1.褒賞
「皆の者、ご苦労だった。三年もの間、国の為に尽くしてくれたことに感謝する。その働きに褒賞を与える。お前たちの望みを聞こう」
王は玉座で聖女と一行の国の繁栄の為の旅を終えた四人を労い鷹揚に告げた。
まずは旅の責任者である第二王子が口を開く。
「陛下。ありがとうございます。私は隣国の姫との婚姻を望んでおります」
王は頷く。すでに報告は受けていた。隣国は今回の旅に係る費用の援助をしてもらっている友好国である。聖女がいる国は繁栄を約束されたも同然だからと惜しみなく資金を提供してくれた。その姫との婚姻は国にとっても有益なものであり、旅中は王子の力になりたいと宿泊する神殿に姫自ら王子を励ますために訪れたと聞く。互いに心を通わせあった二人を祝福するのは当然であろう。
次に口を開いたのは護衛の剣士だった。
「陛下。ありがとうございます。私は旅の出発の時に黄金の剣をすでに頂いております。それで充分にございます」
「おお、なんと欲のないことを。それでは狭量な王と我が謗られる。そなたには騎士の称号と王都に屋敷を与える」
次に口を開いたのは神殿から派遣されていた神官だった。
「陛下。ありがとうございます。私は神の僕に御座います。私自身に褒賞は不要です。どうか恵まれない人々を救うために神殿に寄付を賜りたくお願い申し上げます」
「さすが徳のある神官の望みだと感服した。そなたを神官長に任命しよう。もちろん神殿にも寄付をする」
最後に口を開いたのは聖女であるリアだ。
「陛下。ありがとうございます。私は金貨三袋をお願いします―」
「なんと! 聖女とは思えぬ言葉だ!」
リアは自分の暮らしていた孤児院を立て直すための資金をと続けようとしたところを宰相に遮られた。
「陛下。歴代の聖女で金を要求したものなどおりません。聖女は無欲であり清貧を愛するはずです。金貨を要求するなど! この女は魔女に違いありません! いつの間にか聖女と入れ替わったのです。騎士よ。魔女を捕らえよ!」
リアは宰相の怒鳴り声に驚いた。
何故なら、旅に出る前に金貨三袋は貰えると最初から約束されていたことだからだ。この場でそう言うように宰相に指示されてのリアの発言だった。王も承知のはずだから何か誤解があるのではと王を見上げれば冷えた眼差しで蔑むようにリアを見ている。
「恐ろしいことだ! 宰相の言う通りこの女は魔女に違いない。捕らえて北の塔へ連れて行け!」
リアは後ろに控えていた騎士に掴まれ反論することも許されなかった。恐怖に身をすくませ体を震わせたまま引きずり出され塔へと囚われた。屈強な騎士相手にひ弱なリアは抵抗できなかった。
欲深い王や宰相によってリアは騙され罪人として扱われたのだ。