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9話 ドワーフ娘とやりすぎ注意

 ナナシがフライパン量産計画の停止を受け、自室で不貞寝をしていた頃。

 ライバー教司祭ズモン、シスター・ルーティー、神官戦士マリアンヌは来客室にて白金のフライパンを凝視していた。


「本当にこれが、ゴッズランクなのですか?」

「間違いないよ。あたしも自分を疑ったけど、識別はゴッズを示した」


 ルーティーはマリアンヌほど識別の魔法の熟練度が高くないため、大した情報が入ってこない。


 彼女が分かることと言えば【鉄のフライパン】、【すっごく頑丈】、といった簡単な情報のみであった。


「ううむ、手にしてみる、と本当にその凄まじさが分かりますね。いや、これは……うん、地上に存在してはいけない類の物です」

「だろうねぇ。あたしも手に取ってみたけど、震え上っちまった。あの子は、これを量産するって言ってやがったよ」

「いやいや、なんの冗談でしょうか」


 このやり取りにルーティーが恐る恐る挙手した。


「その素材が、ナナシちゃんの机の上にたんまりと、ですね……」

「「回収っ!」」


 こうして、ナナシの純神鉄はことごとく回収された。

 そして、フライパン共々、ライバー教会の地下へと秘蔵され、一切の情報露出を禁じたのである。


「こ、これでひとまずは大丈夫でしょう。くれぐれも口を滑らせないように」

「「承知いたしました」」


 肩で息をする三人は、心身共に疲労。

 まさか生きている間にゴッズランクの道具を、しかもその原料を目の当たりにするとは思っていなかったのだから、この疲労は当然の物と言えよう。


 仮に、この原料を正当な取引で売った場合、一生遊んで暮らせる金が転がり込んでくる。


「ルーティー、ナナシにはもう少し【抑えろ】と言っておくのです」

「はい、そう伝えておきます」

「マリアンヌ、暫くの間、ナナシの作品を見てあげてください」

「あいよ、あんな物を町中に広められたら、とんでもないことになるからね」

「よろしい……はぁ」


 来客室のソファーに腰を下ろしていた三人は、盛大なため息を吐いた後にこう言った。


「「「疲れた」」」


 爛々と輝く星々、その中央にて輝く青い月は、三人に対し「早く休め」、と慰めの輝きを放ち続けていたのであった。






 次の日、ナナシはせっせと黒小麦を捏ね、柔らかふんわりパンを製作。

 これが実に好評で、教会で働く孤児たちはこぞってパンを奪い合った。


 ただ、ナナシはパンで商売をするつもりはないらしく、部屋にこもり再び商品製造に精を出している。


 鉄がダメなら銅ではどうだ、と一心不乱に銅を捏ねるドワーフ娘。

 そのお目付け役が、そろそろですかね、と輝き始める銅を目の当たりにして、待ったを掛ける。


「ナナシちゃん、ストップ」

「えー? ノッてきたのにぃ」


 既に危険な輝きを放っている銅の塊に識別の魔法を掛ける、とそれは【魔銅】という情報を返してきた。


「魔銅? 性能は……魔力を通しやすい金属?」

「なぁなぁ、それなら使ってもいいの?」

「ちょっと待ってくださいね……ランクは、アーティファクトですか」


 ルーティーは迷った。


 確かにゴッズランクではないが、その次に高いとされるランクだ。

 幾らランク分けが四つだとしても、町に出回っている多くの物がノーマル。

 内、レアが占めるのは二割程度である。


 アーティファクト程の物になると、そもそもが出回らず、王家の秘蔵品となっていたり、或いは博物館に展示されるレベルだ。


 だが、これは幾らアーティファクトでも、銅である。

 ルーティーは身近に使われる銅であるなら、いくらランクが高くとも誰も気にしないのでは、と判断してしまった。


「たぶん、いいんじゃないですかね」

「いいの?」

「えぇ、マリアンヌさんにも見せてからの販売になると思いますから、試作品を作ってみましょう」

「よっしゃっ」


 この世界に於いて銅は身近な金属だ。

 産出量も多く、それ故に安価。

 人々の生活を支える金属として、幅広く活用されていた。


 主な用途は農作業用具だ。

また、駆け出しの冒険者たちの安価な武具としても活躍している。


 ただし、鉄と比べれば強度は劣るので、武器にしても頼りになるとは言い難い。

 また、鋳造技術もあまり発達しておらず、防具も粗末なものといえた。


「よし、剣だ、剣。剣を作ろう」

「また、手で形を整えるのですか?」

「おう、形にすれば、後は勝手に自分で整えるっぽいからな」


 フライパンがそうであったように、ナナシが捏ねて形にした物は、ある程度、自力で形を整える、という不思議な現象を起こす。

 とは言え、それを当てにし過ぎるのは間違いというものだ。


 それを分かっているのか、分かっていないのか。ナナシは銅を剣の形に整えてゆく。

