8.二人で
リアとアンリは無事に結婚して住まわずの森に小さな一軒家を建てて暮らしている。この森には自分が想像していた以上に多くの獣人たちが住んでいて最初は驚いた。みんな気さくで、そして繊細な人ばかりだ。きっと沢山辛い思いをしてきたのだろう。他人の痛みにも寄り添い厭わずリア達にも手を差し伸べてくれる。
大きな熊の獣人さんは木を伐り運んでくれた。
蛇の獣人さんは家の設計を考えてくれた。それ以外の人も力を貸してくれてあっという間に二人の新居は出来上がった。
新居の庭にはクサイチゴの木を植えて今は白く可憐な花が咲いている。
「ねえ、アンリ。どうして旅の間中、ずっとカナリアだったの? 教えてくれればよかったのに……」
「いや、気づくかと思ったけど全然で逆にびっくりしたけど?」
「私アンリが獣人なのも知らなかったよ」
「えっ? そこから?」
リアは鈍感かもしれないがそんな大事なことは教えてほしかったと頬を膨らませた。
「悪かったよ。でも姿を現すたびに裸って格好悪いし、鳥でいるとリアが嬉しそうだったからつい……言えなかった。ごめん……」
しょんぼりするアンリに急に申し訳なくなった。どんな形であれリアの側でずっと守ってくれていたのだから。
「ううん。私もごめん。でも今は夫婦になったんだし隠し事はしないでね?」
「ああ約束する!」
アンリはホッとした顔になるとリアを優しく抱きしめてくれた。これからは二人は離れることなく一緒にいられる。本当は旅の間もリアが気づいていないだけで二人は一緒だったけど……。
もう不安はなくなったのだ。リアは幸せを噛みしめてアンリの背中に手を回し抱き返した。
庭で風に揺れているクサイチゴの花が実になるのはあともう少しだ。それをリアの誕生日に食べる約束をしている。
これからもずっとその約束は守られるだろう。
~~~ おまけ ~~~
## 新妻たちの戦い ##
ルルと犬獣人のフォルはアンリとリアの二か月後に結婚した。
二人の新居は近いので新妻たちは頻繁にお茶の時間を儲けている。
本日はリアがルルの家にお邪魔している。
「これ、クサイチゴで作ったジャムなの。甘くて美味しいから食べてみて」
赤いジャムの瓶をルルに手渡す。リアの自信作だ。
「ありがとう。明日の朝食にフォルとパンにつけて食べるわ」
「ルル、改めて結婚おめでとう。新婚生活はどう?」
リアは興味津々で聞く。
ルルは頬を染め照れながらもしっかりと答える。
「もちろん幸せよ。フォルってばとっても可愛いのよ」
リアは首を傾げる。フォルは長身で逞しい印象がある。
「どんなところが?」
「体をブラッシングしてあげるとうっとりと目を閉じて、その顔がすごく可愛いの」
「あら、それならアンリだってつぶらな目がとっても可愛いのよ。私に頬ずりしてくれるの」
「それならフォルだって肉球で私の頬を優しくポンポンしてくれるわ」
「アンリはとっても鳴き声が綺麗なのよ」
「フォルの遠吠えだって素敵なんだから」
「アンリの羽はどんな青色より美しい青なのよ。抜けた羽だって大事に取ってあるわ」
「フォルの毛は柔らかくてもふもふすると最高なのよ」
「…………」
「…………」
リアとルルは顔を見合わせて笑い出した。もちろん二人の夫の可愛いとは獣人の姿のときの事だった。
「「私の旦那さまって本当に可愛いわ!」」
二人のうっとりとした声が重なった。
不毛な、惚気自慢はこれからも続いていく。
お読みくださりありがとうございました。