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6.君を守りたい

 俺たちの暮らす孤児院の院長はアルベルト様といって元貴族だ。貴族を辞め私財で孤児院をつくって獣人の子供を育ててくれている。

 俺の両親は奴隷としてある貴族の屋敷に囚われていた。鳥の獣人である俺は生まれてすぐは獣化のままなので人間には本物の鳥にしか見えない。このまま一緒にいれば俺も奴隷にされると両親は大鷲に俺を託しその屋敷を脱出させた。その大鷲は別の貴族の屋敷から逃げ出した獣人だった。彼は俺をアルベルト様に託すと、他の仲間を助けるべく旅立って行った。


 両親の居場所も安否も未だに分からない。自分の力ではどうにもならないことばかりだ。

 この孤児院にいる子供は皆同じような境遇で助け合い生きてきた。たまに喧嘩をするがそれは家族ならよくあることだろう。アルベルト様を中心に俺たちの結束は固かった。

 ある日、小さな人間の女の子が来た。ここは獣人の子が多く人間の子供は少ない。子供達は興味津々でそわそわしていた。アンリも勿論その一人だった。


 現れたのは茶色いふわふわの髪に同じ色のくりっとした瞳が可愛いい女の子だった。腕を庇っているように見えたので目を凝らせば怪我をしている。手当てをと思ったら突然泣き出した。俺に睨まれたと思ったようだ。

 俺は睨んだつもりはなかったのに泣かれてしまい密かに傷ついていた。

 手当てをきっかけにリアは俺を信頼してくれるようになった。その日から鳥の雛のように俺のあとをついて回り、すっかり懐いたリアが可愛くて仕方なかった。


 俺が16歳でリアが15歳のときに王都から大神官がやってきてリアは聖女だから連れて行くと言い出した。

 アルベルト様は反対したがその体は病で床に臥せっており、王の威光を笠に着る大神官をねじ伏せることは出来ない。だからといって無力な俺たちではアルベルト様の病気を治すこともリアを守る事もできずにいた。悔しい思いでリアを見送るしかない。

 本当はリアが18歳になったらしようと思っていたプロポーズを出発前にした。


「俺と結婚しろ!」


「はい!」


 我ながら一世一代の場面で命令口調とかありえない。それでもリアは即答で了承してくれた。俺は心から安堵した。


 リアの手前、大神官は院長に医者を手配し生活費の為の金貨を一袋を渡した。その時の顔は不満が滲み出ていて、こんな俗物が大神官でいるなんてこの国の未来に期待は出来ないと思った。


 リアが出発すると複数の騎士が孤児院を囲み監視していた。外に出るのは容易ではない……と言いたいところだが俺たち獣人は獣化して騎士の目を逃れ万が一に備えた準備を始めた。アルベルト様もリアをここに帰さない可能性や俺たちを処分する危惧を抱いており、こっそり一時的な隠れ家や非常食などを整える。獣化の状態なら騎士たちの話を盗み聞く事もできる。


 アルベルト様やみんなを犬獣人のフォルに託し、俺はリアの旅につき添った。

 ブルーと名前を付けられた時には捻りのなさに呆れたがリアらしいとも思った。


 旅の間は怪しまれずに近くにいる為に獣化して小さなカナリアとなって寄り添う。孤児院とのやり取りは野生の鳥の協力で定期的にできていた。


 王や神官たちは聖女だとリアを連れてきたのにその扱いは奴隷の様だった。労わることもしないで“女神の雫”を搾取し続ける。実際に使われるところを見れば、あの石は本当に奇跡の石だった。


 リアから石を取り上げた神官は村へ赴き、それを土に埋め祈る。そうすると水の枯れた大地には井戸が湧く。害虫が蔓延する土地ではつむじ風が起こり虫を空の彼方へ吹き飛ばした。あるときはあっという間に大木が成り数日後にはたわわな蜜柑が実る。


 村人たちは涙を流して神官や王子に感謝を捧げ、あいつらは当然のようにそれを受け取る。

 違う! と叫びたかった。その奇跡をもたらしたのはそいつらじゃなくてリアだ。それを正せない自分に歯噛みしながらリアの側にいるしかなかった。


 神官が捨ててしまった小さな“女神の雫”は他の鳥を介してアルベルト様に届けてもらった。きっと役に立つはずだ。

 フォルからの伝言で国内での逃げ場所を見つけるのは困難なのでいざとなれば住まわずの森に入るとの事だった。

 結果的にその小さな石は俺たちを大いに助けることになる。


 騎士たちの不穏な気配はリアが旅立って二年以上過ぎた頃に強く感じた。

 しばらくするとアルベルト様に罪を着せ孤児院を閉鎖すると騎士たちが話をしていたそうだ。騎士達が行動を起こす前にフォルが夜の闇に紛れて、アルベルト様と孤児院のみんなを連れて住まわずの森へ逃げ込んだと連絡が来た。そして小さな“女神の雫”のお陰で森で暮らすことが可能になったらしい。

 それならばあとは旅を終えたリアを助け出せばいい。


 俺はリアを救出し無事に森へ入りみんなと合流することが出来た。

 その後、リアのいなくなったあの国は聖女を傷つけて女神を悲しませた報いを受けることになる。

 その日から空には分厚い雲が覆い太陽をすっかり隠してしまった。日差しを浴びることの出来ない作物は満足に育たず、リアの出した“女神の雫”で現れた井戸はたちまち枯れてしまった。


 そして聖女への態度が余りに酷かったゆえの女神の怒りだという噂があっという間に市井に広がる。リアの事を魔女だと糾弾した奴らが手の平を返すがもう遅い。

 リアはこの森の中にいる。だから聖女はもう国には戻らない。

 民衆の不満や怒りに王家や神殿は対応に苦慮しているという。

 旅での王子たちの豪遊も問題になり隣国の姫との縁談は消え、援助金の返還を求められているらしい。王子もその責任を負い処分される。


 それも今となっては俺達には関係のないことだ。



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