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人はそれを大根役者という

「殿下ぁ〜いらっしゃいま……痛っ!」


 満面の笑みを浮かべて殿下を出迎えるわたくしの姿をしたリアノラに、横から腕をつねる。


「演技! 演技!」


 小声でリアノラに注意すると、ハッ! としてリアノラはかなりわざとらしく殿下にそっぽを向いて「ヨウコソ、オコシ、クダサイマシタ」と挨拶をした。何故にカタコト……。昨夜の特訓が水の泡だ。


「あ、あぁ…………えーと、何故リアノラ嬢が同席してるんだ?」


 殿下は何やら顔を引きつらせながら、リアノラの横に居るわたくしに視線を向ける。


「あは〜ん? で、殿下ぁ? 私も殿下に会いたくて、カナルディア様の家に遊びに来てますの」


 わたくしの迫真の演技に何故か殿下の顔が更に引きつる。


「ちょっと、あんたこそ演技下手すぎでしょ!」

「何言ってるのよ、この完璧な演技に殿下も惚れ直すわよ。感謝なさい」


 コソコソと二人で囁き合っていると、殿下がコホンと咳払いをされた。


「あっ、殿下ぁ〜。こちらに、どうぞお座りになってく……痛いっ」


 今度はわたくしの腕をリアノラがつねる。


「言葉が丁寧すぎ。もっとフランクに!」


 うぐ……ついつい、これ迄つちかった淑女教育の成果が発揮されてしまう。む、難しいわね。リアノラになりきるって。てゆーか、王太子にフランクにって、それダメでしょ。


 取り敢えずソファーに座る事は出来たものの、無言でただお茶を飲む三人。沈黙が痛い……。


「……そういやディア、この間私が贈った本は読んでくれたか?」

「へ? ……ほ、ん……ですか?」


 殿下の問いにキョトンとするリアノラ。わたくしは慌てて小声で「隣国オルプルート王国の歴史書よ」と伝える。古代文明の本は読みつくしてしまったので、最近は近隣諸国の歴史を学んでいる。特に隣国オルプルート王国は『桃色☆ファンタジア』と同じ発売元の人気ゲームの舞台になっている国だ。どっちもプレイしていたから、とても興味深くて読むのが楽しい。


「ああ! あの本ですか。はいっ、勿論読みました~」

「我が国よりは歴史が浅いが、なかなか面白い歴史を辿っているだろう」

「はい~そうですねーっ」


 あぁ、全然わたくしらしくない。一つ一つの言葉が軽すぎるわ。これじゃお馬鹿丸出しじゃないの。


「…………。リアノラ嬢もどうだ、読んでみるか? プレゼントしたら受け取ってくれるか?」

「え、あ……はい」


 普段からリアノラにもプレゼントを贈ってるという事なのかしら。分かってはいるものの、ちょっと胸が痛いわ。


「ディアがリアノラ嬢と仲良くしている所を初めて見たよ。仲直りでもしたのかい?」

「うふっ、そうなんですよ殿下」

「……へぇ、そうなんだ」


 だから、その“うふっ”をわたくしの顔でしないでって言ってるのに! 全く人の言う事を聞かないんだからリアノラは。


「そ、そうですね。そんなところですわ……いえ、そんなところなんですぅぅぅぅぅ」

「…………ぶっ」


 突然、殿下が吹き出されて肩を震わせて笑いだした。思わず、リアノラと顔を見合わせる。リアノラも意味が分からないのか首を傾げている。――こんな殿下、初めて見るわ。


「いや、すまない……失礼した」

「?」

「いえ……」


 一体なにがツボにはまったのだろう。まぁ、殿下が楽しそうだからわたくしは構わないけれど。


 普段、殿下には冷たい態度ばかり取っているからこうやって素で笑った姿を見る事はあまりない。わたくしが悩ませてしまっているのは分かっているのだけど、出来れば殿下には幸せに笑っていて欲しいと願っている。


「今日はそろそろ失礼するよ」

「え、もう帰るんですか」

「……お気をつけてお帰り下さいませ、殿下」


 頭を下げたわたくしの手を何故か殿下が取られた。ビックリして顔を上げる。


「リアノラ嬢も遅くなると危ないから、私が邸まで送っていこう」

「えっ、いいえ、わたくし……私は結構、じゃなくて、大丈夫ですよぉ殿下」

「いいから、いいから」


 あれよあれよという間に、わたくしは王家の馬車に乗せられてしまう。そ、そうよね、殿下とリアノラは恋仲なんですもの。馬車くらい乗るわよね。混乱する頭を無理矢理そう言い聞かせる。落ち着け、落ち着くのよ、わたくしはリアノラ。ちゃんとリアノラらしく、殿下の恋人の振りをしなければ。


 え……でも待って。リアノラと殿下って、どこまで仲が進んでるのかしら。手……はきっと繋がれるわよね? その先とかは……ど、どうなのかしら。こ、恋人だもの、抱擁とかしてるかもしれないわよね? 殿下と抱擁!? そんなの、わたくし耐えられるかしら。わたくしだって、した事ないのよ。


 頭の中はグルグル状態だ。本当に何で入れ替わってしまったのだろう。


「……で? どういうつもりかな」

「はい?」


 走り出した馬車の中で、殿下が唐突に質問して来た。何のことを言ってるのだろう。


「二人で私をたぶらかしてるのかな?」

「な、なんの事でしょうか……」


 一瞬で現実に引き戻された。殿下の目が笑っていない。いや、見た目は王子スマイルをたやしていないのだが、実は瞳の奥で怒っておられるのをわたくしは知っている。


「何を企んでいるのかは知らないが、私の目を欺こうとしても無駄だよ」

「…………い、いやですわぁ~殿下ったら」

「――ディア。君はディアだろう」

「!?」


 な、なんですって!? バレたらアリになってしまうというのに、もうバレてしまったのー!?

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