条件とか無理だから
「ちょっと、どういう事か説明なさい!」
「そうよー何て事してくれてんのよぉ」
リアノラと二人で“自称神様”に詰め寄る。そんなわたくし達の様子に悪びれもせず、神様はしれっと告げる。
「これで少しは反省しなさい。ちゃんと、お互いの役柄を演じないと元には戻してあげないからね」
「何訳の分からない事をおっしゃってるの」
「演じるって何よ、てか元に戻れるって事?」
ふふん、とでも言いたげに神様は胸を張る。
「そうよ、ある条件さえ満たせば元に戻るわ」
「条件……」
「それより今すぐ戻しなさいよ」
リアノラが両手で神様を掴もうとするけど、スルリとかわされる。
「まずは、真実の愛を見つける事」
「はあ?」
「それならもう見つけてるじゃないの、殿下たちは私に皆夢中だもの」
リアノラが言う様に、今は攻略対象者たちが皆リアノラと“真実の愛”とやらを見つけた状態だ。ゲームでも実際、殿下が婚約破棄をしてくる時にそう告げる。という事は逆ハー状態を継続させろと言っているのだろうか。
神様は指をピースの形にして見せる。
「そして二つ目。貴方たちが仲良くなる事」
「それは……ちょっと……」
「そうよ、無理に決まってるわー」
そもそも前世から仲が良くないのだ。それを今更、仲良くなれと言われても困る。
「それから三つ目というか、しちゃダメな事ね。お互いが入れ替わっている事を、他の人に言わない事」
「……むう」
「もし言ったらどうなるの?」
「そうねぇ、その辺にいるアリとでも再び入れ替えちゃおうかしらね」
「なんですって!」
「絶対いやよ!」
中身ヒロインな悪役令嬢でも大変なのに、中身アリの悪役令嬢だなんて考えただけでも恐ろしい。ヒロインの中身がアリになろうが構わないけど、わたくし達は一生を働きアリとして過ごす……冗談じゃない。
「二人が仲良く協力し合って、他の人に入れ替わりをバレない様に互いを演じて、真実の愛を見つける。それが条件よ」
なんと難しい事を言ってくれるのだろうか。
「じゃ、そういう事で。ま・た・ね」
うふっ、という感じに微笑んで自称神様は姿を消した。残されたわたくし達は困った顔で互いを見つめる。
「…………こうなったら、仕方ないわ。何とか条件をクリアして元に戻るわよ!」
「あ~もう、何でこんな面倒臭い事になっちゃうかなぁ」
ブツブツを文句を言うリアノラを叱咤して、元に戻る為の対策を考える。
「とにかく、まずはお互いの役柄を上手く演じなきゃいけないわ」
「それなら大丈夫よぉ~私、演技は得意だもの。うふふ」
「何が得意よ、いつも大根芝居見せてるくせに。あぁ、わたくしの顔で“うふふ”とか笑わないで!」
「失礼ね! そっちこそ、私の顔でそんなキンキン声張り上げないでよ。もっと可愛く振る舞って!」
わたくしが築き上げてきた公爵令嬢としての振る舞いが、中身がリアノラになるだけでこんなに淑女らしからぬお粗末な令嬢になるだなんて。見ているだけでも頭が痛い。もし殿下の前で、わたくしの姿のまま“ぶりっ子”でもされたら恥ずかしくて生きていけないわ。とにかく、リアノラを教育しなければ!
「今日は週末だから丁度いいわ。わたくしの家について教育がてら、泊まらせて頂きますからね。ちゃんとわたくしの振りが出来る様に特訓よ!」
「うーわ、最悪ぅ。あぁ、もう面倒臭い、面倒臭い」
自分の家に泊まらせて貰うっていうのも変な話だが、今のわたくしはリアノラの姿なのだ。中身リアノラなわたくしが変な振る舞いをされては困るのよ。これでも王太子の婚約者でもあるのだから。元の姿に戻った時にわたくしの評判が地に落ちてしまってたら……嘆くに嘆ききれない。
文句ばかりを発するリアノラを無理矢理連れて、わたくしの邸……ケシュクリー公爵家へと向かった。