3 『ラグスイッチ』
視界は動かない。
もちろん俺自身は確実に動いている。
地面を踏み締める感覚も、銃の重さも全て感じる。
だが、俺の意思、俺の感覚で感じれるもの以外は止まっているようだ。
「どう動けばいい? あいてからはどう見えている?」
ラグというのは止まっているように見える。という現象だ。
これには視点の差異が生まれる。
まぁそこは問題じゃない、両者ともラグが発生している場合は条件は同じ。
問題は今見ている光景が偽物だということだ。
ウィルスは俺の目の前に体があるが、実際はどこにいるかわからない。
簡単に言おう。 俺は今、写真を見ているような状態だ。
車好きや電車好き、まぁ他にもなんでもいい、遊園地の乗り物でも構わない。
動く物体の写真を撮ると、写真を撮った機械には物体が保存されるが、常に物体は動き続けているだろう。
だから再度写真を撮っても写り込まないはずだ。
ラグってのはそういうことだ、数秒置きに動く物体の写真を見せられたからと言って、次にその物体が前にいるとは限らない。
おまけに腹話術よろしく、全ての音が遅れて聞こえるか、消滅するかの2択だ。
だから対処法は一つ。
何もない空間にも、弾丸をぶち込んでみる。
俺は銃を構え、弾丸を撃ち込む
まるでダンスをするかのように、クルクルと回りながら弾丸を放つ。
「位置さえわかればラッキー程度の感覚。 期待はできないか?」
瞬間、パキンッと音がなる。
俺は瞬時にそちらを向き、銃をリロード。
弾丸をさらに撃ち込む。 パキンパキンッと音が鳴り、手ごたえを感じる。
「やりぃ!透明な敵発見!」
被弾時に音があるのは助かった。
無音ならかなり難しかったかもしれない。
次第に姿が見え始める。
ブレた空間に何かが姿をあらわし、血を流す。
「血?」
ウィルスは生物なのか?
システムの世界じゃありえないだろ。
プレイするゲームの描写か?
そのウィルスは俺に手を伸ばしたあとパタリと落ちる。
世界が動き出し、視界に違和感がなくなる。
死体を跨ぎ、シーソーに向かう。
「破壊すればいいか?」
シーソーに銃を向け、数発撃ち込む。
もう動かなくなったシーソーを蹴り倒し、次を探そう。
その時、空間に声が響いた。
「ゼータさん。大丈夫っすか?」
声の主はシグマだ。
今回のチートを理解していなかったからか、心配しているのだろう。
「シグマさん。はい、大丈夫ですよ。チートは多分。ラグ関係ですね。 今ラグを起こすスイッチ的な物を破壊しました」
俺がそういうと、シグマが間抜けな声をだす。
「ラグ関係っスか? チート全てに言えるんスが、チートを発動させるためのスイッチは存在しないっスよ? 何を破壊したんスか?」
シグマの声が重く響いた瞬間、背後から爆発音が響いた。
振り返ると土煙で何も見えない。
「ラグに反応するなんて、人力チートかい?それとも経験?」
土煙から声が聞こえる。
「シグマさん、チートって話しますか?」
「え?なに言ってるんスか。システムは話さないっスよ」
「ですよね」
ならイレギュラーか?
マズイな・・・
アルファもベータもいない時にこれはマズイ・・・新人が対応する案件じゃないぞ。
「または・・・君もチーターかい?」
土煙の中から俺を指差す黒い手が見える。
・・・優しい声は、不気味な雰囲気を纏っていた。