
ラグは、見ている視界と起こっていることが違う。
弾丸は止まって見えるが、実際は動いている。
・・・なら策はあるな。
「そんな余裕こいて大丈夫か? 案外危険な位置かもしれんぞ?」
「ん?何を言っているんだい? ラグを使えばどんな場面でも切り抜けられる」
影はそう言った。
「そうかぁ。 俺の方が知識があるらしいな」
瞬間、影の腕をつかむ。
「捕まえた」
ラグは世界が止まっているように見えるだけだ。
だから、一度捕まえてしまえば止まっていようが、動いていようが、関係ない。
俺は銃を構え発砲する。
案の定世界が止まり、弾丸は停止するが、掴んだ腕には感触が残り続け、引っ張られる。
あとは簡単。
その方向に弾丸を撃ち込めば・・・
パァンと銃声が響き、パキンッと音がなる。
世界が崩れて、真っ白な空間に投げ出される。
「終わりっと。 シグマさん。ウィルス。ボスの撃破完了。転送システムをお願いします」
そう言って数秒。
シグマの声が響く。
「お疲れっス・・・えーっと・・・転送、転送・・・あ、贈ったっス! 帰ってくるの待ってるっスねぇ!」
そういうと、白い空間に青い筒が現れる。
「じゃあ、帰りますー」
そう言って転送装置に乗った。