 丁寧に刃の部分を指の腹で薄く鋭くしていった。


 不思議なもので、ナナシが剣の柄の部分を握っても、粘土のように変形する銅は、ふにゃりとへこたれる事は無かった。

 まるで自分が何になるのかを知っているかのようなそれは、気持ちよさそうに刃の形成を享受していた。


「ん~、大体、形は良いと思う。重さも丁度、良いと思う。でも、デザインがなぁ」

「基本に忠実な銅の剣、ですね」


 決して人目に付かないだろう。それほどにシンプル過ぎる出来栄えだ。


「何か、こう……特徴的な部分を入れるか?」

「逆に使い難くなったら、本末転倒だと思いますよ?」

「う~ん、そうなったら、こいつも可哀想だしなぁ」


 結局、デザインはシンプルなままとなった。

 そして、完成と位置付けて銅の剣を【休ませる】。


 すると、徐々に彼は自身を整え始めるのだ。

 ゆっくりと、じわじわと変わってゆく銅の剣。


 三十分程、時間が経過しただろうか。

 少し歪だった銅の剣は、見事に整い、今は静かな輝きを放っている。


「うっ……こ、これはっ!?」


 ルーティーは、その見事な一振りを目の当たりにして嫌な予感を感じた。

 試しに識別の魔法を行使し、完成した銅の剣を調べる。

 やはり、全くといってもいいほど情報が認識できなかった。


「一応、マリアンヌさんに見せてみましょうか」

「おう、これならいけるだろ」


 結末を予想できるルーティー。

 結末を予想できないナナシ。


 その結果は案の定であった。


「駄目」

「ふぁっ!?」


 黒髪のツインテールを逆立たせて、その衝撃度合いをアピールするドワーフ娘であったが、マリアンヌの決定は覆らない。


 そもそも、銅の剣でアーティファクトランク、加えて上位特殊能力が七つはやり過ぎである。

 そして、その攻撃力四桁は、とてもではないが主な購入層に与えるわけには行かず。


「いいかい、高くてもレアに抑えるんだ。じゃないと販売許可は出せない」

「そんなー」

「ルーティーもレアくらいなら識別できるだろ? それ以上の物を作ったらあたしに見せに来な」

「はい、お手数をおかけしました……」


 結果、この見事な一振りもライバー教会の秘蔵品の仲間入りを果たのであった。






「くそう、俺は本気を出してはいけないのかっ!?」

「いえ、出し過ぎがいけないのであってですね」


 頭を抱えて机に突っ伏すドワーフ娘。

 既に材料はかなり消費し、後は訳の分からないそざいばかりである。


「とにかく、念のために捏ねなかった余りの銅で、なんとかするしかないっ」

「次は捏ね過ぎないように注意ですよっ」


 ナナシは諦めず、再度、銅を捏ね始める。

 タイミングは意識がぶっ飛んでハイテンションになる前、と定め、不完全燃焼で捏ねるのを止めた。


「ううっ……ど、どうだっ!?」

「な、泣くほどですかっ!?」


 そんな少女から受け取った銅はレアランクを示す。

 妙な情報は認識されなかったことから、普通の上質な銅であることが判明した。


「原料は大丈夫かと。でも、こっからですよっ」

「お? やった! ん~、何にしようかな?」


 余った銅は量がそれほどなく、剣や盾を作れるほどではない。

 だったら、とナナシが選択したのは短剣であった。


「ナイフならどうかな? 日常生活でも使うだろうし」

「それはいい考えです。それならお手ごろな値段に設定できますし」

「いや、俺は一発を当てたいんだけどっ!?」


 ナナシは先ほどの手順通り作業を進める。

 ただし、材料がレアなので、形は先ほどよりも丁寧に、細やかにおこなった。

 また、刀身に細やかな意匠を施し、自分の特徴を出そうと試みる。


「できたっ」

「こんどは模様を付けたんですね。完成がどうなるか楽しみです」


 そして三十分。それは完成した。


「……」

「……ナナシちゃん?」

「これさ、俺でも嫌な予感がする」

「模様を付けちゃったからですかね?」

「たぶん」


 史上初、銅製品のゴッズランク誕生であった。


 こうして、アイレーンのライバー教会の秘密の部屋に、新たなる愉快な仲間が加わったのである。


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― 新着の感想 ―
[一言] やり過ぎ マリアンヌ「全くあの意気込みを別な方で…」 ムシャムシャ ルーティー「そういえばこのパンって…」 パクパク マリアンヌ「このパンくらい簡単に 証拠隠滅出来れば…」 ルーティー「それ…
[一言] ナナシちゃんパン作りを生業にするきは…ない…うーむ。 金策がどうなるかまるで見当もつきませんねぇ…。 こんなん(レア過ぎて売れない)じゃ商売になんないよー。
[一言] ぬあっ! また、やり過ぎ!?
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