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受け入れられぬ夢

 ユリウス達が入団してから1ヶ月が経過した。

「もうやってられるか!」

 と、1日に1、2回その様な泣き言が響き渡る。

 連日の厳しい訓練で離団する者が現れる時期。始めは100人居た訓練生は、およそ半分の50名弱にまで減っていた。

 そうなってくると、もともと2人部屋だったところから1人部屋になる者もいる。更には完全に空になった部屋もあり、そこは成績優秀者の1人部屋なるのだった。


「今日も居ないか」


 初めて満杯の夕食を食べて部屋に戻っても、その喜びを分かつルームメイトは居ない。

 新人たちの間には徐々にグループが出来つつあったが、ユリウスはその輪には入らず変わり者として認識されていた。原因としてはいつも砦を走り回っていて交流が無かったからだろう。

 地図も作り終わってやることが無くなったユリウスは早めに部屋に帰って来たのだが、それでもルームメイトは居なかった。ただ、生活の痕跡が僅かに残っていて、それに気づいたユリウスはいつも通り不思議に思いながらも剣の手入れをする。そして早めの眠りについた。


 明くる日。


「諸君らに朗報だ。今日からは実戦形式のトレーニングを行う!」


「おぉ!」


 喝采が湧いた。

 長く、苦しい訓練。それを耐えて、耐えて、耐えた末に、50名弱はようやく団員としてのスタートラインに立てたのだ。

 しかし大半が歓喜に湧く一方で、ユリウスは焦燥していた。

 開拓団には優秀者しか入れない。しかし自分の成績は下から数えたほうが早い……というか一番下だ。このような成績では開拓団の精鋭などに入れるわけがない。そう考える。


「その前に、諸君らの志望を聞こう! 1ヶ月過ごしてして分かったと思うが、ジークフリートには多くの隊がある。主なものとして防衛隊・討伐隊・補給隊だ。訓練が終了した後に、諸君らにはどこかの隊に所属してもらう。今、その希望を聞く理由は、希望に合った訓練を各々に割り当てるためだ」


 唐突な選択に喝采はまばらになって消え、50名弱は右を見たり左を見たり。自分がどの隊に入るかなど決まっている者はそう居ない。もちろんユリウスもだ。それ以前に、一ヶ月の間ただ砦を走り回っていたユリウスは、隊の存在など小耳に挟んだくらいで、それがどういう物かなど理解していなかった。


「もちろん、今すぐに決まる訳でもないし、全て諸君らが決める訳でもない。自分で所属先を選べるのは成績優秀者のみだ。が、諸君らの”希望は”は聞いておく。決まらない者は、将来成し遂げたいことを言ってみろ。…………まずは1番、ヨシタカ・オオイシ」


 ヨシタカと呼ばれれた少年は、この世界では珍しく黒い髪に黒い瞳をしていた。

 ユリウスでさえも知っている。新人の中では不動のトップ。常に1、2周り早く課題をこなし、いつの間にか居なくなっている存在。訓練の時以外で彼を見ることはないが、それでも圧倒的な実力を知らないものはいない。


「はい。僕が希望するのは討伐隊です。理由としては、僕の剣技が攻撃寄りなので長所を活かせると思いました」


 実力に反して、その言葉遣いは丁寧だった。しかし同時に、口調からは周囲と隔絶した冷たさを感じさせる。


「良いだろう。貴様の実力には少し役不足かもしれんが……、まあ良い。次、2番――」


 やがて最後。ユリウスの番がやってきた。


「47番。ユリウス・フロンタイズ。貴様の希望は何だ?」


 これまでに出てきた隊の名前。全て初耳だった。どこで何をしてるかすら分からない。

 なのでユリウスは、自分の”希望”を言うことにした。


「俺は……、冒険者になりたい」


「……なに?」


 ざわめきが巻き起こる。それを聞いたルイドは硬直し、その後……。


「ユリウス・フロンタイズ! 貴様、今なんと言った!」


 いつもの数倍増しの怒鳴り声が、何度も何度も反響した。


「俺は、冒険者になりたい!」


 その気迫にも押されず、決意を宿した眼でユリウスは復唱する。

 冒険者になるのが幼い頃からの夢だった。しかしそれは、金というどうにも出来ない壁で閉ざされる。

 だが、ここで言っておくことで何かが変わるかもしれない。誰かが手を差し伸べてくれるかもしれない。…………などとは考える余裕もなく、ただただ自分の夢を理解して欲しくて、少しでも冒険に関われる役に配属されたくて、ユリウスは叫んだ。


