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耳で聴きたい物語

作者: 林田力

あるところに、美しい少女がいました。彼女はその美しさを妬まれて村から追い出されてしまいましたが、心は清らかだったので神さまに愛されていました。そんな彼女には夢がありました。それは、いつか自分の書いた小説のように、自分を主人公にしたお話を書いてみたいという事でした。ある日、森の中で道に迷った少女は、妖精に出会いました。妖精はとても親切でした。


「お前の物語を書きなさい」

妖精は少女に言いました。こうして、少女は自分の物語を書く事になりました。最初は戸惑っていた彼女ですが、やがて物語の世界に魅せられていきます。そして物語は完成し、少女はそれを本にして出版しました。しかし、それを良く思わない人達がいたのです。彼らは少女が書いた本を燃やそうとします。でも、それを見た妖精が助けてくれたおかげで、少女は助かりました。


それからというもの、少女の周りでは不思議な出来事が起こり始めました。森の木が枯れたり、空が落ちてきたり……。それでも少女は挫けず、毎日物語を作り続けました。少女の書く話はどれも評判が良くなり、人々は彼女を『本の魔法使い』と呼ぶようになりました。


そんなある日の事、少女の元に一人の青年が現れました。彼は少女の小説のファンだと言いました。二人はすぐに仲良くなり、一緒に暮らすようになりました。楽しい日々が続きました。


しかし、幸せは長く続きませんでした。突然、世界中から光が消えてしまったのです。人々がパニックになっていると、今度は地面が大きく揺れ動きました。大地に大きな穴が出来ていたのです。そこから現れたのは、大きな怪物達でした。怪物達は人々を襲い、食べてしまいました。人々は逃げまどいます。


そんな中、少女と青年だけは諦めていませんでした。二人にはお互いの気持ちが通じ合っていたのです。青年は少女を守る為に戦うと言いました。少女も戦いたいと思いましたが、足手まといになるだけだと言われました。そこで、少女は彼の言う通り隠れている事にしました。すると、いつの間にか眠ってしまいました。


目が覚めるとそこは暗闇の中でした。そこには怪物達がいましたが、なぜか襲ってきません。不思議に思った少女は、恐る恐る外に出てみると、そこには信じられない光景が広がっていたのです! なんと、辺り一面焼け野原になっていたのです。怪物の姿もありませんでした。少女は何が起こったのか分かりませんでしたが、とにかく青年を探しに行きました。しばらく歩いていると、遠くの方で誰かの声が聞こえてきました。声を頼りに進むと、そこにいたのは傷だらけになった青年だったのです。


青年の正体を知った少女はショックを受けます。彼が悪魔だったからです。悪魔は少女の命を狙っていました。だから、少女を殺すためにやって来たのです。少女は必死に逃げようとしますが、悪魔の魔法のせいで逃げられません。


このまま殺されてしまうのかと思った時、奇跡が起きました。なんと、少女の前に天使が現れたのです!天使のおかげで、悪魔を追い払う事ができました。悪魔を倒した後、天使も消えてしまいました。少女は悪魔の亡骸を抱き抱えて家へと戻りました。そして、悪魔の埋葬が終わると、少女はある決意を固めました。それは、自分がこの世界を救おうというものでした。少女は魔法を使って旅に出ました。まず向かった先は、彼女が最初に訪れた場所でした。


そこには彼女の書いた本が沢山ありました。彼女は嬉しくなって読み漁りました。そして、ある事に気が付きました。この本には少女の名前がないのです。彼女は自分の名前を題名に入れて欲しいと願いましたが、誰も聞き入れてくれませんでした。悲しかったけど、仕方のない事だと思い諦める事にしました。


次に少女が訪れた場所は、最初の場所とは逆の方向にある国でした。そこでは、戦争が起こっていました。争いを止めようと少女は必死に訴えかけました。しかし、誰一人として耳を傾けてくれる人はいませんでした。少女は泣きながらその場を去りました。


次に訪れた国は、とても平和なところでした。しかし、そこの国にも戦争の火種は広がっていました。少女はまた訴えかけました。けれど、やはり誰にも聞いて貰えませんでした。その後も色々な国を訪れましたが、どこに行っても同じ結果に終わりました。少女は次第に疲れていきました。もう、何もかも嫌になってしまった時、ある国の王様と出会いました。その人はとても優しく、少女の話を聞いてくれました。そして、こう言ったのです。

「あなたの物語を聞かせてください」


少女は自分の物語を語り始めました。話を聞き終えた王様は涙を流していました。少女もまた泣いてしまいました。二人とも感動していたからです。しかし、そんな二人の気持ちとは裏腹に、周りの人達からは非難されてしまいます。どうしてそんな酷い話を書くんだ、もっと良い話があるだろう、そう言われました。


少女は怒りました。私の話よりも素晴らしい話が書けるなら書いてみろと言い返してやりたかったです。でも、そんな事をしても無駄だと分かっていましたので言い返す事は出来ませんでした。それからというもの、少女は毎日のように小説を書き続けました。毎日毎日書き続けました。しかし、いくら待っても少女が書いた本は出版されませんでした。


