4 『ウォールハック2』
寝転んだ俺たちの頭上を弾丸が飛び交う。
「もう・・・むりぃ」
「諦めるの早いよゼータ。頑張ろうよ」
「そうだ!頑張れよ! もっと声出せよ!」
しょげている俺を慰めようと、アルファとベータが俺に優しい言葉をかける。
「声出してもあまり意味ないんじゃ・・・」
「はいー、俺様に逆らったぁ! いぃぁぁぁやぁぁぁぁぁ!」
なんなんだこの人は、その場の勢いで生きてきたような人だ。
頼りになるのか?
ベータが叫びながら立ち上がると、頭に弾丸が直撃する。
「うぉぉ!ベータさぁぁぁぁん!」
力なくパタンと倒れたベータに駆け寄るが、アルファは冷たい顔で見ている。
「アルファさん!ベータさんが!」
「いつものことだからいいのいいの。 別に、システム内で死んでも本体に影響ないから、まぁリトライは出来ないから、このシステム内にはベータはもう入れないけどね」
アルファは淡々と言いながら銃の動作を確かめる。
「じゃあ、ベータが暇しないように早く帰ろうか」
アルファが重い腰を上げ、何もない方向に走り出す。
するとエリアがガチャガチャと動き始め、アルファの前に壁が現れる。
壁から弾丸が生まれ、アルファの方に飛ぶが、難なく回避する。
瞬間、アルファが壁に銃口を向け走りながら発砲をすると、人形の何かが倒れる。
「ゼータ。終わったよ」
その声と共に世界が崩れて、四方が真っ白に変化する。
「これがチート?」
「人間の形をしといるけど、これもシステムだから躊躇しないように。 システムってのは道具なんだよ。だからいつか捨てられる。 それが嫌で、こいつらは人の形を真似たんじゃないかな。 まぁ、システムに感情があるか知らないけど」
そう言って、アルファはスマホを取り出す。
「シグマ、終わった。転送システムの設置お願い」
アルファは電話でそう言った。
瞬間、真っ白な世界の先に、水色の筒状の何かが現れた。
「あれが転送装置。乗ればシステムから脱出できるよ」
そう言って、アルファは先に歩みを進める。
「アルファさん」
「ん?なに?」
俺は前を歩くアルファに声をかける。
「なんで敵の場所がわかったんですか?」
「なんでって、相手からはこっちが全て見えていて、こっちはなにも見えないってなったら、油断するでしょ。 不意打ちないし、なんでも。必ず先手を打てる。バレないように。つまりは、『甘えた』んだよ」
アルファは笑いながらそう言った。
俺たちは転送システムに乗り、このシステムとの接続を断つ。
プシューと音が聞こえ、目を開けるとアルファとベータが俺を見ていた。
「初任務お疲れぃ!」
「お疲れ様ぁ」
これは先程までの会社の中か。
不思議な体験だったな。
「どうよ、ゼータ役に立った?」
「うん。先に死んだ誰かさんよりかは全然役に立ったよ」
笑いながらアルファとベータが話す。
その時、その背後からオメガが姿を現した。
「初任務ご苦労。ゼータ、この職場でやっていけそうか? 社長の俺が言うのもあるだが、賑やかで従業員も悪い奴じゃない。楽しめると思うが」
俺はそう言われて少し考える。
確かに、いい感じだ。
仕事の内容はかなり不思議だが、新たな経験とするなら楽しめる。
「はい、お願いします」
そういうと、アルファが俺の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。
「じゃぁ!新人決定!」
ベータの声と共に、俺は正式にこの会社で働くことになったのだと、実感した