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ジークフリート団

 ジークフリート団の本部は、城壁の外側にある。

 巨大な正門の隣に構えられた石造りの砦。そこがジークフリート団の本部となっていた。

 中央には多用途な広場があり、それを囲むように分厚い城壁が3重。団員の宿舎は壁の中で、階級が高いほど内側に移動していく。


「――只今より君たちは我らが団の一員となる。秩序のためにその身を捧げ、この赤き団旗に恥じない働きを見せろ! 以上だ!」


 新たに加わった100人の歓迎会が行われているのは、中央の広場。高々と翻る赤い旗には、固く握りしめられた拳が描かれている。


 団長による数分の演説が終わった後。昼食を挟んで施設に関する説明などが行われた。

 その後、夕食を食べ終わると3時間ほどの自由時間が与えられ、ユリウスを含む新人たちは部屋を割り振られた。

 大半の新人はルームメイトと談笑をして過ごしたが、ユリウスは……。


「ここが第1食堂か! 後は第4食堂だけだな!」


 1人、砦中を駆け回っていた。

 

 自分が居る場所を調べるのがユリウスの癖だ。同じところを何度も何度も往復し、何がどこにあるかを身体に刷り込まずにはいられない。

 ただでさえ巨大な砦の全貌を探索し尽くせる訳もなく、あっという間に日が暮れた。

 真っ暗になった砦の中をなんとか自室までたどり着くが、しかし中には誰も居ない。

 新人は2人部屋だと聞いていたし、月光を頼りに室内を見ると、自分のものではない荷物が置かれていた。どうやらルームメイトはまだ帰って居ないらしい。


「どんなヤツなんだろうな!」


 願わくば相棒になってくれればとユリウスは思う内に、深い眠りに落ちた。


 ★☆★☆★☆


「起床時間だ!」


 ガンガンガンと金属がぶつかる音で、何事かとユリウスは目覚める。

 パン屋に居た時よりも1時間早い起床。いつもとは違う朝の景色と石の匂いに気持ちを新たにしながら、今日から本格的に始まる訓練に向けて身だしなみを整えた所で、ユリウスは1つの事に気がついた。


「まだ戻ってないのか?」


 朝になってもルームメイトが居ないのである。しかしベットは昨日よりも綺麗だし、荷物も棚に入れられている。一回帰ってきているのは間違いない。どうやら、自分が目覚めるよりも早くどこかに出かけたようだ。

 

 ユリウスが1人で朝食を取った後で、新人たちは武器を持参で中央の広場に集められた。


 規律・公平・堅牢を標語に掲げるジークフリート団。帝国一と呼ばれるその厳しい訓練が、今日から始まる。


「ジークフリートの戦士は、そこらの兵隊とは違う! 一太刀で10振りの剣を受け、一太刀で10人をなぎ倒す。これが諸君らに求められる最低限だ」


 教官はルイドと名乗り、そして、トレーニングの内容を話し始める。

 野太い声が、1000人を収容できる大きさの広場中に響き渡り、城壁で跳ね返ってきてエコーの様になる。

 が、その様を笑うものは居なかった。なぜなら、その内容があまりにもぶっ飛んでいたからだ。


「よし。腕立て伏せ1000回、上体起こし2000回、ランニングを2周、これを10セットやってもらう。日が暮れるまでに終わらない者は、夕食が半分だ。分かったな?」


 ルイドの声が一通り響き終わった後でも、誰もピクリとも動かなかった。

 動いたら始まってしまう。空気が読めないヤツ以外は、そう思って動かなかった。


「おう!」


「気合はいいな! 始めろ!」


 返事をしたのは、してしまったのはやはりユリウス。

 一瞬、全員の憎しみの視線がユリウスに収束したが、腕立て伏せを始めた彼は気が付かない。


「武器は身につけたままだ! 魔術も使うな! 違反した者にはペナルティとして広場を1周してもらう」


 初日。太陽が沈むまでに終わったのは12名。ユリウスはその中に入れなかったが、半分でも夕食は美味しかった。

 他の全員が悶える中、腹を満たしたユリウスは食堂を後にして、松明を片手に砦を駆ける。どこにそんな体力が残っていたのか、或いは彼が飲んだ水はガソリンだったのかは謎だが、松明が消えるまでの約1時間で、ユリウスは自分たちが住む一番外側の城壁の1辺の地図を埋めた。

 そして部屋に戻り、剣の手入れをしてから眠りに落ちる。ルームメイトは今日も居なかった。


 次の日も、また次の日も。厳しい訓練は続く。砦全体の地図が埋まったのは1ヶ月後で、その次の日、ユリウスは初めて満杯の夕食を食べることができた。

 しかし、1ヶ月経ってもルームメイトに会うことは無かった。

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