そんなある日、少女は神様に会いました。神様は言いました。

「あなたは間違っています。人々の為ではなく、自分だけの幸せの為に書いているだけです。だから本は出版されないのです。もし、人々に喜んでもらえるような物語を書くというのであれば、私は力を貸しましょう。しかし、そうでないと言うのならば、二度と私の前に現れないでください」


少女は悩みました。確かに少女の書いた本は出版されなかったからです。でも、少女にはどうしても納得出来なかったのです。そこで、少女は思い切って神様に尋ねました。

「では、どうすれば人々は喜ぶのでしょうか?」

すると、神様は答えました。

「それは、自分で見つけなさい。それが出来ないのなら、今すぐここから立ち去りなさい!」

少女は何も言わずに去っていきました。そして、少女は旅に出ました。


それから、長い年月が経ちました。少女はまだ旅を続けています。けれど、まだ見つかりません。少女は再び一人ぼっちになってしまいました。けれど、彼女の心に悲しみはありません。少女は今日も歩き続けます。いつか見つかると信じて……。おわり。

***


「……どうですか?この物語は?」

そう言う少女の名前は黒羽。高校の文芸部の部員である。黒い髪が特徴の少女で、いつも笑顔を絶やすことのない明るい性格の持ち主だ。

「……なるほどね」

「…………いいんじゃないでしょうか」

「なかなか面白いじゃないか。特に最後のところが良かったよ。何だか、心が温まる感じがした」

「ありがとうございます!」

「まあ、普通かな……」

「えー!何よそれ!」

黒羽は頬を膨らませながら不満そうな表情を浮かべる。

「いや……だってさ、これって結局、主人公は結ばれれないじゃん」

「そりゃそうだよ。ロマンスじゃないもん」

「やっぱりかぁ……」


「じゃあ、次は私ね」

そう言って手を挙げたのは、眼鏡をかけた女の子だった。

「私は『白雪姫』のお話をしたいと思います。昔々ある所に……」

彼女の語り口は滑らかで、まるで本当にそこにいるかのように感じられた。


代償として少女の命が失われてしまったのです。残された王子は悲しみに暮れました。その時、彼の前に女神が現れたのです。

「彼女はまだ死んでいませんよ。さあ、目を開けてください」

そう言われて目を開けると、そこには少女の姿があったのです。王子はすぐに気づきました。これは夢なのだと。目が覚めると、そこはいつもと同じ部屋だったのです。隣を見ると、少女も寝息を立てて眠っていました。王子は安心して再び眠りにつきました。すると、今度は少女の方が起き上がり、こう言ったのです。

「私達の物語はこれから始まるんだよ!」

少女は嬉しそうな笑顔を浮かべながら言うと、そのままどこかへ消えてしまいました。王子はその言葉の意味がよくわかりませんでしたが、とても幸せな気分になったのを覚えています。

「また会おうね」

最後に聞こえた声は幻聴ではなかったと思います。きっとあの子は天国に行ったんだろうなぁ……と青年は思いました。


「……はい、これで終わりよ」

「わぁ! 面白かった!」

「凄く良かったですよ。特にあの王子様とのシーンとか感動的でした」

「あら、嬉しいわ。ありがとね」

「いえいえ、こちらこそ素晴らしい物語を聞かせてくれてありがとうございました」

「ふふんっ、まぁ当然よね」

「さすがですね、先輩」

「えへへ?」


「……次、俺いいかな?」

「あっ、はい。お願いします」

「俺は『シンデレラ』の話をするよ。これは有名な話だし、みんなも知ってるんじゃないかと思うけど……」

彼の話は面白かった。誰もが知っている話だが、アレンジが加えられていて新鮮味があったのだ。

「……ってところかな。何か質問はあるかい?」

「はい、あります」

「おっ、何だい?」

「どうして主人公はガラスの靴を落としたんでしょうか?」

「ああ、それはね、継母達に見つからないようにするためだよ。だって、もし見つかってしまったら、無理矢理履かされて足を切り落とされるかもしれないだろう?」

「なるほど。確かにそうかもしれませんね」

「他には?」

「ありません」

「分かった。じゃあ、次の人よろしく」


「はーい。あたしは『眠りの森の美女』を話したいと思いまーす」

彼女は童話をアレンジして語るには少し幼すぎるような気がしたが、気にしないことにしよう。


***

むかしむかし、あるところにおじいさんとお婆さんがいました。二人は森の奥深くにある小屋に住んでいて、動物達と一緒に暮らしていました。ある日、お爺さんの所に大きな荷物が届いたんです。中には沢山の宝石が入っていました。それを見たお婆さんは大喜び。早速その宝石を換金して豪華な食事を用意しようと考えますが、その前に一つだけやっておきたい事があると言います。


それは、眠っている美しい孫娘のオーロラを起こすことでした。オーロラは目を覚ました後、自分が眠っていた理由を聞いて驚きます。実は、オーロラは悪い魔女に呪いをかけられていたのです。そのせいで百年もの長い時間ずっと眠る羽目になっていたのです。


