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3.女神の雫

 夢を見た。

 小さい頃、孤児院でみんなと一緒に寝ていた時の。そのとき人間の子はリアとルルの二人だけだった。獣人の子は完全獣化と一部獣化と人化の三形態に変化できる。夜は部屋いっぱいに布団をくっつけてその中央で子供達は固まって眠る。


 うさぎ獣人のエラは普段は一部獣化で大きなうさぎの耳と丸いふわふわのしっぽが出ているが夜は完全獣化で子うさぎになってリアの腕の中で丸まる。あまりの愛らしさに両手で抱いて頬にすり寄せると、その小さな手でリアの顔をペシペシ叩いて苦しいと抗議をする。


 犬の獣人のフォルは子犬になってルルの隣に寝っ転がる。他にも獣人の子はいるが全員が必ず獣化するわけではない。差別を受けて心に傷を負った子は獣化せず常に人化で過ごしている。それを気にするものはここにはいない。獣人であっても人間であっても大切な家族には変わりない。そうやって身を寄せ合い温めあって寒い冬を凌いだ。


 懐かしい夢から目覚めると目の前には青い羽の鳥がいた。

 リアを安心させてくれるその体温を思わず抱き寄せてすりすりしてしまう。苦しいのか羽をもぞもぞさせているので笑いながら手を離した。


「ごめん、鳥さん。そうだ鳥さんに名前を付けてもいい? そうだ。青いからブルーにしよう!」


 鳥さんはえっ? という顔をした気がする。どことなく不満そうに見える。鳥さんには表情を感じられてまるで人と話しているような気がしてしまう。


「ピッピ!」


 微妙に不服そうに見える気もするがリアは了承の返事と思うことにした。

 その日からブルーといつも一緒にいる。旅の間は王子たちに見つかると面倒なのでリアの服のポケットに隠している。夜は二人で話をして眠る。独りぼっちじゃないと思えれば理不尽な仕打ちにも耐えられた。


 最初の神殿に到着するとその神殿の中央にある池に案内された。池の中には女神様の像があり池の中に半身を沈めて祈りを捧げるとその手の中に“女神の雫”と言われる石が現れる。

 休む暇もなく祈りを捧げるが池の水は思った以上に冷たい。ガタガタと体を震わせ歯を食いしばりながら両手を組み三時間もの間リアは無心で国の幸いを祈り続けた。


 ふと気づくと手の中に何かがある。手を広げれば大きな青い丸い石があった。いつの間にと驚いたがそれを神官に渡せば満足そうに頷き、今日の祈りは終りだと神殿のリアが過ごす部屋へと案内された。狭く寝具以外何もない部屋だがリアにはちょうどいい。王子たちは神殿に着くなり豪華な食事などでもてなしを受けているようだ。もちろんリアは呼ばれない。


 リアはその方が好都合だと思っていた。自分は贅沢を知らないし自分だけ美味しいものを食べたいとは思わない。旅を終えて金貨をもらったら孤児院のみんなとご馳走を食べると決めていた。そのほうが絶対に美味しいはずだから。部屋に戻ればブルーがリアに向かって飛んでくる。


「ただいま。ブルー、寒かったけど無事に聖女の仕事をしてきたわ。えらいでしょう?」


「ピーィピピピィ!」


「ふふ、褒めてくれたの? ありがとう、ブルー」


 神殿から与えられたパンとスープをブルーと分け合う。安らぎのひと時だ。

 一つの神殿で数個の“女神の雫”を作るこの生活がしばらく続くのだが、必ず大きな石が現れるとは限らない。ものすごく小さな石の時もある。小さな石を見ると神官は怒る。


「これでは小さ過ぎる! 小さなものは効果が現れない。お前の祈りが足りないせいだろう。明日はもっとしっかり祈りなさい」


 神官はそう怒鳴るとせっかくの“女神の雫”を投げ捨てて祈りの間から出て行ってしまった。リアは慌ててそれを拾い両手で大事にしまった。せっかく女神様が授けて下さったものを小さいからという理由で捨ててしまうなんて出来ない。これは大事に取っておこう。部屋に戻りハンカチの上に置くとブルーが首を傾げて見ている。その姿が可愛くて仕方がない。


「ブルー、気になる? これはね。女神様にお祈りして頂いた石なのよ。でも神官様は小さすぎると捨ててしまったから拾って持ってきたの。小さくても女神様の石には変わりないのにね」


「ピー!」


 ブルーはひと鳴きするとその石を咥えて窓から飛んで行ってしまった。リアはびっくりして固まってしまう。

 ブルーは石をどこへ持っていったのだろう。でも捨ててしまうよりいいに違いない。私が仕舞っておいたことが神官に見つかると怒られそうな気がするからこれでいい。その後も小さい石はブルーに渡すことにした。


 暫くするとブルーは戻ってきたが石は持っていなかった。石をどうしたのか気になるがブルーが喜ぶならそれでいいやと思えた。


 そして神官が満足する分の石が集まると次の神殿へと移動した。

 リアのポケットにはブルーがいる。そう思うと心も足取りも軽くなった。




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