13地竜の階層
俺は十分に力がついたので先に進むことにした。
剣術に関するステータスも敏捷を上げたおかげで前より段違いの強さになった。
力だけでなく、スピードも身につけ、火の巫術で多数の魔物にも対応出来るようになった。
死角はない筈。
むしろ今の俺には誰かと話すことの方が重要に思えた。
精神的な面の弱さの方が気になる。
話したい衝動に駆られた。
寂しい、孤独だ。
人と話していないことがこんなに辛いとは思わなかった。
俺の家族は俺のことを蔑んで満足に話したことはないが、使用人達とは朗らかに話していた。みな、いい人達ばかりだった。
中でもリリー。
いや、リリーのことは今は考えまい。
考えると激しい感情が溢れる。
戦いにおいて冷静さは重要だと思う。
同じ実力がある者同士なら、冷静でいられるヤツの方が勝つ。
当然のことだ。
今はリリーの復讐のことより、今を生きること。
そう自分に言い聞かせた。
生き残れないと復讐ができないから。
そう納得した。
☆☆☆
新しい階層に降りるとそこは草原だった。
これまでの薄暗いほのかな光を放つダンジョンではなく空高い青空。
どう考えてもおかしい。
そもそも下に降りた階段の距離は10mもないだろう。
にも関わらずどこまでも遠い青い空。
この久しぶりの太陽に俺は心地よさを感じた。
その上。
「うん? この音?」
それは川のせせらぎの音だった。
水!
それは俺が10日以上口にしていない水の音だった。
急いで走るとやはり小川があった。
清らかで清涼感溢れる水。
俺は慌てて水を手ですくって少し舐める。
大丈夫だ。
毒とかおかしなものじゃない。
毒なら舌が痺れたりおかしな味がするものだ。
だがこの水は今まで飲んだどんな水より美味い水だった。
俺はたまらず手にすくってゴクゴクと水を飲む。
ああ!
もどかしい!
俺は手ですくって飲むだけでは我慢できず頭を小川に突っ込んだ。
「ぷはっ!! 生き返る!!」
5日ぶりの水は俺に人らしさを取り戻してくれた。
しかし、俺から警戒心を奪ってしまった。
突然背後に気配を感じる。
「!!!!!!!!!!」
俺は驚き過ぎて声にならない叫びをあげた。
振り返るとほんの1m後ろにいた。
地竜が。
地竜、竜の一種で竜族の中では弱い方だ。
この竜は太古の竜が退化したものと考えられている。
生息地は比較的強い魔物が出ないところばかり。
体長2mほどのサイズは竜種の中ではかなり小さいが、通常の人界のテリトリーの魔物の中では最強クラスだ。
それ以上の魔物はダンジョンや魔の森など人界のテリトリー外に行かないと出くわさない。
ガツン
俺がついさっきまでいた所に竜の顎の牙が音を鳴らす。
俺を食おうと閉じた口の牙と牙が音を鳴らす。
危なかった。
ここがダンジョンの中と言うことを失念していた。
水飲み場は肉食獣の狩場だ。
あまりにも自分が迂闊だった。
だが、俺は更に致命的なことをしでかした。
剣がない!
水を呑む時に地面に置いてしまった。
今はちょうど地竜の足元にある。
寒気にも似た恐怖を感じる。
剣無しでやれるか?
いや愚問だ。
やるしかない。
すると宙に文字が浮き出た。
『我が拳は無限なり。我拳に勝るものなし』
良かった。
武術言語は剣だけが対象じゃない。
俺は慌てて武術言語を唱える。
そして。
「オラァアアアア!!」
地竜に殴りかかった。
意外とあっさりと地竜の顔面に俺のグーが入った。
のけぞる地竜。
そのガラ空きの腹へ蹴りを入れる。
しかし。
威力が小さ過ぎる!
武器を持たない不利だけじゃないかもしれない。
剣を握っている時には感じたことがない違和感。
拳も蹴りも他人の手足を動かしているようだ。
俺の力ならもっとエネルギーを魔物に叩き込める筈だ。
しかし、俺の拳も蹴りも効率良く体を動かせていない。
俺は決定打を与えることができず、地竜と命をかけた戦いをひたすら続けていた。
広告の下↓の方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】をクリックして【★★★★★】にしていただきたいです!!
続きが気になる方、面白い思った方!
ブックマーク是非是非お願い致します!
1つのブックマーク、1つの評価が本当に執筆の励みに繋がります!
評価やブックマーク頂くと泣いて喜びの舞を踊ってしまいます!