巣立ち
「俺は、冒険がしたいんだ!」
白い髪は雨上がりの風を含み、その双眸はいつも以上に青く燃える。
ユリウス・フロンタイズは毎朝、その言葉を居候先の養子であるドロシーに向かって言い放つのだ。
「今日くらいは忘れたほうが良いと思います。それより、剣の手入れは終わっていますか?」
「もちろんだ! 剣は冒険者の心だからな!」
早朝。青く、蒼く染まる空の下で鮮やかな花が開き、小鳥がさえずる街の中。ハッキリとしたユリウスの声が一角に響く。
いつもなら軽くあしらう所であるが、ユリウスよりも歳がひとつ上であるドロシーは今日ばかりは譲歩しなかった。
「良いですか? 貴方はこれからジークフリートの一員になるんです。その事を忘れてはいけませんよ」
ドロシーは茶髪を後ろで結びながら、金色の瞳を細める。
「ああ! 鍛錬に励んで、必ず開拓団の一員になってみせる!」
「……はあ、全く。これさえなければ気持ちのいい子なんですが」
物心ついたときから、ユリウスは冒険者に憧れていた。冒険者といえば物語の主人公。憧れることは何ら不自然ではない、が。
まさか13歳になってまで……。と、ずっと側で見ていたドロシーはため息をつく。
冒険者になるためには、第一条件として金がいる。
しかし、パン屋に居候するユリウスはどう見ても庶民。どうあがいても冒険者にはなれない。
更にここでは13歳になる年の初めに、早くも職の選択を迫られるのだ。
オリンポス帝国の端。ディモス領の領都、ディモス。
領都なだけあって農家は少なく、二次生産の職業が大半を占める。
ドロシーの場合は赤ん坊の頃にこの家に来て以降、家業であるパン屋を継ぐべく小さい頃から働いていたが、やはり去年から自分に対する両親の目が変わったと、朝の仕込みを終えた後で思っていた。
そんな数ある人生の起点。しかしユリウスはなんの躊躇いもなく、領の防衛組織であるジークフリート団を選んだ。
その理由は、領が定期的に組織する開拓団にある。
名前の通り領地の開拓を行う開拓団は、労働者とジークフリート団の精鋭で混成される。
地図を埋め、生態を調査し、新たな資源を手に入れる。その流れに”冒険”の2文字を嗅ぎ取ったユリウスは、その日の内に入団試験の申込に行ったのだった。
「団の方々に迷惑を掛けてはいけませんよ? ユーリの迷惑は自覚が無い分、たちが悪いです。ですから……」
「……相棒を作れ、だろ? 自分の間違いを指摘してくれる相棒だよな!」
「良い子です。貴方ならきっと素敵な相棒がみつかりますよ」
ドロシーはユリウスと頭にポンと手をおいた。
1つしかない年の差だが、成長するにつれて感覚は離れていく。6年前。ユリウスがこの家に保護された時には友達のようだった2人の関係は、今は姉と弟に似ていた。
「いってらっしゃい。貴方の冒険談、楽しみしています」
「ああ!」
これが、この旅立が、ユリウスの冒険の始まりだった。
…………ならば、どれだけ良かっただろう。
国をも、世界すらを巻き込む”本当の始まり”はもう少し先の話。
本屋さんにあるラノベコーナーの鮮やかさに当てられて、ファンタジーが書きたくなったので書き始めました。良ければ評価とか送って下さい。感想は貰ったことがないので、今なら僕のハジメテが貴方の元に……?(いらない)
拙作ですが「始祖の少女と無能の火」もオススメですよ。というか、コレ以外の作品は完結するか怪しいので悪しからず(殴