最終話 ドワーフ娘とこれからもよろしく
それから、少しの年月が流れた。
ナナシは無事に住民権を取得し独り立ち。忙しい日々を送っている。
結局はライバー教会の厨房で働く事になった。
というのも、彼女の作った道具はことごとくが販売できず、加えて今は借家暮らしなのだ。
自分の店を開くには、商人ギルドに入って融資を受けるか、それともか一軒家を購入するしかない。
まずは、そのための資金作りをしている最中なのである。
すっかりエプロン姿が様になったナナシは、いまだに記憶が蘇るということが無い。
それでもいいか、とも思っているようで、今を満喫してさえいる。
彼女は失った物も多かったのだろう。
しかし、アイレーンに辿り着いてからというもの、その消失分を一気に埋めるかのように友人ができていった。
「ミート、あがったよー」
「は~い」
今日もライバー教会のスパゲティ屋は大繁盛だ。
カレーパンに続き作り上げたピロシキも好評。値段も手ごろとあって貧民層や中堅層らの昼食に引っ張りだこだ。
また、冷蔵庫も大活躍。ナナシの自由な時間を作ることに精を出している。
マリアンヌも氷の魔導器具を使いこなし、夏の熱さに苦しめられる者たちに氷菓を提供することを考えた。
それはこの茹だるような夏の時期に大ヒット。値段も安いという事で大人から子供までライバー教会に押し掛けた。
大いに賑わうライバー教会。それに便乗しライバー神の教えを広める事に熱を入れるズモン司祭は教会への寄付金の殆どを孤児たちに当てる。
こうして孤児たちは立派に成長し、教会から巣立ってゆく事ができた。
ナナシが来てから、このアイレーンも少しずつ変わってきている。
彼女は新しい風であり、新しい芽でもあった。
アルトフェイチ公爵はとある伝で、勇者ファインに剣を献上している。
それは、【誰も識別ができない】自称・鉄の剣であった。
この見事な一振りを手にした勇者は、いつぶりかになる笑顔を見せたという。
その柄に刻まれた、小さな紋章。それは、かつての友が愛用していた剣と同じものだったからだ。
それから二年が過ぎ、また春が来た。
「おっしゃぁぁぁぁぁっ! 一軒家だっ! なんでもかんでも作り放題っ!」
「そんなわけないじゃないですか。ズモン司祭様との約束を覚えていますか」
「忘れたい」
「ダメですっ」
遂にナナシは夢のマイホームを購入。中古品ではあるがまだまだ使用には耐える物件だ。
立地は少し悪いが、趣味で物を作って売る分には丁度いいだろう。
今のナナシには物を作るにしても、売るにしても条件が課せられていた。
したがって、糧を得るのは料理人。物を作って売るのは趣味を満たすもの、と割り切った形だ。
「おぉい、ナナシちゃん」
「新築……じゃないけどお祝い持ってきたよ!」
「エリドに、レリック! ありがとなっ! こっちも準備ばっちりだぜ!」
ナナシが購入した家は小さいながらも庭があり、そこでささやかなパーティーを催そうという流れになっている。
元々あった壊れかけのテーブルを捏ね直し、ゴッズランクに変化させたナナシは、用意した料理たちをそこに並べる。
これらの皿ももちろんゴッズランクであり、この世に二つとない見事な品々だ。
芸術家たちがこのように無造作に扱われている事を知ったら卒倒すること間違いなしである。
「へへっ、コップも作ったんだ」
「はい、アウトっ」
「え~? 個人使用なんだからいいじゃん」
「聖杯化しているじゃないですかっ」
「一度、酒を注いだら幾らでも湧いて出てくるんだぜ?」
「今回だけは許します」
「「買収されやがった」」
黄金の杯の能力に篭絡されしは正義と公平の女神の信徒である。
しかし、彼女はそれでも女神に愛されているという。
「かんぱ~い!」
「「「かんぱ~い!」」」
春の穏やかな午後。
爽やかな風が酒に酔って上昇する体温を攫ってゆく。
エリドとレリックのナナシ争奪戦は相変わらず。
ナナシは若干、エリドに気が向いているが、それが恋心かどうかは自身もよく分かっていない。
レリックも良き友人と思っている。積極的に迫っている事も理解している。
でも、お互いに仲が良くなりすぎていて、一歩を踏み出せていない状況だ。
そこを狙っているのが駄目シスタールーティーである。
もちろん、野望が達成されても何の意味もない。無駄な行為である。
「ふひ~、良い気分になってきた」
「そういえば、ナナシちゃんてドワーフだけど、そんなに酒が強くないね」
「うん、そうだなぁ。まぁ、酒代が抑えられて良いと思ってる」
「おい、エリド。酒で酔わせて、てのは無しだぞっ」
「ば、馬鹿野郎っ! そんなことするかよっ」
レリックとエリドは最近、一緒にダンジョンに潜っていた。
エリドは強くなるために。レリックも同様だが、彼の場合はエリドに追いつきたい、という願望があった。
彼と並び立ち、正々堂々とナナシを奪いたいと願っているのだ。
「さて、全部ここからだなぁ」
「自分の家とお店。夢でしたものね」
「まだまだ、ここからだよ。あの剣は抑えて作ったんだから」
「あれでまだ抑えていたんですか? あれ以上はもう誰も扱えないでしょうに」
ナナシの告白に呆れるルーティー。
褐色ドワーフに付き合ううちに、へっぽこシスターの識別魔法の熟練度は劇的に向上。
今ではマリアンヌに頼ることもなくなった。その分、先ほどのように邪悪な隠蔽もし易くなったが。
「さて、これからは頑張って素材を集めるぞぉ」
「その前に、強敵をどうにかしないと、ですね」
「カンヘム鉱石か。まだまだ、ダメなんだよな」
視線を向けた先には真っ黒い鉱石の山。
いまだに捏ねる事叶わぬ鉱石は、いつしかライバルと呼び合う仲になっていた。
「こうして考えると、やることは山積みだね」
「うん、止まってなんかいられないさ」
エリドとナナシは空を見上げる。
そこには決して止まらない白き者たちの姿。
なににも縛られず、何にでも姿を変える彼らはナナシの理想か。
「みんな、これからもよろしくな」
「今更ですね。この世の果てまでお付き合いしますわ」
「もちろんだよ、ナナシちゃん」
「オイラもさ」
改まってナナシはルーティー、エリド、レリックに感謝する。
その時、ナナシはカチャリと何かが閉じる音を聞いた。
しかし、それは彼女の頭の中で響く鍵の音。
もう、必要が無い物がしまわれた音だったのだろう。
「ま、いっか」
褐色ドワーフ娘は今日も忙しい日々を満喫する。
それが、自身の宝になることを確信しながら。
おしまい。
ひとまず完結です。お金が貯まったからね。これ以上はヤヴァイからね。
続きを書くならノベプラになるかもです。
では、呼んでくれた方々に感謝をっ。