 しかし、ユリウスは理解していなかった。ジークフリート(ここ)において、”冒険者”という単語がどのような捉え方をされるのか。


「貴様……っ。 その心構えはジークフリートに相応しくない! 叩き直してやる!」


 こうして、意図せずユリウスは茨の道を歩むことになった。



 ☆



「剣の基礎は素振りだ。まずは1000回から始める。1振りずつ丁寧に行え。……ユリウス、お前は5000回だ」


 冒険者になりたいと言ってから、皆のユリウスを見る目が変わった。

 何故自分だけ5倍の量が与えられているのか、なぜ自分だけ皆から避けられるのか。自分の”夢”が否定されているのをユリウスは感じていた。


「…………おう!」


 しかし、それに対抗する術を知らなかったユリウスは、ただ真っ直ぐに、その指示に従い続ける。

 

 次の日も、また次の日も。訓練はいつも5倍だった。

 

 日暮れまで終わらないことも多々あり、その時は当然の如く半分しか夕食は出ない。

 

 誰とも話す事は無く、ただ訓練に明け暮れる日々。初めは黙々とこなしていたユリウスだが、次第に疲弊していった。

 肉体では無く、心がだ。




「14012……。14013…………。14014………………」


 生徒も、教官すら居なくなった夜の広場。冷たい月光の下でユリウスはただ1人、素振りを続ける。

 いつしか碧眼の奥に燃えていた炎は消え、素振りは腕を上げ下げする作業になっていた。


「14015………………っ」


 その時。ユリウスの手が止まる。

 痛みはある。痺れもある。しかしそれは元からだ。それなのに腕が、全く動かなくなった。

 剣が鉛のように重い。これを手放すことが出来れば、どれだ軽くなることだろう。握る力を少し緩めれば、ほら、今にも落ちてしまいそうである。


「ここまで、……なのか?」


 自分に才能がないのは分かっていた。ジークフリートに入れたのだってギリギリだということも。

 だけど、自分には誰よりも大きな夢があると思っていた。それを原動力にして、どこまでも這い上がれると信じていた。

 しかし違った。自分は弱く、こんな事で折れそうになっている。この脆さで一体どこまで行けるというんだろう。


「冒険が、したかったなぁ……」

 砂埃にまみれた頬を、涙が伝う。これが夢破れるいう事なんだろう。


 剣が、冒険者の心が、ユリウスの手から零れ落ちた。


 ……ポッカリと穴が空いた身体で夜空を見上げると、満月であった。

 そうだ、この世界はこんなにも広い。別に冒険以外にも楽しいことはあるだろう。今まで冒険一筋すぎて気が付かなかっただけだ。

 これからどうしよう。家に帰れば、ドロシーはなんと言うだろうか。怒る? それとも同情?


「ああ、そうだ」


 ドロシーはまず、悲しむだろう。その顔を思い浮かべると、ユリウスの心は強く揺さぶられた。

 必死に取り繕おうとしていた傷口が、再び開く。ズキズキと胸の奥が痛い。


「約束……、した」


 月が涙で滲む。別れ際のドロシーの声が、何度も何度もリピートされて、そのたびに目から涙が溢れてくるのだった。


『貴方の冒険談、楽しみしています』


 別れ際に、軽い元気づけの言葉だったんだろう。しかし、それは効果が強すぎたようだ。


 ――――伝えたい。


「そうか、そういうことだったか。…………あぁ!」


 ユリウスは初めて、自分が冒険をしたい理由に気が付いた。

 そして月に向かって叫ぶ。真っ白になった頭の中に残ったのは、本当の理由だった。


 自分の冒険を、誰かに……、ドロシーに伝えたい。そして、笑って欲しい。


 ただそれだけ。才能も、受け入れられない夢も、全てほったらかして、ただそれだけ。

 直ぐに闇を見つめる。身体に熱がこもって、動き出す。砂にまみれた剣を一振りして散らしたら、真上に構えてそのまま、振り下ろした。


「14016―――」


「――全然ダメ」


 鈴の様な声が、夜の空気を揺らす。

 振り下ろしたつもりの剣は、半ばで止まっていた。


「……っ!?」


 剣の切っ先を、ピタリと細い指が挟んでいる。少し横にずらすと、目の前……よりは少し下に、赤毛が見えた。そしてその隙間から、マゼンダの瞳がこちらを伺っている。


「すまん! 下を見てなかった!」


「――下ですって!?」 

ユリウス君、感情の変化が激しすぎませんかね!?

もう少し丁寧に書けば違和感もなくなるんでしょうが、いかんせんそこまでの技量がないもので……。毎日投稿(笑)を目指しているのでとりあえず投稿ようと英断しましたが、いつか書き直してみせます。

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