1 『侵入』
昨日に引き続き、俺はしっかりと出勤している。
高校は昼間だから、俺が働くのは夕方の数時間。
この時間帯は、チートの使用率が爆増するため、仕事は尽きないと、オメガが言っていた。
「おはようございます」
俺がそういうと、シグマが機械の後ろから顔をだす。
「おはよっス!少年!」
大きな胸が弾み、視線を逸らす。
「あ、今日の仕事はこれっすね。社長は今どっか行ってるんで、システムにアクセスするときは言って欲しいっス!」
そう言われ、キョロキョロとする。
あれ、二人の姿が見えない。
「シグマさん、アルファさんとベータさんはいないんですか?」
「んぇ?いるっすよ? でも、今は別のチート処理でシステムに侵入してるんで、まだ返って来ないっスねぇ。 何か用事が?」
シグマにそう言われたが、別に用事はないので首を振った。
「じゃあ、すいません。シグマさん、俺も入りたいんで、設定お願いします」
「アイアイサー!」
俺がお願いすると、シグマは胸を揺らしながら敬礼をした。
また昨日と同じくカプセルに入る。
「今回もチートの破壊が目的っス。 依頼が入ったばっかりなので、まだ詳細はわからないんですが、十分注意で・・・!」
シグマにそう言われて、俺はゆっくりと頷く。
「じゃあ、閉めるっスねぇ。 すぐにアクセスを開始するっス!」
ゆっくりとカプセルの蓋が閉まり、プシューとガスが出る。
次に目を覚ましたのは前回と同じく真っ暗な空間。
数秒待つと、バリバリと音を立てながら世界が構築されていく。
空が見え、風を感じる。
俺はホルダーに刺さっている銃を抜き、散策を始める。
「どこだ・・・」
瞬間、視界にある壁が一瞬だけブレた。
ブレた・・・と言うと伝わりにくいか。
そうだな、一部だけ画質が荒くなった、とでも表現をしよう。
「なんだ、これ。・・・前回はなかった」
その時、背後でキュイーと鳴き声が聞こえ、振り返ると目ん玉に翼が生えたようなグロテスクなモンスターがこちらを見ていた。
バサバサと羽音を立てながらキュイキュイっと鳴く。
違和感がありよく観察をすると、鳴き声はするが口がない。どこから音を出しているのだろう。
「ウィルス!」
転送システムの設置はウィルスを含めボスを倒さなくてはできない。
ここで仕留めよう。
俺は銃を構え、ウィルスに照準を合わせる。
瞬間の出来事だ。
ウィルスの身体の画質が一瞬だけ荒くなる。
「なんだ? またか?」
俺は目を擦り、見つめる。
まぁ破壊して仕舞えば変わらないか。
俺は引き金を引き、一発撃ち込む。
それはウィルスを貫いた。
だが、破壊はできない。
「ん?被弾はあるのか?てか、貫通しただろいまの」
何かがおかしい。
貫通してしまった。
俺はおかしいと思いつつも、再度発砲し、弾丸を数発撃ち込む。
「うぇ? なんで貫通するんだ?」
瞬間、ウィルスの身体がピタッと止まる。
「え?・・・なんだなんだ」
次の瞬間、ウィルスは俺の顔の前までまるで瞬間移動するように現れた。
あまりの驚きに、体が跳ね、瞬時に引き金を引き弾丸を浴びせるがノーダメージ。
キュイキュイと声だけが響く。
そして、ウィルスの身体が完全に停止した後も声だけが鳴り響く。
「なんだなんだ」
俺は再度ウィルスに弾丸を浴びせるが、まぁ相変わらず貫通をする。
俺は頭を抱え、なんとなくウィルスとは関係ないところに銃を発砲すると、パキンと音が響いた。
「ん?なんだいまの音」
瞬間、またもやウィルスが目の前に瞬間移動してくるが、今回はベリベリと体が剥がれ、破壊を確認した。
「・・・え、わかんないわかんない」
正直言って不安である。
だが、俺もゲーマー・・・似たような場面には何度か遭遇している。
と言うか、オンラインでやるゲームには必ず纏わりつく問題。
『ラグ』と呼ばれるものだ。
ラグとは遅延の事で、機械は常にダウンロードしているのだが、そのダウンロードが遅れた場合に発生する小さな不具合である。
これは短時間で戦況が切り替わる、格闘、FPS、主にシューティングゲームをするプレイヤーからはひどく嫌われている。
ゲームをやらない人に簡単に説明すると、完成したパラパラ漫画から数枚引き抜いて見せられてるような感じだ。
自分が操作しているキャラと見ている画面に感覚的なズレが生じる。
すると、俺がさっきウィルスに発砲してもダメージにならなかった『弾抜け』や、自分や相手が瞬間移動するようなことが起きる。
移動が困難になる場合もあるため、俺も嫌いだ。
「そういえば・・・数年前にラグを意図的に引き起こすチートが流行ったな・・・なんだっけ」
まさかそれだったりしないよな?
俺は空を仰ぎながら頭を抱える。
「マジで・・・ゴミじゃん・・・」
俺は力なくそう呟いた。