しかし、それも今日で終わりです。なぜなら、今からオーロラは王子様にキスをしてもらって目覚める事になっているのですから。こうして、オーロラは王子様と出会います。そして、二人は恋に落ちたのでした。めでたしめでたし。

***


「どう?面白かった?」

「はい、とても面白い話でした」

「よかったぁ。じゃあ、次は誰にする?」


「私がやりましょう」

そう言ったのは、先程まで静かに本を読んでいた女性だった。

「私は『赤ずきんちゃん』のお話をしたいと思います。昔々……」

彼女の語りは上手いというわけではなかったが、不思議と引き込まれるものがあった。

「……こうして、狼に食べられそうになったおばあさんを助ける事ができた赤ずきんは、お母さんの待つ家へと帰っていきました。めでたし、めでたし」

「この話は私の大好きな童話の一つです。幼い頃によく読んでいたものです。私にとってこの本との出会いは衝撃的でした。こんなにも素晴らしいものがあるのか!と思ったものです。それ以来、ずっと大好きで何度も読み返しています。皆さんにも是非一度読んでもらいたい作品ですね」

「……うん、良かったよ」

「ありがとうございます」


「では、最後は僕が語らせていただきます。僕は『三匹の子豚』の物語を語りたいと思います」


***

昔、ある所に三人の兄弟達がいました。彼らはそれぞれ立派な家に住もうと考えますが、なかなか上手く行きません。そこで、彼らは協力して家を造り始めます。しかし、途中で一人が病気になってしまいました。彼は、残りの二人を呼んで言いました。

「お前達は先に進んでくれ。俺はこの人を治してから行くから」

二人は彼の言葉に従いましたが、結局彼は来ませんでした。二人は仕方なく、一人で進み始めます。すると、二人の目の前に大きなレンガの家が現れました。二人は中に入ってみようとしますが、鍵がかけられていたので入れませんでした。仕方ないので二人は他の場所を探すことにしました。しばらく歩いていると、今度は小さな木の家に辿り着きました。ドアを開けると、そこには一人の老婆がいたのです。老婆は彼らに尋ねます。


「ここはどこだ?」

「分からない」

「私はどこに行けばいいんだ?」

「知らないよ」

「……どうすれば良いと思う?」

「さあね」

「……」

二人は困ってしまいました。このままだと飢え死にしてしまいます。その時、彼らの耳に「こっちだよ」と言う声が聞こえてきました。彼らが振り返るとそこにあったのは、大きなレンガの家でした。

「さっきの声は君たちかい?」

「そうだよ」

「ありがとう。おかげで助かったよ」

「いやいや、礼を言うならこちらの方だよ。ありがとう」

「ところで、君はどうしてこんな所に居るんだい?」

「それがね……。私にも良くわからないんだよ。気がついたらここに居てね。でも、きっと大丈夫。すぐにここから出られるはずだよ」

「そうなのかい?良かったぁ」

「じゃあ、そろそろ行こうか」

「ああ、そうしよう」

***


「さてと、これで全員終わったかな?」

「ええ、そうですね。皆さんありがとうございました」

「いえいえ、お役に立てて何よりです」

「じゃあ、あたしはこの辺で失礼するわ。またどこかで会いましょう」

「ああ、さよなら」

「元気でな」

「ばいばい」

「じゃあ、僕らも帰ろうか」

「はい、分かりました」

「ねえ、一つ聞いても良い?」

「なんですか?」

「あなたって一体誰?」

「私はただのしがない旅人ですよ。それでは、またいつか会う日まで」

「ふーん、変な人。まあいっか。じゃあ、バイバーイ!」


「……ふうっ。疲れた」

「おつかれさま。お茶飲む?」

「お願いします」

「はい、どうぞ」

「……美味しい」

「そう、それは何よりね」

「先輩はどうしてあの人達の事を知っていたんですか?」

「んー、まあ、ちょっとね」

「教えてくれませんか?」

「嫌よ」

「どうしてです?」

「だって、面白くないじゃない」

「そんな理由で……」

「まあまあ、気にしない気にしない。それより、早く帰りましょう。今日はもう遅いもの」

「そうですね。……あっ、待ってください。最後に一つだけ質問してもいいですか?」

「別に構わないけど、何かしら?」

「……どうして、あんな嘘をついたんですか?本当は違うんですよね?『シンデレラ』の話なんて、聞いた事もないはずなのに」

「あら、バレちゃったの?」

「はい。だって、嘘をつく時の癖が出てますから」

「残念。もう少しで騙されてくれると思ったのに。……ねぇ、一つだけ聞かせて欲しいんだけど、もし私が本当の事を話したら、貴方は信じてくれたのかしら?」

「……」

「冗談よ。だから、そんな顔しないでちょうだい。ほら、帰るわよ。今日は色々と大変だったでしょうからゆっくり休みなさい。それとも一緒にお風呂に入る?」

「遠慮させていただきます」

「ちぇっ、つまんないの」

こうして、長い一日は終わりを告げるのであった。


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